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002

 サイトバードというだけあって、この鳥型モンスターはやたらと目がいい。

 高高度から遥か彼方に大山脈の威容を認めると、そちらには背を向け、幾許か飛ぶと、やがて大河を見つけた。

 感覚同調で視界を共有しているのだが、今度は体性感覚や皮膚感覚を同調させ、空を飛ぶ楽しさを味わってみる。

 ああ、なんていうか自由だ、鳥になるってこういうことなんだな、と。

 この体験だけでも、わざわざ異世界に来た甲斐がある。


 しばらくの遊覧飛行ののち、森の切れ目に、なにやら村のようなものが見えてきた。

 ピヨ彦を降下させ、村の様子を探ってみることにする。


 妙なことに、村は無人だった。

 いくらかの年季を感じさせるもののまだ生き生きとした建物群の中、窓から室内の様子を探っても、どこを見渡しても、人っ子一人いやしない。

 村の設備から、ここは皮鞣し業と林業で栄えた村のように見えた。

 教会でお祈りをしているのかもと思ったが、聖堂ももぬけの殻。

 争ったような形跡もどこにもない。

 奇妙な村だった。


 寄る辺ない異世界の地で、はじめて見つけた、人の痕跡。

 しかし、肝心の、人がいない、異世界人がいない。

 書物でも残されていれば、ここが無人村となった理由も明らかになるだろうか、ゴブリンなどの拠点になっていない様子でもあるので、村人が失踪したのはつい最近のことだと思うのだが。


 ともあれ、次の目標ができた。

 少し迂回して、川沿いを避け、あの無人村を目指そう。


 出発前に、あらためて準備を済ませておく。

 あれから、ダイヤウルフたちの偵察により、この森に棲まうモンスターたちの脅威度がおおよそ掴めたのだが、現行戦力で問題なく踏破可能と判断した。

 念の為、召喚魔法スキルレベルを4まで上げたのち、グリフォンのタカジョーを召喚しておく。

 MPが心許なかったので、さらにスキルスロットを拡張し、MP自動回復1のスキルを取得しておいた。

 これで、課金して得たショップポイントは半分の5万ポイントまで減ったことになる。

 現金にして500万円使った格好だ。


 偵察はもういいかなとダイヤウルフたちを送還しようとした矢先、そのうちの一匹、シロが、嗅ぎ慣れない香りを探知したようなので、嗅覚を同調してみる。

 ほのかに、香水の香りがした。

 もしかしなくても人だろうか、誰か自分以外の、おそらく遭難者がこの森にいるのだ。

 シロには香水の香りを追わせ、他二匹のダイヤウルフは送還した。

 タカジョーへと跨ると、シロの向かった方へ飛んでいく。


「キャアッ!」


 悲鳴、女性の声。

 彼女は、全速力で駆けては眼前に現れた一匹の白いダイヤウルフ(シロ)を目にして、驚いたようだった。

 まあ、そりゃそうだ、突然至近距離に肉食獣が現れれば、びっくりするよね。

 シロにはその場でお座りするように命じ、女性の様子を見守らせた。

 緊張あらわに、動けなくなった女性。

 シロにスキンシップを取るように命じると、徐に女性へ近づいていき、女性が尻餅をついたのに構わず、その顔を舐めてみたり、頭を擦り付けたりしだした。

 すると、最初はガクブルしていた女性も、気を取り直して、シロの頭を撫で出した。

 これなら、安心かな。


 じゃれつき、もふり始めたころ、現着する。

 タカジョーから降りて、


「こんにちは」


 一声、かけた。

 挨拶を交わすと、シロを呼び、一撫でしてやる。


「あの、その子、シロちゃんって言うんですか」

「そう、この子はダイヤウルフのシロ。で、こっちがグリフォンのタカジョー。俺は日和見日向という。召喚士で、この子らは俺の召喚獣だ」


 自己紹介を交わしたところ、彼女は田村沙織というらしい。25歳、日本人で、休日に某動画サイトを見ていて怪しい広告に誘導されるまま異世界ゲートアプリをインストールしちゃったところもご同輩らしい。職業は保育士だとか。

