第12話 王女と真の王
たくさんの骸骨たちに囲まれるリリカ。逃げ場のなく、戦うしかない。
だが、倒しても倒しても増えてきてきりがない。
「爆炎光!」
リリカは炎を吐いて、骸骨たちを焼く。しかし、全く効いてない。
「くそ! こうなったら、一気に近づいてあいつをぶっ飛ばすか......アニマルモード、チーター」
リリカの全身にチーターの模様が現れて耳と尻尾が生える。
四つん這いになり、爪と歯が伸びて牙と鍵爪のようになる。
(動物系魔法みたいだが、少し違う)
アテナはそう思う。
動物系魔法に似ているが、若干違うようだ。
リリカは一瞬でアテナの目前に現れ、間合いに入る。
(速い!?)
アテナは目を丸くして驚愕する。その速さはチーター並みだ。
「爆獣拳!」
リリカは左拳に炎を纏って振るう。アテナは右頬に殴られ、飛ばされて地面を転がる。直ぐ様、体勢を立て直す。
「死人たちよ。その魂を竜へと変えよ! 霊竜ユウレースト!」
骸骨たちが消えて魂となり、一ヶ所に集まる。そして、一匹のドラゴンへとなり、リリカの前に立つ。
リリカは跳び上がり、跳び蹴りの体勢になる。
「そんなドラゴン、怖くねぇよ!! 爆獣脚!」
右足に炎を纏い、ドラゴンに向かって跳び蹴りする。
ドラゴンに直撃してドラゴンは倒れる。着地するリリカを見て、アテナは再び驚愕する。
(そんな馬鹿な!? 実体のないドラゴンのはず!?)
霊竜ユウレーストは、その名の通り実体がなく、攻撃を受け付けないはず。
しかし、リリカには関係ない。どういう事なのだろうか。
「後はお前だぁ! アテナぁぁぁぁ!!!」
そう叫びながら、床を蹴り飛び出してアテナに近づく。
アテナは驚いて反応が遅れ、リリカに間合いに入られる。このままでは避ける事も逃げる事も出来そうにない。
リリカは右足で踏み出し、踏ん張って、アテナの顎に向かって左拳に炎を纏って下から上へと振るう。
「爆獣......空上拳!!!」
アテナは天井に向かって飛ばされた。天井にぶつかり、そのまま落ちて気絶する。
アテナがぶつかった天井にヒビが入り崩れる。
流石の出来事にリカは驚いて開いた口が閉まらなくなっていた。
ふと気が付き、リカ王女は私、みくるの方を見ると静かに微笑みながら血だらけで私が息を引き取っていた。
「り......り......リリカ......みくるが......」
リリカが急ぎ、リカ王女と私の所に近づく。そして気付く。私が息を引き取っている事に。
「先......生......?」
リリカの瞳に涙が流れる。
何がどうなっているか分からずにいるが、死んでいるのは分かる。
「う......うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! 先生ぇぇぇぇぇぇ!!!」
すまない。リリカ。そう泣くな。可愛い顔が台無しじゃないか。
人はいつしか訪れるのだよ。こんな時が。いつまでも悲しくて泣いているようでは王になれねぇぞ。
お前はこの国の王女だ。明日から前を向いて歩き出せよ。
私は先に行ってしまう。だが、お前の事はずっと見守っているぞ。
この先、どんな困難があってもお前なら大丈夫だ。きっと......乗り越えられるはずだ。
私は信じてるぞ、お前がこの国を導いて、良き未来にしてくれる事。
お前の父親がしたように、お前もするだろう。この世界の王になれ、リリカ。
お前は......私の可愛くて自慢の娘で、大切な存在......そして、私の誇りだ!
