第10話 「千紫万紅・・・・・・曼珠沙華」
「霞神楽・・・二の太刀‼︎」
真っ直ぐな軌道を描き、クロカタゾウムシの頭上に振り下ろされた刀は、頭部に届くことはなく、クロカタゾウムシの左腕によって遮られてしまう。
「くっ・・・・・!」
左腕で止めらた刀に力を込め、圧し切ろうとするも、カチカチと音を立てるだけで切れる気配がない。
「力も大したことねぇし、切れない刀振り回すだけじゃ意味ねぇぞ!」
左腕を振り、桜の刀を弾いた勢いを利用し、そのまま顔面を殴りつけようとする。
拳が当たる寸前のところを刀で受け、直撃は免れたものの、力に押されて2、3歩後退りしてしまう。
素早く体勢を立て直し、刀を中段に構える桜を余裕の表情で待つクロカタゾウムシ。
「これ以上やっても無駄だと思うが、まだやるかい?嬢ちゃん」
「ずいぶんと舐められたものですね!」
桜は少し顔をしかめながら、若干怒りのこもった声で返す。心を落ち着かせて冷静に対応するつもりが、刃が全く届かなかった事実が桜の焦りを募らせてしまう。
「まぁ、実際舐めてるからな。少なくともライフルと刀の嬢ちゃん達じゃ、どう頑張ってもオレには勝てんよ。実力云々より相性が悪すぎるからな」
「じゃあアタシなら勝てるかも・・・ねっ!」
クロカタゾウムシの懐に潜り込んだひまわりが正拳突きを放つ。
拳は腹部に当たったものの効果はなく、ひまわり自身も手ごたえのなさに危機感を覚える。
そんなひまわりを見下しながら、口を大きく開き笑うクロカタゾウムシ。
「ファッッハッハッ!さっきの2人に比べるとかなりいい攻撃だったぞ嬢ちゃん!だが、オレに言わせればまだまだだかな!」
ひまわりを追い払うように大振りな蹴りを放つ。その蹴りを後ろに下がることで避け、すぐに攻撃できる体勢を取っていたひまわりだったが、追撃することなくその場に留まったままだった。
「この流れだとすぐに黒髪の嬢ちゃんが攻撃してくると思ったが・・・どうした?怖気ついちまったか?」
ヒガンバナに視線を移し挑発するように話しかける。
それに対し表情を変えることなくヒガンバナは淡々と言葉を返す。
「たまには貴方から攻撃して来てもいいんじゃないかしら?それとも貴方の方こそ私が怖いんじゃない?」
「ファッッハッハッなるほど・・・!オレは優しいからその安い挑発に乗ってやるよ!」
クロカタゾウムシがヒガンバナ目掛けて拳を振るう。
「せいっ!」
「うぉっと⁉︎危ねぇ・・・!」
クロカタゾウムシの拳を受け流すと同時に肘を押し上げて関節を折ろうとする。しかし肘を押し上げられた瞬間、身体ごと飛ぶことで折られることを回避したクロカタゾウムシは、これまでにないほどの笑顔でヒガンバナを見つめた。
「いいね、嬢ちゃん!危うく腕が折られるところだったぞ!それだけの技を持ってて何で向かって来ないんだ?何にせよ黒髪の嬢ちゃんが1番楽しめそうだ!」
そう言い放つと、クロカタゾウムシはその場で腕を組み仁王立ちのまま、更に声を張り上げて叫ぶ。
「さて嬢ちゃん達‼︎もっとオレを楽しませてくれよ!この鍛え抜かれた肉体美と装甲を思う存分使わせてくれ‼︎」
その言葉を聞き最初に反応したのはひまわりだった。
「さっきはダメだったけどアタシも全力で攻撃してやる!」
先ほど覚えた危機感を払拭するようにクロカタゾウムシに突っ込んでいき、硬い装甲に覆われた全身に幾度となく拳と蹴りを放つ。
しかし、仁王立ちしたままのクロカタゾウムシにダメージを与えるどころか、その場から一歩も動かすことが出来ない。
「これならどうだ‼︎慈恩!」
ひまわりがクロカタゾウムシの腹部に強烈な右正拳突きを叩き込む。
渾身の突きを放ったにも関わらず、全く効いていない。
全ての攻撃を防御することなく受けきったクロカタゾウムシは、不敵な笑みを浮かべ、ひまわりの右腕を掴む。
「ファッッハッハッ!!なかなかいい突きだ!しかし、その程度の拳ではオレの装甲は砕けんよっ!」
右腕を掴んだまま力任せに引っ張り、ひまわりの全身を地面に叩きつける。
ドンッッ!!
鈍い音が響く。
声を上げる間もなく気絶したひまわりに対し、右脚を上げ、踏みつけようとする。
ーーーその瞬間、
「ひまわりさんから離れなさい!!」
桜がクロカタゾウムシの首元目掛けて刀で斬りつける。
刀は正確に首元まで届いたが、ガチッ‼︎と音を立てて止まる。
装甲が硬すぎて刃が通らない。
「そんなナマクラ刀じゃ話にならない・・・なっ!」
桜の鳩尾に蹴りを放つ。
「がはっっっ!」
防御する暇もなくまともに蹴りをくらってしまった桜は後ろに吹き飛び倒れてしまう。
「桜お姉ちゃんっ!!」
「このやろーーー!!!!」
ビオラがクロカタゾウムシに向けアサルトライフルを撃ちまくる。
ズダダダダダダッ!
弾は全て直撃しているが、硬い装甲に弾かれてしまい効果がない。
「さっきも言ったけど・・・・その程度の弾丸じゃ俺の装甲は貫けんっ!」
ビオラの元まで走り、勢いそのままに顔面を殴りつける。
「グッッ!」
もろに拳を受けたビオラは白目を剥きその場に倒れこむ。
「さぁ~~て、最後は嬢ちゃんだけたな!」
ヒガンバナの方を向き、ニヤニヤと笑いながら話す。
「絶対にっ!絶対にお前を許さない!!」
両拳を握りしめ叫ぶヒガンバナ。
その表情は怒りで歪み、般若のような顔になっていた。
「そりゃぁ、こんだけお仲間がやられちゃキレるのも無理ねぇ!それで?次はどんな技を見せてくれるんだい?無様にやられたコイツらの代わりに楽しませてくれよ!」
なおも笑いながら煽るクロカタゾウムシ。
突然、ヒガンバナの顔から表情が消える。
先ほどまで固く握りしめていた拳を開き、全身を脱力させる。
「殺す・・・」
その言葉はクロカタゾウムシに向けれられたものというよりは、己に対し、確固たる決意を示すための言葉だった。
「コロす~?ファッッハッハッ!!こりゃぁ面白い冗談だ!嬢ちゃんの能力じゃオレを殺すどころか、この装甲に傷一つつけられねぇよ!」
ヒガンバナの発言をハッタリだと思ったクロカタゾウムシは腹を抱えて大笑いする。
「確かにアナタの言う通りね。だってアナタは、これからその装甲に傷一つつけることなく死ぬんだから」
そう言い終えたヒガンバナは両手を開いたまま重ね、地面に向ける。
「千紫万紅・・・・・・曼珠沙華」
ヒガンバナが呟いた瞬間、強烈な光が発され一瞬目を閉じるクロカタゾウムシ。目を開けるとそこには・・・・・
辺り一面を覆い尽くすほどの彼岸花が咲き乱れていた。




