004
異世界に入り浸るのは休日と決めている。
平日は、ダイヤウルフズ&ゴブリンズにMP補充したり、集めてきた魔石を回収したりするために、ちょこっとだけログインしてる。
留守中の魔石の管理と、間借りしてる宿屋の管理を任せるために追加でゴブリンを召喚した。
下位の召喚獣は維持MPコストが少ないので、いくらでも召喚できる。
なのでログアウト中に何かを任せるのに適任で、ゴブリンは人型だから召使いにちょうどいいのだ。
村には、ぼちぼち人が増えた。
若林さんたちのパーティに田村さんが正式加入して、そこにもう一人女性の松本さんという人も加わった。
新しく、鍛治士の土田さん、裁縫士の梅原さん、薬士の森田さんといった面々も加わって、その他大勢、総人口100余人ほどとなっている。
SNSなどを見て思ったけど、徐々に異世界ゲートアプリが広まっているらしい。
スタート地点はこの近辺だけじゃないみたいで、共有されたマップと位置情報からすれば同じ大陸のさまざまな場所へと転移させられてるみたい。
何度か、運営の正体を暴こうとした人も出たみたいだけど、それきり音沙汰がなかったり、やめたほうがいいと言い残していったり、触れないほうがいいようだ。
廃課金する人も多いだろうに、不思議とセルランに登ることもなく、まだまだあまり知名度がないゲームアプリとして、密かなブームとなっていた。
さて今日もログイン、本を数冊と、リュックいっぱいの荷物に、マジックバッグも持って。
荷物の整理をした後、もうすっかり見慣れた個室を後に、宿屋ゴブリンのゴブ四郎に鍵を預けるついでにおやつを差し入れして、そして袋一杯の魔石を受け取る。
ゴブ四郎は、梅原さんに作ってもらった服を着ており、本当に宿屋の主人かのように見える。
番犬のシロをもふり、宿屋を出て、お気に入りの切り株まで向かう道すがら、鍛冶屋のほうからカーンと鎚を叩く音が聞こえるのを聞きつつ、酒場へ顔を出してクエストボードに伝言がないか確認しておく。
特に、これといった伝言はなし。
今日も読書をして過ごそうかな。
お湯を沸かし、コーヒーを淹れ、ちびちびと飲みながら。
しばらく静かな時間が過ぎていったころ、森の方から、ダイヤウルフが飛び出してきて、こちらへ一瞥もくれないで村の方へ去っていく。
俺の召喚したダイヤウルフじゃないからだ。
あれから、みんなに問い詰められて、ダイヤウルフたちに魔石を獲らせてると白状したところ、みんなが召喚魔法スキルを2まで取得したのだ。
この森の脅威度に合わせて、今ではハンター役の一匹とゴブリンを乗せた一匹の二匹編成で狩りをしている。
森中のモンスターを狩り尽くしそうなんだけど、どうやらモンスターたちはゲームみたいにリポップするようで、確かに索敵を済ませたはずのエリアの中に急に出現したりするのだった。
そのおかげで、狩りの効率は多少落ちる程度で落ち着いている。
召喚魔法スキルを2で止める、その選択は考えないでもなかったけど、俺は召喚特化にして良かったと思ってる。
今では、召喚魔法スキル8になり、ウィンドエレメンタルのふー太とも契約しているのだが、彼に頼めば風魔法が使えるようになった。
今も、俺の頭の上という定位置に居て、索敵をしてる。
ウィンドエレメンタルは特性として風を感じることができるので、周囲の風の動きに注意することで気配察知スキルと似たようなことができるのだ。
また、空を飛ぼうと思えば、感覚共有する必要はあるが、好きなように風を操って飛行することもできる。
エレメンタルシリーズはみんな優秀ではあるが、そんな中でもふー太はお気に入りの子で、常時召喚している。
ウィンドエレメンタルはなぜかどこで召喚してもコストが安いというのもあるが(召喚獣が食事をするといくらかのMPになるので、風でも食べているのだろうか)。
狩場は、森の中はもうダイヤウルフたちのものなので(通称、BOTの森)、みんなはダンジョンに行っているみたいだ。
そう、なんとこの森にはダンジョンがあった。
超広大な森の中に聳え立つ、超超高層の塔。
ピヨ彦が見つけて気になってはいたのだが、若林さんたちがもしかしてと探りに行った結果、ダンジョンであることが分かったのだった。
森のモンスターよりも、ダンジョンのモンスターが落とす魔石の方が大きいので、いい狩りになる。
キマイラの軍団(召喚魔法スキル7で呼べるようになった)を作ってダンジョンを荒らすのがいいだろうかと思ったが、維持コストが大きいので断念した。
ダンジョンからは様々な素材やスキルオーブを持ち帰れるみたいで、ちょっとしたお宝の宝庫だ。
俺も何度か登りにいっている。
松本さんがSNSでダンジョンの発見報告をしたことで、この地を目指して旅する人も現れた。
旅の風景を写真に撮ってアップロードしている人なんかもいて、見ていて楽しい。
この地に人が集まるとしたら、せいぜいが人口200人規模のこの村じゃあ手狭に感じる。
いずれは村の拡張工事なんかもするようになるかもしれない。
リアル大工さんも何人かいるみたいだしね。
ふたたび、本を手に取る。
この日は、特に何も起こらず、ゆるやかに過ぎていった。