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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第一章 曼珠沙華

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第20話 「大丈夫よヒガンバナ」

 月明かりに照らされ、美しい赤色の花弁が何層にも重なり、一輪の花として咲いている。


 一輪のみでも十二分に存在感を放つことができるほど美しいが、ヒガンバナの目の前には、数えきれないほど多くの球根ベゴニアが咲き誇っていた。


 辺りを包み込むように上下左右様々な場所から咲いており、一見乱雑にも見えるが、どの花も整然と並んでおり、より美しさを際立たせている。


 全体の6割は赤色の花弁だが、至る所に白や黄色、オレンジなどの花弁を持つベゴニアの花もあり、それがアクセントとなって、まるで一つの芸術作品のような空間を創り上げていた。


「フフッ、あまりの美しさに声も出ないかしら?」


 ベゴニアが振り返りヒガンバナを見つめながら口を開く。

 その声を聞き、目の前の光景に見惚れていたヒガンバナが、ハッと我に返り慌てて返事をする。


「そう・・・ですね。ベゴニア様の花を初めて見ましたけど、こんなに綺麗だなんて・・・!」


「ここへ誰かを呼ぶことはあまりないからね。滅多に見れる景色じゃないのよ」


 いたずらっぽい笑顔を見せながらベゴニアが答える。

 それに対し、少し不安そうな顔でヒガンバナが質問をする。


「それなら、どうして私をここに連れてきてくれたんですか・・・?」


 ベゴニアとの付き合いが短いわけではないヒガンバナが初めて見るのだから、ひまわりや桜、それにビオラもまだ見たことはないだろう。

 この華園がベゴニアにとって特別な場所だという事は理解できたが、そんな場所へ自分を招待する理由がヒガンバナには分からなかった。

 ヒガンバナの素朴な質問に、ベゴニアは表情を和らげ優しい口調で返す。


「いつの時代もそう・・・・・・人が悩んだり落ち込んだりしてる時には、美しい華を見るのが1番なのよ」


 その言葉を聞き、ヒガンバナはベゴニアの優しさに触れ、泣きそうになったがぐっと堪える。

 ベゴニアはフッと穏やかに笑うと、ヒガンバナの近くまで行き、両手を伸ばし今にも泣き出しそうな顔を優しく包み込んだ。


「我慢しなくていいのよ。ここには貴方とワタシしかいない。誰に気を使う必要もない。涙も、悩みも、不安も、ワタシが全部受け止めてあげる・・・」

 

 ヒガンバナの頬を一筋の涙が伝う。そこから溢れるように次々と涙をこぼしながら、ベゴニアに心の内を打ち明けた。


「み、みんなを・・・守れなかった! 私には力があるのに・・・‼︎ この力を上手く使えれば誰も傷つかずに済んだのに!みんなが倒れるまで何も・・・出来なかった!」


 嗚咽まじりの声で話すヒガンバナに、ベゴニアは穏やかな微笑みのまま、ゆっくりと口を開いた。


「貴方は自分の出来ることを精一杯やった。その結果、みんな無事に帰ってこれたじゃない」


「無事なんかじゃないです! みんなぼろぼろになって・・・・・・立ってるのもやっとな状態だったんですよ!!」


 ヒガンバナの感情が爆発し、ベゴニアが触れていた両手を振り払うように首を左右に振る。

 ベゴニアは振り払われた両手を今度はヒガンバナの左手に添え、諭すような口調で話す。


「確かに無傷とは言えないけど、それがどうしたの? ワタシの前に来た時は、全員自分の足でしっかりと立っていた。出発前と変わらない・・・凛とした姿でね。それが大事なのよ。」 


「でも、本当ならもっと・・・」


 後悔の念に駆られ、顔を俯かせ涙をこぼしながら話すヒガンバナに対し、ベゴニアはなおも穏やかな表情を崩さず会話を続ける。


「なら貴方の仲間の内、誰か1人でもそれを望んだのかしら? 何でもっと早く闘ってくれなかったんだ、ヒガンバナのせいでこんな傷だらけになってしまった、とでも言われたの?」


「そんなこと言うはずがありません!みんなが・・・そんな・・・!」


 仲間を侮辱されたように感じたヒガンバナは、顔を上げすぐに反論をした。

 少し反抗的にも思える仕草に、ベゴニアはムッとするどころか、どこか嬉しそうな微笑みを返す。


「そう。貴方が1番よく分かってるじゃない」


 そう言うとベゴニアはヒガンバナを抱き寄せそっと頭を撫でる。


「大丈夫よヒガンバナ。貴方が思ってるよりあの子達は強いわ。ただ守られるだけの存在じゃない、貴方を助けてくれる大切な仲間なのよ。桜、ひまわり、ビオラの3人をもっと信じなさい」


「うっ・・・うぅ・・・!」


 ベゴニアの胸に抱かれ、その中で泣く事を止められないヒガンバナは、いつの間にか3人を自分が守るべき存在だと勘違いしていた事に気づかされた。

 

「今回の件で貴方が悩むことなんて一つもない。・・・たまたま貴方が少し活躍しただけのこと。次は貴方が助けられる番になるかもしれない・・・・・・そうやってお互いに助け合いながら進んでいきなさい」


「うぅ・・・はっ、はい・・・!」


 ベゴニアはヒガンバナが泣き止むまで抱きしめ、優しく頭を撫で続ける。

 周りに咲くベゴニアの花も、ヒガンバナの心を癒すように月明かりの下、美しく咲き誇っていた。

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