おわり
帰還した艦隊はほんの一瞬基地で待っていた者達を喜ばせ、すぐに表情をどす暗くさせた。神風疾風は死んだ。一つのチャームを残して。
チャームの中身は一枚の写真だった。疾風と、一人の青年の写った写真。この世界の誰もが彼について知らなかったがカールがその関係を察し、扱いに困りながらも基地の金庫に入れると決めた。
新興国エクソダスは、サラミスを君主に据えて世界を支配し、国号と政治体制を数度変えた。最終的に、議会制のワ共和国となった。
ロトは蒼龍をしこたま殴った後に姿を消し、カールは元の世界へと帰り、蒼龍はワ共和国の軍事顧問となった。残る四人は旧エクソダスの技術でインフラを整備する公社を運営する。
大決戦から既に十年が経過していた。
北の小さな町に、ロトが住んでいた。日々重機で木を切り出す仕事をしている。仕事を終え昼食をとるべく彼女は売店の多い通りへ入った。
出てくるときには総菜が挟まれた黒パンの詰まった紙袋を抱え、自宅に着く。
「ただいまー」
返答があるはずもなかった。
「おかえりなさい」
疾風の声が返ってきた。
「なんで、あなたが?」
ロトは声の元へ歩みを進めるが、疾風は姿を表さない。
「さよならを言いに来たんだ。忘れてたからね。それじゃあ」
ロトを静寂が包む。彼女の目元に涙が浮かんだ。
「なんだよ、ちょっと期待したじゃんか……。あなたが作った平和だよ。あなたがいないと」
「そっか。じゃあお邪魔するね」
玄関の扉を開け、疾風が入ってきた。
「あれ? え?」
混乱するロトを疾風は笑った。
「こうなればこっちも!」
ロトは電話を取り出し、旧友を呼び出した。
夜が更け、10年前の子供達は迷惑なことにロトの家の中で眠りについた。屋根の上で、蒼龍と疾風がぐだぐだと話を続けている。
「あなたは結局何者なの?」
疾風は、蒼龍の口に自身の人差し指を当てる。
「次にそれを聞いたら、亡霊と答えることになっちゃう」
「そう、じゃあやめておこう。あの子達の平和のために」