第12話 「そろそろね」
クロカタゾウムシの拳がヒガンバナの顔面を捉える刹那、
「甘いのよ」
ぽつりと呟くと、迫り来る拳を冷静に観察し、首を軽く右に振ることで、いとも簡単に躱してしまう。
さらに、躱した腕を掴んで上に引っ張ることで位置を反転させ、それまで地面に寝そべっていたクロカタゾウムシの身体が宙に浮いた。
反対に地面に横たわる形になったヒガンバナは、2本の足でクロカタゾウムシの顎を蹴り上げる。
「ヴッッ!」
顎を蹴り上げられた衝撃で、掴んでいた手を離してしまい、そのまま後ろに倒れ込みそうになったクロカタゾウムシだったが、空中で身体を回転させ、何とか足から着地することが出来た。
「ヒュ〜‼︎とんでもなく強えな嬢ちゃん!危うく顎が無くなるところだったぜ!」
蹴られた自身の顎をさすりながら語るクロカタゾウムシの口調には、全く焦りの色は見えず、表情も依然笑っている。
「しかし気になるな・・・。そんだけ闘えるなら、何でお仲間がやられてる時に助けてやんなかったんだ?・・・あ〜!実は仲間とかじゃなく、ただ一緒にいるだけの連中でホントは嫌いだったとかか⁉︎それとも奴らがやられてる姿を見るのが好きなだけか⁉︎どちらにせよ、ロクな性格じゃない事だけは確かだな」
フッと鼻で笑いながら、ヒガンバナを挑発するように大袈裟な身振りで話す。
その発言に一瞬、顔をしかめクロカタゾウムシを睨みつけるが、すぐに目を閉じ、息を深く吐くことで感情的にならないよう抑えている。
「この力は、私に敵意を向けた者に対してのみ使える力。・・・誰かと協力して闘おうとしても上手く扱えない!だから・・・皆んなが闘ってる間、私は見てることしか出来なかった‼︎」
最初は冷静さを取り戻したかに思えたが、言葉が進むにつれ、己の不甲斐なさ、あの時助けられなかった後悔の念が押し寄せてきて声を荒げてしまう。
「でも・・・・・・此処にくれば何の問題もないの。この華園には私とアナタしか居ない。だからアナタは私を狙うしかなくなる。さぁ、早く終わらせましょう」
左手を伸ばし手のひらを上に向け手招きをする。これまで挑発され続けてきたヒガンバナが、今度は逆にクロカタゾウムシを挑発する。
「流石にオレもバカじゃねぇ。散々やられっぱなしの状況で、さらに無策で突っ込むほど頭イカれてねえよ。オレと嬢ちゃんしか、ここに居ないならむしろ好都合だ。少し考えさせてもらうよ」
「好きにしなさい。ただ、考えれば考えるほどアナタの思考は紅に染まっていくわ」
ヒガンバナがこれまでにないほど不気味な笑みを見せる。
その笑みに釣られるように、この華園の主である彼岸花は、風がないにも関わらず、まるで誰かを誘うように左右に揺れていた。
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しかし、まいったな。あれだけ殴りかかって一回も当てられないとなると、攻め方を変える必要がある。
今のところ、あの嬢ちゃんが自分から攻撃する気は無さそうだから、オレが下手に手を出す必要もねぇだろ。
なんせオレの技は全部避けられるのに、嬢ちゃんは見事にカウンターくらわしてくるしな〜。
いくらそのカウンターも、オレには大して効かないつってもやられっぱなしは気分悪いしよ〜。
・・・・・・そうだよ!
こんなやられっぱなしのまま終われる訳がねぇ!当らねえなら当たるまで殴ればいいんだ!
あれこれ考える必要なんてねえんだよ!
あのニヤけ面に1発ぶち込まないと気がすまねぇ!
よく見ると気に食わない面してるしな!
特にアイツの目が気に入らねえ!!
あの紅い目のせいでオレの攻撃は全部避けられるんだ!あの目さえ潰せれば楽に勝てる!
よし、目を潰そう!!
それ以外何も考える必要はねぇ!
潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す!!!!
あれ・・・・・・?
何かおかしい気もするが・・・・・・まぁいいか!
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クロカタゾウムシが両腕を組み、ヒガンバナを睨みつけながらぶつぶつと独り言を呟いている間、ヒガンバナも視線を逸らすことなく、じっとクロカタゾウムシの目を見つめていた。
「そろそろね」
ヒガンバナがぽつりと呟いた瞬間、
「潰す潰す潰す潰す潰す!!うおおおおーーー!!!」
クロカタゾウムシが凄まじい雄叫びを上げながら突っ込んでくる。
右腕を大きく振りかぶり、ヒガンバナの顔を殴るために拳を突き出す。
ヒガンバナは身体を少し横にずらして軽々とその拳を避ける。
同時に軽く右足を出し、クロカタゾウムシの足に引っかけると、勢いよく突っ込んできたため途中で身体を止めることも出来ず、綺麗に転かされてしまい、顔面から地面に倒れ込んだ。
「潰すーー!!」
すぐに起き上がり、再度ヒガンバナに突っ込んでいき、同じように殴るため腕を伸ばす。
その腕を取り、身体を反転させ一本背負いを決め、頭から地面に叩きつける。
首の根本まで埋まるほどの衝撃にも関わらず、クロカタゾウムシの身体には一切の傷も見られなかった。
地面から顔を抜き出し、左右にぶんぶんと首を振った後、クロカタゾウムシは息を切らしながらヒガンバナを睨みつける。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・!潰す!!」
「まだまだ動けるでしょ?かかってきなさい」
ヒガンバナは息一つ乱さず、無表情で淡々と告げる。
「クソがーーーー!!!」
クロカタゾウムシが立ち上がり、これまでと同じように殴りかかる。
ヒガンバナもこれまでと同じように軽々と攻撃を避け、腕を取り地面に投げつける。
何度も攻撃を躱され、その度に投げられるにも関わらず、クロカタゾウムシは攻撃を辞めようとせず、無謀にもヒガンバナに突っ込んでいく。
避けられては投げられるを10回ほど繰り返した後、ついにクロカタゾウムシの動きが止まった。




