第14話 「謝る必要なんて、どこにもありませんよ。」
ヒガンバナが目を開くと、そこには[志ん橋]と書かれた大提灯、奥には浅草寺の本堂があり、ヒガンバナは華園から戻ってきたことを確認した。
クロカタゾウムシと会った時、日はまだ昇っていたが、いつのまにか黄昏時になっており、夕陽が辺りを黄金色に染めていた。
ヒガンバナが後ろを振り返ると、本堂の広場一面には彼岸花が咲き乱れている。
夕陽に照らされ、紅く美しく咲く彼岸花を見て、少し哀しい表情を見せたヒガンバナは、
「皆んなは・・・⁉︎」
辺りをくまなく見渡すと、少し離れた場所で3人の姿を確認出来た。ひまわりとビオラが並んで仰向けで倒れており、桜はその2人のすぐそばで、膝をつき両手をそれぞれの頭に乗せ、治癒魔法をかけている。
「桜ちゃん!、ひまわりちゃん!、ビオラちゃん!」
名前を叫ぶとすぐに走って3人に駆け寄った。
その声を聞いた桜は首だけ振り返り、ヒガンバナを見つけると、それまでの険しい表情から一変、安堵したように目尻が下がり、優しい微笑みを返す。
「ヒガンバナさん・・・!ご無事で何よりです」
「桜ちゃんも大丈夫だった⁉︎・・・・・・2人の様子はどう・・・?」
桜の優しい声に少し涙目になりながらも、3人のすぐそばまで来たヒガンバナは、不安そうな顔で桜を見つめる。
「もう少しで目が覚めると思いますよ。幸い大きな傷は負っていないみたいでしたので・・・。ただ、私もつい先ほど目が覚めたばかりであまり状況を把握出来てないのですが・・・・・・」
「とりあえずあのクロカタゾウムシってヒトはもう襲ってこないから大丈夫!・・・でも、あのヒトの部下は今どこにいるか分からないし、もし他の場所で悪さしてるのなら早く行って止めなきゃ!・・・・・・だけど・・・」
桜の問いかけに始めは元気に答えていたヒガンバナも、クロカタゾウムシの部下の存在を思い出し、更に負傷した仲間を見て、また闘いに行くことを躊躇するように声が小さくなり、顔を俯かせてしまう。
その様子を察した桜は、曇りかけたヒガンバナの表情を和らげるように微笑み、穏やかな口調で話し始める。
「私のことでしたらご心配には及びません。すぐにでも闘えますよ!・・・ビオラさんとひまわりさんには、無理をさせたく無いので・・・・・・ヒガンバナさんと私の2人でやっつけちゃいましょう!」
「桜ちゃんだって!・・・・・・ううん、そうだね!2人でやっつけちゃおうか・・・!」
桜も、ビオラやひまわりと同様にダメージが残っているが、その事で心配をかけまいとして放った言葉だったのを当然理解していたヒガンバナは、桜の優しさを無碍ににしない為にも、俯かせていた顔を上げ、笑顔で答えた。
「うぅ・・・・・・!はっ!アイツは⁉︎」
「あっ・・・・・・れ・・・ここは・・・?」
ヒガンバナの答えに呼応するように、ひまわりとビオラが同時に目を覚ました。
ひまわりはまだ闘いが終わってないと思い、目を覚ました瞬間、すぐに身体を起こし、辺りを見回す。
ビオラは記憶が曖昧なのか、ぼんやりとした表情で空を眺めている。
「ひまわりちゃん!、ビオラちゃん!、良かった・・・!」
ひまわりとビオラの目覚めに安堵したヒガンバナは、それまで張り詰めていた緊張が一気に途切れたようで、その場にへたり込んだ。
「ヒーちゃん⁉︎大丈夫・・・?それに、これって・・・・・・そっか、ヒーちゃんがアイツを倒してくれたんだね!ありがとう‼︎」
辺り一面に咲く彼岸花を見渡しながら、自分が気を失っている間に起きた出来事を理解したひまわりは、へたり込んでいたヒガンバナに抱きつき、笑顔を見せる。
「お礼なんてそんな・・・!こっちこそありがとうね・・・」
ひまわりにお礼を返すように、ヒガンバナもひまわりを強く抱きしめる。
その様子を慈しむように眺めていた桜は、まだ意識がぼんやりとしているビオラの頭を自身の太ももに乗せ、膝枕の体制を作り、優しくビオラの頭を撫でる。
「桜お姉ちゃん・・・?ごめんね、私全然役に立てなくて・・・こんなにやられちゃったし・・・」
「謝る必要なんて、どこにもありませんよ。立派に闘ってくれた証じゃないですか!・・・自信を持っていいんですよ!」
「そうかな・・・、えへへ〜!」
最初は落ち込んでいたビオラも、桜の言葉に元気をもらったようで、すぐに笑顔になった。
それぞれのやり取りが終わり、ヒガンバナはひまわりを支えるように肩を貸し、桜はビオラをおんぶする形で浅草寺を後にする。
4人を見送るかの如く、幾千に咲いた彼岸花が揺れていた。
浅草寺を出た4人はクロカタゾウムシの部下を探すべく、来た道とは別のルートで旧上野駅までの道のりを歩いていた。
「おそらく結界を出てすぐに襲ってきた方々が、クロカタゾウムシの部下で、先遣隊のような役割だったのでしょう。浅草寺までの道のりで、他の者に出会わなかったのは、運がよかっただけだったかもしれません。何せ相手は1000人ほどいるらしいですから・・・」
「何人いても、アタシが全員倒しちゃうから大丈夫だよー!」
桜の言葉に反応したひまわりが、左手を上げ、いつでも闘えるとアピールしている。
「ひまわりは休んでなさいよ!数が多いなら私のライフルで一網打尽にしてやるんだから!」
桜におんぶされた状態のビオラが、首だけをひまわりに向け、反発するように言葉を返す。
「ひまわりちゃんもビオラちゃんも今日は絶対に闘ったら駄目!!もし見つけても、私と桜ちゃんで闘うから2人はおとなしく休んでて!」
ひまわり肩を貸しながら歩くヒガンバナが怒った口調で2人を抑制する。
そのやり取りを微笑ましく聞いていた桜が、遠くに見える光景に気がつき、少し安心した様子で口を開いた。
「どうやら敵に会う心配は無さそうですね。あの2人が先にやってくれたようです」
「「「ああ〜〜、ご愁傷様」」」
桜の言葉に気がついた3人が声を揃えて呟く。
4人の目線の先には、まるで対立するかのように、右には蘭の花、左には菊の花が咲き乱れていた。




