第11話 「あの花達が美しく咲き続けるために頑張ってもらってるわ」
まるで紅い絨毯を敷き詰めた様に咲き誇る彼岸花を前に、クロカタゾウムシは困惑していた。
「どうなってんだ・・・・・・こりゃ・・・?」
先ほどまでは日が昇っており、明るかった筈が、いつの間にか夜の様に辺りは暗く、月が太陽の代わりに周辺を妖しく照らしている。
その月の光を受け、美しく咲く彼岸花に目を向け、クロカタゾウムシは何かを思い出した様に喋り始めた。
「そういえばここに来る途中、これと同じ花が異様に咲いていた場所があったが・・・あれも嬢ちゃんの仕業だったのか?」
「そうね。・・・以前、アナタと同じ昆虫騎士団のヒトと闘った時に使ったものの名残りよ」
辺り一面に咲く彼岸花を見渡し、どこか満足そうな笑みを浮かべながらヒガンバナは答える。
「なるほどな。因みにソイツは今どうしてるんだ?」
周囲を窺うように視線を移動させ、腰に手を当てた状態で質問をする。
ヒガンバナは、それまで浮かべていた笑みをやめ、能面の様な無表情で淡々と口を開く。
「今も地面の下で、あの花達が美しく咲き続けるために頑張ってもらってるわ」
「そういうことか・・・。それで?これから嬢ちゃんはオレをどうする気なんだ?」
初めて見た情景に最初は困惑していたものの、ヒガンバナとの会話で落ち着きを取り戻したクロカタゾウムシは、再び邪悪な笑みを見せる。
その笑みとは対照的に、尚も無表情にクロカタゾウムシの目を見つめ、ヒガンバナは答えを返す。
「最初に言った通りよ。アナタには、その装甲に傷一つつけることなく死んでもらうわ」
「ファッッハッハッ!面白い冗談だな!なら、どうやってオレを殺すか見せてもらおうか!!」
最後の言葉を発すると同時にクロカタゾウムシが殴りかかる。ヒガンバナはその拳を軽く受け流し、そのまま相手の腕を掴んで地面に投げつける。
ドスッ!と鈍い音と共に地面に叩きつけられたクロカタゾウムシ。その衝撃により近くに咲いていた彼岸花の花弁が舞う。
その花弁を見つめながら、先ほどと変わらぬ笑みを浮かべる。すぐに起き上がり、ヒガンバナから少し距離を取るように後ろに下がった。
「ファッ!さっきのはちょっと効いたぜ!だが、あんなのでオレを殺せると思ってるんなら、・・・・・・随分と舐められたもんだな」
「別に舐めてなんかいないわよ。アナタにそんな感情抱くのすら煩わしい。此処にはずっといたい気分だけど、皆んなを早く治療させてあげたいから急がなきゃね」
そう口にしながら、まるで散歩するかのように軽い足取りでクロカタゾウムシに近づいていく。
「そうかい、そうかい。ならオレも本気でいかせてもらおうかなっ!」
ヒガンバナが近づいてきて間合いに入った瞬間、強烈な前蹴りを放ったクロカタゾウムシ。
しかし、その蹴りもヒガンバナに当たることはなく、身体を横にして蹴りを空振りにさせた後、その蹴り足を掴んで上に持ち上げる。それと同時に残った軸足を蹴り払い、クロカタゾウムシの身体を一瞬空中に浮かせると、そのまま頭を掴み、一気に全体重をかけ地面に叩きつけた。
「そのままこの花達の養分になりなさい」
頭だけ地面に突き刺さったクロカタゾウムシを見下しながら、ゆっくりと手を離す。
体勢を戻そうとした瞬間、ヒガンバナの離した手を逆に掴み、地面から顔を上げたクロカタゾウムシはニヤリと笑った。
「代わりに嬢ちゃんが養分になってやんな!」
掴んだ手を力任せに引っ張り、勢いよく近づいてきたヒガンバナの顔面目掛けて拳を放った。




