母の犯した大罪
我が家には数年前に亡くなったのですが、愛猫がいました。
名前はショコラ。
アメリカンショートヘアとの雑種で、肉球真っ黒け、模様がキュートなスタイルの良い女の子でした。
そんなショコラに我が母が犯した大罪の話をしましょう。
それは数年前のとある日の事。
私が仕事から帰宅すると母が、
「駄目だ、ショコラ、怒っちゃった」としゅんとしているのです。
ショコラを見れば、ぷいしてるのです。壁際を向いて、じとっとしてる。ショコラがへそを曲げた時のお決まりのポーズです。
「ショコラー?どうしたのー?」
私が声をかけても、耳はピクピクさせるものの、ぷいのポーズです。
母が語るには、
「ショコラの小屋を捨てたんだ、目の前で…」
ちょっと説明しますね。
よくホームセンターやペットショップで売ってる、布製の丸いベッドのようなもので、ショコラは寝起きしてました。それを我が家では「ショコラの小屋」と呼んでいました。
季節は春先でした。
そろそろくたびれてきたそれを、新調しよう!と新しいものを準備していて、満を持して、取り替えた…のは良かったのですがね…。
「目の前で捨てた!?」私は言いました。「そりゃ、怒るよ。うちにブルドーザー突っ込んで来て、壊されたら怒るでしょ?それと一緒だよ」
母はますますしゅんとなり、「ショコラー、ごめんなー」と言いますが、ショコラも頑なにぷいです。
仕方ない、放っておこう。という結論に達し、お水とエサを入れてあげ、放っておきました。
やがて、のそのそとショコラは動き、エサをカリカリ。水をペロペロ。それから新品の小屋(寝床)を前足でちょんちょんします。
じーっと見つめています。
入りました。
ちょっと塩梅が悪いのか?
もぞもぞしてから、くるんと丸くなりました。
―やれやれ…慣れてくれよ。と私は思いました。
それからが地味に大変でした。
小屋を掃除などの際、私が触る分には、平気なのですが、母が触ると唸るのです。余程捨てられたのが、トラウマになったらしい。
母は後悔しており、いまでも「あの時はショコラに悪い事したなぁ」と言います。
亡くなった人の事を考えると、天国でその人の周りに花が降る、と言います。
今頃、ショコラの周りにも花が降っているでしょうか。
この世でのわだかまりなど捨て、天国で幸せに過ごしていて欲しいな、と思います。
最後に。流石に目の前で捨てる方はいないでしょうが、例えペットの物でもお気に入りの物を勝手に処分するのは少し、慎重になった方がいいかもしれません。