新興国エクソダス
「……族、ホワイトヘッド族、デストロイヤー族。以下の種族の独立と今後180年に渡る不可侵を求めるそうです」人間、鬼人、蝙蝠、三種族の王の前でそう言い、ローガは倒れた。
「運んでおけ。……全ての種族の独立か、要求を飲まなければ無差別に都市を爆撃すると……くだらん。海上要塞に攻撃を行え」
城のはるか上空から神風が落下し、城内に現れた。
「回答を頂きに参りました」
「全部要求を飲みます」
「人間の王に同じです」
「人間と蝙蝠の王に同じです」
「ヨシ!」神風は空に飛び上がっていった。
海上要塞で建造されている世界間航行大型要撃機をカールは神風に見せられ、興味を示す。
「惑星などに近い大きさの相手と戦うんだろう? その表面で戦闘するならキャタピラを足に付けよう」
「なるほど、それはいい」
「操縦系統も教えてくれないか?」
「人の動きをトレースして戦闘する役と、火器管制の役がある」
「誰がやるんだ?」
「どっちかに私。他は決まっていない」
「なるほどな。今度人間の国に探しに行くか」
「そうだね。明日探しに行く。手伝ってくれ」
「作戦の全貌を知りたい」
「簡単だ。予想される最大の敵である惑星級の敵の体表をこいつでこじ開け、宇宙戦艦を突っ込ませる。後は内部から破壊し、乗ってきた地点から脱出するだけだ。近くに惑星のない状態で最も強力で賢い存在を失えば、奴らは散る。総勢でこの世界を襲うことは出来なくなる」
「その過程で君はこんなもので三兆の敵の攻撃を凌ぐつもりか?」
「何とかなる性能だよ。たった320mの全長でもね」
「そうか。あの子たちは今何をしている?」
「漫画でも読んでるんじゃないのかな。見てくるよ。君用の機体を作ったから見ておいてくれ」
「了解した」
要塞の端で潮風を六人は受けながら談笑していた。
「俺達を逃がしてくれてありがとう。アマトール」「ありがと!」カーヒルは妹と共にアマトールに頭を下げた。
「いや。俺も助けられたよ。それに昨日もその下りはやったろ?」
「じゃあ皆でお魚食べよーよ。私が取ってきたやつ」ロトが笑顔で、両手に持った鯛を五人に見せる。
「ロト、私は君を冷静で聡明な人間だと思っていたのだが……」サラミスは、やたらと明るくなった彼女に困惑した表情を見せた。
「いやー独立したから」
「そうはならないでしょ」アマトールもまた困惑していた。
「ちょっと神風に捌いて貰って向こうで食べよう」ロトが魚を持って工廠の方へ走って行った。
「お刺身楽しみだなー」「そうだねー」カーヒルとファテフは歩きながらゴロゴロと喉を鳴らした。
「そういえば、私は君らと違って資料室の料理本を読んだことないんだが、刺身とはどのような料理だ?」サラミスの頭に疑問符が浮かぶ。
「お魚を切って食べるんだって」ファテフが聞きかじっただけの情報を満面の笑みで伝える。
「それだけ?」
「うん!」
「……なんというか衛生的な問題とかないのか?」
「大丈夫だよきっと。僕らは取った魚とかその場で食べることもあったし」カーヒルはサラミスにサムズアップし、ファテフもそれを真似る。
「ええ……」サラミスは恐ろし気な表情をしながらも歩みを進めた。
「寿司を作れたり、アニメ好きだったり、君は割と我々の想像した日本人という雰囲気だな」
「所で、君の好物は?」
「ソーセージとビールだ。君は?」
「カレーと、鮨と、鶏の照り焼きと……。多くて決めきれないな。なるほど我々はテンプレ外国人ってわけだ」
二人は、雑談をしながら素晴らしい手つきで昼食を用意していた。そしてつまらない食事室で待機することになった六人はぐだぐだと話をしていた。
「ねえ~暗いじゃんどうしたの?」「えっ、おきになさらず……」「好きな物の話とかさしようよ」「あの、日の出が好きです。じゃあこれで……」「詩的じゃんかっこいー」「あ、ありがとうございます」ロトは、余り会話をせずに端の椅子に座ったメララに話しかけ、すぐに壁際まで追い詰めた。
「メララがロトの猛攻に耐えている」サラミスはその様子に感心していた。
「耐えてるっていうのか?」ファテフを肩車したままサラミスの隣のアマトールが部屋の端の二人に視線を向ける。
「仲いーね」兄の毛を毟りながらファテフはそう呟いた。
「ソーセージが焼けたぞ」カールが、ソーセージの大量にのった皿を彼らの元へ持ってきて机に置いた。
「そういや、カールさんは何をやっていた人なんですか? その、地球で」いい機会だと思ったのか、カーヒルが疑問を口にした。
「ドイツという国の陸軍少佐をやっていた。彼女が私に与えてくれた機体もパンツァークリーガーだしな」
そこへ、鯛の握りや、河童巻きなどを乗せた大きな皿を持って神風がやってくる。
「なんの話をしてるんだい?」
「カーヒル君に職業を聞かれてな」
「なるほど、ちなみに私はJ9という組織に……」
「適当なことを言うな。信じてしまうだろう」カールが軽い手刀を神風の頭に入れた。彼の行動が正しかった事を証明するようにサラミスが席を立って神風の元へやってきていた。
