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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第一章 曼珠沙華
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第1話 「ただちょっと昆虫騎士団の輩どもを成敗しにいって欲しいだけだから」

「ヒーちゃん!早くしないとベゴニア様に怒られるよー」


 先頭を歩くひまわりが後ろにいるヒガンバナを囃し立てる。

 金色になびくショートカットの髪、健康的で温かみのある小麦色の肌、茶色の大きな瞳は太陽の光を反射したかのようにキラキラと輝いてる。服は白いTシャツに青色デニムのショートパンツ、外見からして活発で明るい子だと分かる。



「ひまわりちゃん、そんなに急がなくても間に合うって」


 声をかけられたヒガンバナは呆れたように言葉を返す。


 ひまわりとは対照的に黒く艶のあるロングヘアーに毛先のみ紅く染められた髪、赤水晶の瞳は宝石のように美しく、全てを見通すかのような不思議な力を感じる。彼女の着る赤いドレスと相まってより魅力的に映っている。



「あのヒト怒らせたらめっっっちゃ面倒くさいって知ってるでしょ⁉︎」


 両手をブンブンと振り、頬を膨らませながらヒガンバナに言い返す。気持ちの高鳴りを抑えられない様子だ。



「だから~、予定より早く到着するよう出てきてるから大丈夫だよ」

 

「そうよ、ひまわりさん。ベゴニア様にお呼ばれしたからってそんなに舞い上がっても仕方ないですよ。あのヒトが私達を呼ぶときは大概碌でもないお願いの方が多いんですから」


 ヒガンバナと一緒に歩く桜がひまわりを宥めようとする。


 薄桃色の髪は腰まで伸びているが、丁寧に三つ編みにまとめられており彼女の几帳面な性格が伺える。豊玉の瞳は相手を和ませるかのように優しく開いており、見るものを穏やかな気持ちにさせてくれる。桜の花びらが刺繍された美しい薄紅色の着物を着ているが、左腰には彼女には似つかわしくない大小2振の日本刀が差されている。



「桜ちゃんはそう言うけどっ!、もしかしたらこのトウキョウを出て、旅をしてもいいって許可をくれるのかもしれないじゃん!」


 桜の言葉に反応したひまわりは身体を桜の方に向け、胸の前で両手を組み祈るような仕草をとる。その表情には疑いの気持ちなど一切なく、ただただ期待に胸を膨らませ終始朗らかな笑みを浮かべている。



「絶対そんなことないよ!どうせそこら辺を彷徨いてる昆虫騎士団を倒してこいとかそんな話だって!」


 桜の後ろから顔を覗かせたビオラが反論するように言葉を浴びせる。


 淡い青色の髪を2つに分けたおさげ姿はどこか幼なげを感じ、身長も他の3人と比べると頭2つ分ほど低い。ぱっちりと開かれた藍色の瞳はサファイアのように透き通っていた。服装は白色のブラウスに黒のベスト、緑と青の縦縞模様が刺繍されたスカートに黒のブーツを履いている。背中には少女の身体の半分以上の長さのアサルトライフルを背負っており、右腰には拳銃が一丁装備されている。


「ビオラちゃんはいっつもそうやってネガティブなことばっかり言ってー。そんなんじゃ身長大きくならないよ!」


 ひまわりがビオラの前までいき、腰を曲げ視線を同じ高さに合わせたかと思うと、背を比べるように右手を自分とビオラの頭の上で振る。

 その仕草に怒ったビオラはひまわりの右手を勢いよく払いのけ、少し涙ながらに言い返す。



「身長は関係ないでしょう!! 私もいつか桜お姉ちゃんみたいに大きくなって、ひまわりのこと上から見下ろしてあげるんだから!」

 

「2人とも喧嘩はやめなよ~。同じ仲間なんだから仲良くしないと」


 ヒガンバナが2人の間に入り仲裁をする。ひまわりは両手を揃え「ごめんごめん」と謝るとビオラから離れる。それでも怒りが収まらないのか今度はヒガンバナに対して八つ当たりをする。



