明日に飛び込むために
「あなたは、結局何者なの?」
蒼龍とカールによって刑事ドラマの取調室のような部屋に神風は、追い詰められていた。
「私は、神風疾風だ」
「質問を変えよう。カミカゼ光線とはなんだ?」
「あらゆる物を進化させる光だ。放射線によって起こる遺伝子の変化は基本的にマイナスでしかないが、カミカゼ光線はすべてが生存競争にプラスとなる」
カールはそれを聞いて表情を変える。懐疑的に。
「それでは、無限蟲の出自も……」
「カミカゼ光線だ。唯一の失敗作だよ」
「あの子たちはなんのために引き取った」
「無人兵器は、無限蟲の体内で効果を失う。惑星サイズを外から攻撃することは困難だ。あの時点の奴隷は物扱いだから楽だし」
カールは、神風の髪を激しく雑に掴んだ。
「じゃあ、子供を武器にするつもりだったのか?」
「失敗したらどうせ死ぬ。必要なことだ」
カールはそれを聞いて手を放した。
「それもそうか……」
納得するカールの後ろで蒼龍が部屋を出て行った。
「さて、要塞や艦艇の建造費をどこから出したか教えてもらおう」
「ずっと思っているんだが、それを君が聞く意味は?」
「収支を明記しない国家がどこにある」
「……ないです」
「そういうことだ」
神風は少ししおらしい反応をした。
夜風が銀髪の少女を撫でる。
「三人ともどうしたんだろう」
ロトが甲板で夜空を眺めながら呟いた。
「何をしているんでしょうか?」
そこへ上がってきた蒼龍が彼女に声をかける。
「実感が持てないんだ。あの中に飛び出すことにもあの先に怪物が潜むことも」
彼女の目には、くろがねよりも暗い、虚の集まったものが広がっていた。
「君は、神風を信用しているか?」
蒼龍がロトの視線の中に頭を突っ込む。
「私だけじゃない。みんな神風を信じてる。独立なんて実感がなかったから」
ロトの目には明日が輝いていた。
「そうか…私は彼女と同じ要撃機に乗ることになった。君たちに再び会えると約束するよ」
蒼龍はロトに小指を差し出す。ロトはよくわからないまま小指を出した。蒼龍は小指を絡めて強く振った。
「無限蟲の迎撃には、私、君、蒼龍、ロトの四名で行くことにする」
「なぜだ?」
「残りの五人は火力が足りないし、機体に乗れる訳でもない。絶対に生きては帰れん」
「ならばロトを連れて行く必要がない」
「敵地に突入する際2人でなければ、大きな死角が生まれる」
「そうか……」
「犠牲者を出さないには、これしかない……それに、最悪の場合奴らの中心でカミカゼオーを自爆させ、脱出すれば、再建の時間を稼げる」
「まだ、失敗できる作戦という訳か」
「そうだ。世界は乱雑で無数に重なった紙のようになっている」
神風は近くの棚から二枚の紙を取り出した。そしてそれぞれに点を一つずつ描く。さらに点が重ならないように紙同士を貼り合わせた。
「この二つの点が、我々と無限蟲だ。この紙同士が重なり合っている場所でないと、世界の間を動くことは出来ない」
「つまり、そこに到達させなければいいんだな?」
「そうだ、そしてこの星は紙の重なる位置から離れていない。到達すれば終わりだ」
「なるほど……」
「超弩級宇宙戦艦トウゴウ、ドレッドノート35、36。六式機雷敷設艇母艦10隻。工作艦二隻。出撃するのはこれらだ。その他駆逐艦、巡洋艦は二度目の決戦に備えてこの星に係留しておく」
「……きちんと参加する全員に伝えておけ」
それから635974秒後、旗艦トウゴウを中心とした15隻の艦隊が、無限蟲の居る世界へと現れた。
「置いて行かれたか……」
サラミスが呟く。
「逃げたわけじゃないんだ。勝利記念のパーティの準備をしよう」
アマトールが、四人の少年少女に呼びかけた。