「日本って国の学生だったんだよ」
「軍事企業の人間じゃなかったのか……」サラミスが呟いた。
その後ろで、ロトは既に神風が持ってきた箸を進めていた。アマトール達も食べ物に手を出し始める。
「あっ俺も!」アマトールがそう反応し、ファテフをカーヒルに預けて食事の方へ移動した。
全員がすぐに席に着き、食事を始める。
「すこし、新型機の練習をしてくる」
「じゃあその間に何か作ろう。残らなそうだからねあれは」
「先に言っておこう。私は戦車乗りだったが、志した理由はロボテックだ」
「ああ、あれにもあったな。戦車の戦士が」
エレベーターによって甲板に現れたそれは、確かに戦車の様相をしていた。回転砲塔、キャタピラ、車体の正面のカメラなどが付けられている。戦車としての違和感は妙な車高の高さがあっただけだ。
カールが、ペダルを踏み込む。その戦車は10秒ほどで最高速の時速63kmに達した。
「加速力は、現代戦車とさほど変わりないか」
そして、四角い標準機を目に当て、手元の操縦桿の一つを握る。そこで、要塞内からの通信が入った。
「もしもし? こちらへ魔族の残党が迫っている。私の技術を手に入れて第一次大戦末期程度の航空機を運用しているようだ。この要塞は真上と近接の防空に特化しているから突破されるかもしれない。その時は任せた」
「了解した」
戦車が、衛星通信によって地平線の先の敵を発見し、甲板の端へと移動する。
「偵察機が三機か」
戦車はスラローム射撃を行い、あっという間に飛行機を落とした。
「まさかできるとはな」
そこへ人型の青い機体が飛んできて、戦車に向けて拳を振り下ろす。戦車はその加速性でそれを避け、人型に変形した。
泥除けが収納されて手と足が現れる。回転するように車体内部から顔が現れた。
「くらえ!」
戦士は青い機体より一回り大きく、その体格差の有利性を生かして腕の履帯を回転させながら青い機体の顔を削る。
「メインカメラがやられた! これではっ」青い機体のパイロットが狼狽え、機体の動きが鈍る。
「動きが遅い!?」戦士が飛び上がり、空中で戦車の姿に変形して青い機体を踏みつけた。青い機体はキャタピラによって四肢に強烈な衝撃を受け、火花がはしる。
戦闘能力を失い、今にも爆発しそうな機体から戦士は急いで離れる。
「敵は撃破した。だが、爆発が起きるかもしれない。後退する」
カールの通達中に戦士の横をファテフが通って、火花が散る機体に駆け寄った。
「やめろ! あぶないぞ!」「大丈夫!」戦士のスピーカーの声を無視してファテフはそう叫んだ。
「消火砂!」彼女の頭上に魔法陣が現れ、そこから放たれた白い粉が機体を覆い、活動を停止させた。
「素晴らしいことをしたじゃないかファテフちゃん」スピーカーから少女への誉め言葉をカールが飛ばした。そしてすぐさま通信にスイッチを切り替える。
「爆発するかもしれなかったんだぞ! 幼子に何をやらせている!」カールの怒号を受け取ったのは、一時的に通信を請け負っていたメララだった。
「あの、人がいることに気づいて、思わず呟いちゃったんです。そしたらファテフさんが飛び出して……」
「そうか、怒鳴って済まない。神風はどこにいるか教えてくれないか?」
「カミカゼオーのとこです」
「あの要撃機か」
「はい」
海上要塞の中で建造された世界間航行大型要撃機カミカゼオー。紺碧の装甲で覆われた320mの巨大なロボット。円筒型の腕と足、ゴーグル型の頭部。頭に着いたアンテナは神風の手によって取り外され整備中だった。
「神風。君は部下の扱いができないのか?」
「なにかあったの?」
アンテナから目を離し、カールの方を向く。そして彼の怒りを感じ取り目を伏せた。
「最初に言おう。結果的には、被害は出ていない」
「はい」
「だが、君が通信を他者に任せたことで、ファテフが死ぬ可能性があった」
「はい」
「詳しくは本人たちに聞いて、謝ってこい」
「はい」
神風は整備を中断し、急ぎ足で格納庫から去った。それと入れ替わるようにして、サラミスが格納庫に入ってくる。
「カールさん。相談したいことがあります」
「なんだ?」
サラミスが神風から借りたタブレットの情報をカールに見せる。それには、概算された決戦時の敵の戦力が載っている。
戦艦級以上の無限蟲だけでも10000匹以上。
「こいつらを突破して惑星サイズの敵を破壊しなければ世界が滅ぶ……か」
「一応随伴艦もいるみたいなんですけど……」
神風が大英帝国宇宙軍から買い取った。ドレッドノート級宇宙戦艦が二隻。そしてその他補助艦艇あわせて50隻。それらは一応惑星級突撃用の超弩級宇宙戦艦を追いかけるくらいの性能は有していたが……。
「無理では?」
「それぞれの艦艇や、要撃機の性能を、そして敵の戦力と戦術を見るまでは断言できないが……」
二人は、心の中で神風の作戦に対して頭を抱えていた。余りにも無茶のある作戦のように彼らからは見えていた。