 これまでの経緯を話すと、無人村へ行ってみたい、森から出て、人里へ行きたいというのでタカジョーに乗せることとする。


「ゆっくりいくけど、よく掴まっててね」

「はい、うわ、高い高い」


 大柄なタカジョーはさすが、二人乗りでも余裕そうだ。

 ではでは、いざいざ、空の旅へ。

 召喚獣との繋がりを頼りに、ピヨ彦の待つ無人村へ向かう。

 道中、何事もなく、無事に着く。


「私、感動しました。空を飛ぶのってすごく気持ちがいいですね、今度また乗せてくださいね」

「いいですよ、その時はぜひ。ところで、スキルビルドはどうしました?」


 再召喚したダイヤウルフズを村周囲の警戒へやりつつ、田村さんへ尋ねる。


「私よくわからなくって。ゲームではよく回復役をやっていたので、そうですね、回復魔法を覚えようかなと思っています。みんなの役に立ちそうだし」

「回復魔法か、いいんじゃない、せっかくの異世界だからやりたいようにやるのが楽しいよね。ただ、このゲーム課金額がえげつないよね」


 せっかくの異世界なので貯金を叩いたが、正直、やりすぎた気もしてる。

 まあ、惜しくはないけど。


「え、このゲーム課金あったんですか」

「ああそうか、田村さんはまだチュートリアルの途中だもんね、あるんですよ課金が、ひとくち10万円から、上限一千万円分ね」

「た、高い。無理ですよ、そんな余裕ないです」

「でもほら、課金すると世界が変わるよ、というかある程度は課金してスキル覚えないとやっていけないよ、冒険にならないよ」

「うむむむむ」


 悩む田村さんだが、結局、100万円ほど課金して、回復魔法と神聖魔法のスキルを取得することとした。

 戦闘中の回復と、回復だけじゃないパーティのサポートができるようにした格好だ。

 純ヒーラーという感じで、将来的には医療チート系の活躍もしそうだ。


 少し村の調査をして、二人で無人であることを再確認すると、あたりは黄昏時、夜の活動は危険だからよしたほうがいいとなり、田村さんとは明日も会う約束をして、ログアウト、地球へと転移させた。

 させたのだが、俺にはまだ異世界に残ってやることがある。


 課金した時、“限定百個、魔石1000ポイント分”という商品を購入したのだが、数々の異世界モノ作品を読んできた俺の勘からすると、この魔石というやつが気になるのだ。

 ずばり、魔石とは、モンスターの体内から採取できる、ある種のリソースなのではないかと思われるのだ。

 今から、それを確かめる。

 スマホを操作し、それらしい項目を探してみると、案の定見つかった。

 魔石吸収待機状態というふうに画面が遷移している、これならばだろう。


 幸い、日が沈む前に、はぐれゴブリンを容易く蹴散らし、解体することができた。

 うん、ダイヤウルフズ強ええわ。

 やはり魔石はモンスターの体内に存在し、そしてそれを待機状態にしたスマホに吸収でき、そうするとストアのポイントが6だけ増えてることを確認した。

 なるほど、今後はこうやってポイントを貯めていくらしい。

 つまり魔石とはお金のようなものだ。


 ゴブ太を召喚し、魔石採集のやり方をやってみせて、袋を渡し、シロに跨らせると、袋いっぱいになるまで魔石を狩ってくるように命じた。

 ダイヤウルフ3匹編成だ、容易く仕事をこなしてくれるだろう。

 彼らにありったけのMPを注いで、宿屋の個室に鍵をかけると、俺もログアウト(地球へと帰る)することとした。


 教会で、日誌らしきものと幾許かの本類を見つけたのだが、結局、解読を後回しにしてしまった。

 あれだ、異世界のどの言語スキルを取ればいいのかわからなかったのだ。

 それに、貴重なスキルスロットを埋めてまで疑問を解消する必要があるのだろうか、ともすればガチの言語学者が言語スキルなしで解読するかもしれないし、今後もしかしたら現れるもの好きが言語スキルを取得しないとも限らない。


 今日のところは、活動拠点を見つけて、レベリングのやり方(強くなる方法)がわかったのでよしとする。

 自分以外にも異世界転移してきた人間がいると分かったのも大きい。

 明日の釣果はいかがなものだろうか、楽しみだ。

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