第13話 「美しき彼岸の世界へ・・・アナタを誘いましょう」
「もう終わり?」
地面に横たわるクロカタゾウムシを見下すように見つめながら、冷たい口調でヒガンバナは問いかける。
「クッ・・・ソ・・・・・・がぁ!・・・はぁ、はぁ・・・!」
息も絶え絶えながら、両手を地面につき、何とか立ちあがろうとする。
しかし、ヒガンバナに投げられ続けた結果、脳が揺れ、平衡感覚を保つことが出来なくなり、上手く立ち上がれなかった。
それでも立ち上がろうと、ゆっくり体を動かし、右膝を立たせ、その上に両手をのせ力いっぱい押すことでフラつきながらも立ち上がる。
「はぁ・・・!おかしいだろ!一体オレに何をした⁉︎」
「何って、アナタが向かって来るから投げただけじゃない?」
「違う‼︎・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・!オレの頭に何をしたかって聞いてんだ!これだけ好き放題やられてるってのに、オレの頭が嬢ちゃんの目を潰せって命令してくんだ!・・・はぁ・・・!今も気を抜くとまた無策で突っ込もうとしちまう‼︎」
両手で自身の頭を掴み、何か見えないものを必死に振り払うように抵抗するクロカタゾウムシ。
その姿をじっと見つめ、ゆっくりとクロカタゾウムシに歩み寄るヒガンバナ。
「さっきも言ったでしょ?思考が紅に染まるって。此処がただの華園だと思ってるのなら、とんだ勘違いね。・・・これから彼岸へ旅立つアナタに手向けとして教えてあげる」
あと一歩でクロカタゾウムシの拳が届きそうな位置まで近づいたヒガンバナは、その場で立ち止まると、辺りに広がる彼岸花を見渡しながら話し始めた。
「千紫万紅・・・・・・己の華園を創り出す能力よ。全ての華乙女達が使えるはずなんだけど、・・・今はまだ、その力に目覚めてないヒトが多いから、知らないのも無理はないわ」
「そういえば・・・・・・はぁ、此処に連れて来られる前、嬢ちゃんが同じ言葉を呟いていたな・・・はぁ・・・」
先ほどまで喋るのも辛そうだったクロカタゾウムシだったが、少し回復したのか、両手を頭から離し下に下げると、呼吸を正しながらヒガンバナの話に相槌を打つ。
「少しは体力が戻ったみたいね。・・・・本来この力は、枯れた土地に己の華を咲かせ、自然を豊かにするために使うものだけど、自身が敵と判断した者を一緒に連れて来た場合、その者を排除するための能力が与えられるの」
「排除するための・・・・・・能力・・・?」
「そう。その能力は個々によって様々だけど、私の場合は、相手の思考を少しだけ変えることが出来るのよ」
そう言うとヒガンバナは、自身の目を強調するように指差し、説明を続ける。
「この目に嫌悪感を抱かせ、ここしか攻撃できないようにさせる。いくら躱されて反撃されようが、構わず私に向かってくるようにさせる。相手の身体が動かなくなるまでね」
「どおりで、はぁ・・・・・・さっきから、嬢ちゃんの目が気に入らねぇと思ってたんだ。で、そんな大事な事教えちまってよかったのか?おかげで少し冷静になれたから、オレとしては助かったが・・・」
完全にとまではいかないものの、これまでの会話で、ある程度呼吸を正すことが出来たクロカタゾウムシは、ニヤリと笑うと下げていた拳を上げ、いつでも殴りかかれるよう構える。
「問題ないわ。いずれその事に違和感を覚えることも出来なくなるから。アナタが今、私を殴ろうと構えてるのが何よりの証拠ね」
「は?・・・いったいどういう・・・・・・っ‼︎」
何気なくとった自身の行動に気づき、ヒガンバナの放った言葉の意味を理解したクロカタゾウムシは、この華園にきて初めて恐怖した。
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おいっ!オレは今何をしようとした⁉︎
さっきの話を聞いて、まだあの目を狙おうとしてなかったか⁉︎
おっ・・・おかしいぞ!!!冷静になれ!どうやったらあの目を確実に潰せ・・・・・・違う!!
あの目のことは考えるな!!今はどうすれば此処を出られるかを考えるべきだ!
アイツが言ったことが正しいなら、今!、何とかしないと手遅れになる!
まだあの目のこと以外を考えられるうちに・・・・・・。
そうか、分かったぞ!!アイツの目を潰せばいいんだ!そうすればこんなに悩まなくても済むじゃないか!!
何が、思考が紅に染まる・・・だ!
オレはこんなにも冷静に、アイツの目を潰すことを考えられてるじゃないか!!
よし!早いとこ目を潰して此処から出よう!!
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「うおおおおおお!!!!」
一瞬身体が硬直し、顔を恐怖で歪ませていたクロカタゾウムシだったが、何かが吹っ切れたように雄叫びをあげ、再びヒガンバナの顔を目掛けて拳を振るった。
「哀れね」
身体を横にずらし難なく躱すと、ヒガンバナは数メートルほど後ろに下り、初めて両手を前に出し、クロカタゾウムシに止めを刺すため構えをとった。
「美しき彼岸の世界へ・・・アナタを誘いましょう」
「その目でオレを見るなーーー!!!!」
半狂乱になったクロカタゾウムシがスピードを上げ、ヒガンバナに向かっていく。
渾身の一撃をヒガンバナに放つも、前に出された両手で軌道をずらされてしまい、拳が顔面に届くことはなかった。
拳の勢いを殺すことなく躱すと同時にクロカタゾウムシの足を払い、身体を宙に浮かすと、両手をクロカタゾウムシの左胸の部分に当て、一気に身体ごと地面に叩きつける。
「寂滅輪廻・・・!」
全ての衝撃を身体の内部に持っていくことで、クロカタゾウムシの心臓を直接触れることなく破裂させた。
「ガハッ・・・・・・!ウゥ・・・!」
クロカタゾウムシは口から血を吐き出すと、そのまま力なく事切れた。
「・・・・・・彼の岸を渡れたようね・・・」
クロカタゾウムシの胸から手を離し、その場でヒガンバナは目を閉じて両手を合わせる。
すると、まるで地面が自らの意思を持ったように自然と動き始め、クロカタゾウムシの身体をゆっくりと埋めていった。




