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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第二章 咲耶姫

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第7話「あの二人組みたいな真似だけはやめてくれ!」

どれほど意識を飛ばしていたのか――。

 腹の奥を焼くような痛みと、ざわめきが耳を刺してきた。

 瞼を開きかけて、俺はすぐにやめた。周囲を取り囲む気配。下手に動けば袋叩きだ。呼吸を殺し、耳だけを頼りに状況を探る。


「ねーねーヒーちゃん! さっきのアレって本当に、アタシの突きだったの……?」


 ――この声。俺を吹き飛ばした金髪の女だ。見た目は飾り人形みたいなくせに、拳は岩盤のようだった。あんなの、二度と御免だ。


「うん。でも、それは“ひまわりちゃんの力”よ。力をただ放つんじゃなくて、相手に“伝える”。それができれば、どんな技も無駄にはならない。今日の一撃で、その感覚を覚えてくれたらいいなって思ってたの」


 落ち着いた黒髪の声。――俺を見つけた女だ。

 なぜだ。俺の擬態は、あの悪魔のような二人組すら欺いたはずなのに。どうして、こいつには見抜かれた?


「確かに凄まじい威力でしたね……! あの一撃なら、どんな敵でも倒せそうです」


「まっ、まぁ……ひまわりにしては頑張った方なんじゃない?」


 三つ編みのピンクと、青髪のおさげ。脇で気楽にしゃべってやがるが、連中も仲間に違いない。油断はできねぇ。

 とはいえ、四対一。しかも、さっきの打撃で内臓がまだ悲鳴を上げている。今は気絶したふりでやり過ごすしかない。


「しかし、道中にこんな敵が隠れていたなんて驚きました。まだ気を失っているようですが、どうします?」


「このまま放っておいて先に進んだ方がいいんじゃない? いつ起きるかも分からないし」


「アタシは、この人が起きるの待った方がいいと思うけどな〜。ヒーちゃんは?」


 ……ふん。時間を潰してくれるなら好都合だ。休む暇さえあれば、このナナフシ様の真の力を――


「うーん。このヒトもう意識取り戻してるし、早く起こして色々と話を聞いた方がいいよ」


 ――なっ!?

 心臓が跳ねた。冷や汗が背を伝う。まさか気づかれて――


「いでででででっ!」


 腕を無造作に捻り上げられ、悲鳴が漏れた。耐えきれず目を開いた俺の視界に、赤水晶のような瞳が迫る。氷のように冷たい視線が、俺を貫いていた。


「やっぱり起きてたのね。おとなしくしていれば危害は加えない。ただし、暴れるなら……少し痛い思いをしてもらうわ」


 呼吸が荒くなる。周囲を見やれば、拳銃を構えたビオラ、刀に手をかける桜。腕は金髪に捕らえられたまま。――完全に詰んでいる。

 その光景に、胸の奥から過去の記憶が這い上がる。刃を抜く者の影。容赦なく骨を折る音。あのときの恐怖が、血肉に刻まれたまま蘇る。


「わ、分かった! 話す! 何でも話すから許してくれ! 頼むから切らないで! 折らないでくれ!!」


 情けない声が勝手に口をついて出た。

 異常なほどの降伏に、四人は互いに顔を見合わせる。ビオラが銃口を逸らさぬまま、冷えた声で問う。


「怪しいわね……。降参が早すぎる。絶対何か隠してるでしょ」


「ま、待て! 本当に企んでない! だから、だから……《《あの二人組》》みたいな真似だけはやめてくれ!」


「あの二人組……?」


 桜の表情がわずかに揺らぐ。彼女の不安は俺ではなく――その名の指す者に向いていた。


「白髪の修道女と、金髪の尼僧だ! 頼む、思い出させないでくれ!」


 空気が凍る。

 ビオラが小さく息を呑み、ぽつりと呟いた。


「……蘭さんと菊さん、今度は何をやらかしたの……?」


 その瞬間、四人の視線が俺に注がれる。

 同情と、哀れみを帯びた視線だった。

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