千紫万紅
硬い装甲に覆われた全身に幾度となく拳と蹴りを放つ。
しかし、仁王立ちしたままのクロカタゾウムシにダメージを与えるどころか、その場から一歩も動かすことが出来ない。
「これならどうだ‼︎慈恩!」
ひまわりがクロカタゾウムシの腹部に強烈な右正拳突きを叩き込む。
渾身の突きを放ったにも関わらず、全く効いていない。
全ての攻撃を防御することなく受けきったクロカタゾウムシは、不敵な笑みを浮かべ、ひまわりの右腕を掴む。
「ファッッハッハッ!!なかなかいい突きだ!しかし、その程度の拳ではオレの装甲は砕けんよっ!」
右腕を掴んだまま力任せに引っ張り、ひまわりの全身を地面に叩きつける。
ドンッッ!!
鈍い音が響く。
声を上げる間もなく気絶したひまわりに対し、右脚を上げ、踏みつけようとする。
ーーーその瞬間、
「ひまわりさんから離れなさい!!」
桜がクロカタゾウムシの首元目掛けて刀で斬りつける。
刀は正確に首元まで届いたが、ガチッ‼︎と音を立てて止まる。
装甲が硬すぎて刃が通らない。
「そんなナマクラ刀じゃ話にならない・・・なっ!」
桜の鳩尾に蹴りを放つ。
「がはっっっ!」
防御する暇もなくまともに蹴りをくらってしまった桜は後ろに吹き飛び倒れてしまう。
「桜お姉ちゃんっ!!」
「このやろーーー!!!!」
ビオラがクロカタゾウムシに向けアサルトライフルを撃ちまくる。
ズダダダダダダッ!
弾は全て直撃しているが、硬い装甲に弾かれてしまい効果がない。
「さっきも言ったけど・・・・その程度の弾丸じゃ俺の装甲は貫けんっ!」
ビオラの元まで走り、勢いそのままに顔面を殴りつける。
「グッッ!」
もろに拳を受けたビオラは白目を剥きその場に倒れこむ。
「さぁ~~て、最後は嬢ちゃんだけたな!」
ヒガンバナの方を向き、ニヤニヤと笑いながら話す。
「絶対にっ!絶対にお前を許さない!!」
両拳を握りしめ叫ぶヒガンバナ。
その表情は怒りで歪み、般若のような顔になっていた。
「そりゃぁ、こんだけお仲間がやられちゃキレるのも無理ねぇ!それで?次はどんな技を見せてくれるんだい?無様にやられたコイツらの代わりに楽しませてくれよ!」
なおも笑いながら煽るクロカタゾウムシ。
突然、ヒガンバナの顔から表情が消える。
先ほどまで固く握りしめていた拳を開き、全身を脱力させる。
「殺す・・・」
その言葉はクロカタゾウムシに向けれられたものというよりは、己に対し、確固たる決意を示すための言葉だった。
「コロす~?ファッッハッハッ!!こりゃぁ面白い冗談だ!嬢ちゃんの能力じゃオレを殺すどころか、この装甲に傷一つつけられねぇよ!」
ヒガンバナの発言をハッタリだと思ったクロカタゾウムシは腹を抱えて大笑いする。
「確かにアナタの言う通りね。だってアナタは、これから《《その装甲に傷一つつけることなく死ぬ》》んだから」
そう言い終えたヒガンバナは両手を開いたまま重ね、地面に向ける。
「千紫万紅・・・・・・曼珠沙華」
ヒガンバナが呟いた瞬間、強烈な光が発され一瞬目を閉じるクロカタゾウムシ。目を開けるとそこには・・・・・
辺り一面を覆い尽くすほどの《《彼岸花》》が咲き乱れていた。