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カミカゼオー

人類の国の領空内を、エクソダスの宙防艇が飛んでいた。


「前の時もこれを使えばよかったじゃん」


 ロトが神風に文句を付ける。


「この海宙防艇ガーランドは、小さな相手に向いていないんだ」

「大荷物もあるからな」


 旧日本軍の特型駆逐艦とさほど変わらない武装の数のガーランドから、ワイヤーでカミカゼオーが吊るされていた。


「こいつを操作できる奴を探すのが目的だからな」


 艦橋の窓から、神風が街の広がる下を覗く。高度約1000mは飛行船に劣るが、それでも威圧感は十二分にあった。


 街を駆ける人影がある。白い鎧を纏い、聖剣と伝えられる剣を持った金髪碧眼で肉感的な体型の女性だ。


「いくよ。聖剣」


 彼女の周囲を風が包み、ガーランドの元へと運ぶ。


「なんだ?」


 艦橋の窓を割り、女性が神風の元へ飛んできた。


「久しぶりだな。神風」

「久しぶりだね。蒼龍」


 蒼龍と呼ばれた女性が、神風に向けて剣を振り下ろす。神風は後ろに飛びのきながら自身の靴を剣の先に当てさせる。


 神風は靴の中に侵入した刃先を足の指で掴み、天井の棒状の照明を手で掴んだ。そして、剣先を引っ張ることで蒼龍の体勢を前のめりに崩させ、振り子のように勢いを付けて蒼龍の顔に蹴りを入れ、二人は艦橋から落ちて行った。


「大丈夫かな……」

「大丈夫だよ」

 

 不安を見せるロトに、アマトールが微笑んだ。


「蒼龍。協力してくれないか?」

「天使に反逆をしておいて今更……」


 お互い飛行能力がない中での空中での格闘は始まらない。二人は地面に落下する瞬間を狙っていた。二つの質量が地上に着地し、土埃が舞う。


 土埃がやむ前に神風は手のひらに光輪を出して蒼龍に飛ばす。光輪達は次々と蒼龍の剣にはじかれ空中に飛んで行って消える。


「そっちだけ剣があるのは卑怯じゃない?」


 そう言い、神風は衛星から打ち出された剣をキャッチして高く掲げる。


「そちらが聖剣なら、こっちは天剣だ」


 家屋の瓦礫によって出来た小高い丘の上にどんな北の国の空気よりも、冷たく重い空気が立ち込める。


「vの字飛ばし」

「聖刃」


 二つの光がぶつかり、逆さのAの字を形成する。割れたvの字は聖剣を弾き飛ばしvの字を叩き割った光の刃は天剣を斬り飛ばした。


 両者は助走を付けて飛び上がり、ドロップキックの体勢に入る。蒼龍は自身の体を僅かに浮かせ、神風の腹部に蹴りを直撃させた。


 神風ははじけ飛ばされて地面を滑り、倒れ込む。白い服がじんわりと赤くなっていた。それでも平然と彼女は立ち上がる。


「五臓六腑が逝ったはずだが?」

「何故その熟語を知っている?」

「質問を質問で返すな!」

「蒼龍お前、私の世界かそれに近しい世界に行ったろ」

「ああ、そうさ。私は君の世界に行った。そこで、君が死者であることを知った」

「私はこうして生きている」

 

 神風は血の着いた上着を捨て、傷一つない柔肌があらわになる。もっとも、重要な部分は謎の光によって隠されていた。


「そんなはずはない。君は今一体何者だというのだ?」

「私は、人の形をしたただの器だ。知的生命を守るというカミカゼ光線の意思を実行している」


 蒼龍は、記録で知っていた。神風は経験で知っていた。神風疾風は卒論のための研究中にカミカゼ光線に飲み込まれ、稼働中の原子炉に飛び込んだような姿になって命を落とした。


「……無限蟲。この世界に迫る脅威。それが居なくなるまでは協力してやる。だが、その後お前のことは問い詰めさせてもらうからな」


「ありがとう」


 空が溶ける。やさしいかぜが集まってできた空のブルーを、死の黒が塗りつぶしていく。


「無限蟲か……カミカゼオーの拘束を解け」


 市街地に、巨体が降りる。地響きが鳴り、全てが揺れる。


「蒼龍! 乗れ!」


 二人は、すぐさまカミカゼオーに飛びつく。二人は別々のハッチに入り、蒼龍は格闘操作室へ、神風は火器管制室へと到着した。


 広い格闘操作室の内部からアームが伸びて蒼龍の四肢を掴み、機体の動きを彼女に動きを同調させる。


「なるほどな、素晴らしい技術だ」


 複数のモニター画面が付き、死角を消した。


 上空から無数の光がガーランドに向けて放たれる。カミカゼオーはそれを片手で防ぎ、飛び立った。


 宇宙に似た亜空間でカミカゼオーを待ち構えるのは、約8億の無限蟲だった。


「馬鹿な……」


 その数を恐れながらも、神風は機銃と主砲を操作し、蒼龍は四肢を操作して雑兵を蹴散らす。そして、亜空間を作り出している世界中の花を集めて作った花束のような姿の小惑星級の無限蟲が現れた。


 莫大なエネルギーの力で、ひとつひとつの花弁を赤熱させ、分離させてカミカゼオーに飛ばす。遥か下からその戦いを眺めていた人間が目を覆うほどの勢いと光量で。


「武器はないのか!?」


「これ!」周囲から突っ込んでくる木っ端の無限蟲への対応に必死な神風は匙を投げた。


 カミカゼオーの右腕から、無尽蔵にも思えるほどの光が溢れ、亜空間に巨大な一本の線を作り出す。


「でりゃあ!」


 蒼龍が右腕を振り下ろす。それと同時にカミカゼオーも右腕を振り下ろし、背丈の十倍ほどの小惑星級を両断した。小惑星級の無限蟲は、光を噴き出しながら爆散し、空のブルーが戻ってきた。


「今のは、本隊の数百倍の速度で動ける先遣隊だ。本隊はもうすぐやってくる……」


 そう呟いた神風は、脳の処理能力を超えた機銃の操作を見せたことと引き換えに、コックピット内で数度目の死を迎えていた。

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