000_プロローグ
なんの気なしに動画サイトを見ている時だったが、ふと、ある広告が目についた。
“異世界へ行ってみませんか”
そんな誘い文句だったと思う。
ああ、ラノベかあるいはソシャゲの宣伝かと。
いつもどおり、広告に一瞬だけ意識を割いてすぐにスキップしてしまおうとしたのだが、そのときはなんだかやけに気になって、詳細をタップした。
案の定、どうやらソシャゲらしかったのだが、広告が目についたこともあり、久々に新作ゲームを遊んでみるかなとなった。
今にして思うが、あのときああして本当に良かった。
ダウンロードを終え、ゲームを開始し、チュートリアルの指示通りに画面をタップしていくと、転送というアイコンをタップした途端、一瞬あたりが光に包まれ、意識が暗転し、気づくと、なんと異世界にいた。
比喩表現でもなんでもなく、本当にそのままの意味で、異世界へと旅立っていた。
アパートの自室にいたはずが、いきなり、あたりは森の中というわけだ。
ほっぺたをつねれば痛いし、鼻腔にはマイナスイオンとかすごそうな静謐な香りをこれでもかと感じる。
秒で理解したね、ああ、これは異世界転移だ。
理解が早いついでにまず思ったのが、やばい、チートスキル貰ってないってこと。
これじゃあ、やったー異世界転移だーって素直に喜べないよね。
考えてみて欲しい、今まで平和で文化的な生活を送っていた一般人なのに、それがいきなり森の中、おそらくこれからサバイバルしなきゃいけないわけだ。
ただ見知らぬ森の中を彷徨うだけでも何日かかるだろう、余裕で死ねる自信があるけれど、もしここが異世界なのだとしたら、あの広告通りの光景が繰り広げられるというのなら、十中八九はゴブリンだとかオークだとかのモンスターが出てくるのがお決まりなのだ、うん、戦って勝てる気がしない、死ぬだろうな。
異世界へ、来たはいいけど、帰りたい。
まあ、今こうして述懐しているとおり、デッドエンドは免れたわけで。
俺はチュートリアルの途中だったことを思い出して、スマホを見やり、ショップだとかステータスだとかのアイコン群の中に、転送というアイコンを見つけて、一縷の望みをかけて押してみたのさ。
それでまあ、ことなきを得たわけ。
見慣れた寝室に帰ってこれたときの、あの安心感ったらなかったね。
あのチュートリアルはマジで不親切だったと思う。
あの日はあのあと、異世界へ行けるって興奮その勢いのままに、ショップアイコンを押してみて分かったスキルなどの仕様(強くなる方法)におおよその当たりをつけたら、店を回ってアウトドア用品なんかも揃えて、このゲームアプリ”異世界ゲート”へ上限まで課金して、そうして準備万端整えてから再突入と相成ったのだった。
思い返せばあの日から、週末を異世界で過ごす、ちょっとした冒険の日々がはじまったのだった。