第7話「あの二人組みたいな真似だけはやめてくれ!」
どれほど意識を飛ばしていたのか――。
腹の奥を焼くような痛みと、ざわめきが耳を刺してきた。
瞼を開きかけて、俺はすぐにやめた。周囲を取り囲む気配。下手に動けば袋叩きだ。呼吸を殺し、耳だけを頼りに状況を探る。
「ねーねーヒーちゃん! さっきのアレって本当に、アタシの突きだったの……?」
――この声。俺を吹き飛ばした金髪の女だ。見た目は飾り人形みたいなくせに、拳は岩盤のようだった。あんなの、二度と御免だ。
「うん。でも、それは“ひまわりちゃんの力”よ。力をただ放つんじゃなくて、相手に“伝える”。それができれば、どんな技も無駄にはならない。今日の一撃で、その感覚を覚えてくれたらいいなって思ってたの」
落ち着いた黒髪の声。――俺を見つけた女だ。
なぜだ。俺の擬態は、あの悪魔のような二人組すら欺いたはずなのに。どうして、こいつには見抜かれた?
「確かに凄まじい威力でしたね……! あの一撃なら、どんな敵でも倒せそうです」
「まっ、まぁ……ひまわりにしては頑張った方なんじゃない?」
三つ編みのピンクと、青髪のおさげ。脇で気楽にしゃべってやがるが、連中も仲間に違いない。油断はできねぇ。
とはいえ、四対一。しかも、さっきの打撃で内臓がまだ悲鳴を上げている。今は気絶したふりでやり過ごすしかない。
「しかし、道中にこんな敵が隠れていたなんて驚きました。まだ気を失っているようですが、どうします?」
「このまま放っておいて先に進んだ方がいいんじゃない? いつ起きるかも分からないし」
「アタシは、この人が起きるの待った方がいいと思うけどな〜。ヒーちゃんは?」
……ふん。時間を潰してくれるなら好都合だ。休む暇さえあれば、このナナフシ様の真の力を――
「うーん。このヒトもう意識取り戻してるし、早く起こして色々と話を聞いた方がいいよ」
――なっ!?
心臓が跳ねた。冷や汗が背を伝う。まさか気づかれて――
「いでででででっ!」
腕を無造作に捻り上げられ、悲鳴が漏れた。耐えきれず目を開いた俺の視界に、赤水晶のような瞳が迫る。氷のように冷たい視線が、俺を貫いていた。
「やっぱり起きてたのね。おとなしくしていれば危害は加えない。ただし、暴れるなら……少し痛い思いをしてもらうわ」
呼吸が荒くなる。周囲を見やれば、拳銃を構えたビオラ、刀に手をかける桜。腕は金髪に捕らえられたまま。――完全に詰んでいる。
その光景に、胸の奥から過去の記憶が這い上がる。刃を抜く者の影。容赦なく骨を折る音。あのときの恐怖が、血肉に刻まれたまま蘇る。
「わ、分かった! 話す! 何でも話すから許してくれ! 頼むから切らないで! 折らないでくれ!!」
情けない声が勝手に口をついて出た。
異常なほどの降伏に、四人は互いに顔を見合わせる。ビオラが銃口を逸らさぬまま、冷えた声で問う。
「怪しいわね……。降参が早すぎる。絶対何か隠してるでしょ」
「ま、待て! 本当に企んでない! だから、だから……《《あの二人組》》みたいな真似だけはやめてくれ!」
「あの二人組……?」
桜の表情がわずかに揺らぐ。彼女の不安は俺ではなく――その名の指す者に向いていた。
「白髪の修道女と、金髪の尼僧だ! 頼む、思い出させないでくれ!」
空気が凍る。
ビオラが小さく息を呑み、ぽつりと呟いた。
「……蘭さんと菊さん、今度は何をやらかしたの……?」
その瞬間、四人の視線が俺に注がれる。
同情と、哀れみを帯びた視線だった。