「ヒガンバナちゃんみたいにスタイルよくて身長もちょうどいいヒトには私の気持ちなんて分かんないんだ!うぇ~~ん、桜お姉ちゃ~ん!!」


 桜に抱きつき胸に顔を埋め泣き出すビオラ。そのビオラの頭を優しく撫でながら桜が呟く。


「よしよし、あんまり泣くと可愛いお顔が台無しですよ。ビオラさんは今のままで十分可憐ですから身長なんて気にしなくていいんですから」


「そうかな、えへへ~!桜お姉ちゃんがそう言うなら間違いないか!」

 ビオラも桜に言われたことが嬉しくてすぐに泣くのをやめ満面の笑みで答える。

 そんなやりとりをしていると目的地であるベゴニアが住む皇居、その入り口である坂下門の前に到着した。


「久しぶりにきたけどやっぱりここの門はおっきいねー!」


「毎回ここの門の前にくると緊張してきちゃうな」


「早くミツバチの兵隊さんたちにお話して中に入れてもらいましょう」


「あんまりいい予感しないから入りたくないよ、桜お姉ちゃん」


 それぞれが門の前で話していると、門を警備するミツバチが声をかけてきた。


 黒の制帽と儀仗服を着用し、髪は金色ながら短く整えられ、清潔感にあふれている。左腰にはサーベルが差されており、いつでも抜けるようにか左手を柄に添えていた。


「これはこれは、お疲れ様です4方殿」


 4人を見たミツバチは優しい口調でそう告げると、サーベルに添えていた左手を垂直におろし、こめかみ辺りに右手をかざし敬礼の姿勢をとる。


「お話は伺っております。宮殿、松の間にてベゴニア様がお待ちになっておられますよ。何やら大切なお話があるとかで……、来なかったら無理矢理にでも見つけて連れてこい!、と申しつけられていたので安心しました」


 元の姿勢に戻ったミツバチがホッとした表情を見せながら喋る。よほど小言を言われていたのか、胸を撫で下ろす仕草が見てとれる。



「「「う~~わ絶対碌でもない話だ」」」

 

 ひまわりを除く3人が口をそろえて声に出していた。



「なんで皆そんなこと言うの⁉︎ もしかしたらいい話かもしれないじゃん!


 3人を見ながらひまわりが必死に反論するが、その表情はどこか自信がなく、ひまわり本人も薄々勘付いているようだ。


「まぁ…… ひまわりちゃんの言う通りかもしれないし、とりあえず話だけは聞きにいこうか」


 半ば諦めたような口ぶりで桜とビオラに問いかけ、2人もそれに渋々首を縦に振る。



「それではいってらっしゃいませ。お帰りの際よい報告が聞けることを楽しみにしておりますよ」


 にこやかに言うとミツバチは再度敬礼を行い、4人の姿が見えなくなるまで姿勢を変えず見送った。





 松の間まで通された4人はそれぞれ、ヒガンバナ、ひまわり、桜、ビオラの順に横一列に並び、正面に座るベゴニアに対し深々とお辞儀をする。

 数秒後、全員が元の姿勢に戻ったのを確認したベゴニアはおもむろに口を開く。


「よく来てくれたわね。4人とも歓迎するわ。もし来なかったらミツバチの仕事が増えて大変なことになる所だったわよ。」


 松の間の中央に置かれた大きな椅子の上に座るベゴニアは淡々とした口調で話す。


 赤を基調とし、一部が白や黄色など鮮やかに染められた長髪は光沢を帯びて美しく靡いている。端正な顔立ちはかつて世界一美しい花と言われた球根ベゴニアを体現したかのようだ。貴族風のロングドレスが彼女の美しさをさらに引き立てる。



「今回は…どういったご用件で私達をお呼びになったのですか?」

 

 4人を代表してヒガンバナが恐る恐る問いかける。


「そんなに警戒しなくてもいいのよヒガンバナ。ただちょっと昆虫騎士団の輩どもを成敗しにいって欲しいだけだから」


 左手で頬杖をつきながらヒガンバナの問いかけに答える。



「やっぱり私の言った通りじゃん…」


「何か言ったかしら?ビオラ」


「いえっ!何でもありません!」

 ベゴニアに小言を聞かれたビオラは慌てて首を振り否定する。

 

 これから告げられるであろう碌でもないお願いを聞くことを決めた4人であった。


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