母親として何も出来ないでいた私を許してくれ。
リリカ......死ぬなよ......。私の自慢の娘よ......。
泣き叫び崩れるリリカをリカはそっと抱く。リリカの頭を右手を添えてゆっくりと擦る。
自分と同じだ。大切な人を亡くした気持ちが分かる。リリーをその瞳で殺された瞬間を見たリカだからこそ、リリカの気持ちに寄り添える。
「これは何があったのかしら?」
「お前は!?」
そこには小学5年生ぐらいの背の黒髪ツインテール少女エリナ・バーストがいた。
彼女はここ、青蘭学園の学園長であり、みくると同じ、守護者である。
エリナのお陰で、リリカたち6人は病院へと瞬間移動魔法で移動して、リナ、クラミ、レオハルドは治療を受ける。3人とも命に別状はなく助かった。ベットに横たわり、静かに寝ている3人。
リカは診察を終え、急ぎスノーの元へ走る。特に怪我がないため、診察が直ぐ様終わった。
スノーがいる屋上に到着した。
「お、おい! スノー! リリカはいるか!?」
「リカ王女様......リリカ様はいません」
リリカの姿が何処にもなく、リカはリリカを探し回っていた。だから息を切らしていて、ここに来た。
スノーに近づき、隣に立つ。
「あいつ、まさかと思うが城に向かったのか?」
「......はい......」
「やはりか......一人で行くとは無謀過ぎる」
呆れるリカに対してスノーは心配している。
ずっと、リリカの側近として見守っていたからこそ心配になる。
サインサルト城、玉座の間。
真田が座っていた。その真田の肩に一匹のカラスがやって来て飛び乗り止まる。
「どうした? 何か報告か?」
カラスは真田を見つめ、今まで見た事、光景を伝える。
どうやら、魔法で真田の頭の中に語りかけているみたいだ。
「へぇー。あいつらを倒すとはな......流石は王の娘だな。引き続き、奴らの動きを見張っててくれ」
カラスは跳び去る。
真田は少し嬉しそうな表情をしている。
すると、扉が勢いよく飛ばされ転がる。壊された扉にリリカがいた。
「丁度良かったな。お前に用があったんでね」
リリカは怒りに満ちていて、瞳が緋色に染まっている。
「奇遇だな。私もお前に用がある」
真田は微笑みながら立ち上がる。
「さて、やろうじゃん」
「あぁ」
真田は右手に拳銃を懐から取りだし、リリカは両拳に炎を纏う。
両者は同時に床を蹴り飛び出す。
真田は左手を前に出して握る。
「爆破!」
リリカの所が爆発する。しかし、リリカには効かず、真田に向かってくる。
「爆拳!」
炎を纏った左拳を振るうが、真田に少し仰け反ってすんなり避けられる。
真田は右足で蹴りあげる。リリカは体の向きを変えて避ける。
両者はひとまず離れ、距離を取る。
真田は右手の拳銃をリリカに向けて数発撃つ。リリカは走って全てかわす。
「アニマルモード.....ゴリラ!」
リリカの両腕の筋肉が少し大きくなる。
「爆獣......」
リリカは床に両手を突っ込ませ、床を引き剥がし、大きな瓦礫を持ち上げる。
「王岩!」
大きな瓦礫を真田に向けて投げる。真田は瓦礫を爆発させて崩す。
崩された瓦礫からリリカが飛び出して真田に向かっていく。
「アニマルモード、ラビット!」
ウサギの耳と尻尾が生え、リリカは体勢を変えて、両膝を曲げて、両方の足の裏を真田に向ける。
「爆獣脚砲!!!」
真田の目前に近づた時に、両膝を伸ばして炎を纏った両足を同時に蹴る。ドロップキックだ。
真田は飛ばされて玉座にぶつかり壊す。
リリカは着地する。
「いててて。流石に効くなぁ。真の王の力は......」
頭を擦りながら立ち上がる真田。やはり、その表情は嬉しそうだ。
「真の王の力?」
「あぁ。そうだ。お前も俺も、この世界の王に選ばれた逸材。神によって選ばれたんだよ。だがな、一人だけなんだ。真の王になれるのは......」
「つまり、どちらかが勝てば真の王になれるって事か......」
「そう! 負けた奴は偽りの王って訳。だから、俺とお前は戦う運命なんだよ!」
真田は左手で床に触れると魔法陣が展開される。
すると、城の上空から黒い硝子のような壁が城を囲むように下りてきた。球体になり、城を全部囲んで、誰も中へ入れないようになる。
上空は黒い雲に覆われ、辺りが暗くなる。
それに気付いたリカとスノー。
「......リリカ様......」
「心配するな。あいつなら大丈夫だ。私らが行った所で足手まといになる。信じて待つしかなかろいう」
そう言いながら、リカはその場を去りリナたちがいる病室へ向かう。スノーもその後を追う。
病室ではレオハルドが目を覚ます。
「ん、ここは?」
「病室のようだな」
クラミが窓側に立っていて、先に目を覚ましたようだ。
上半身を起こし、レオハルドは辺りを見渡す。
「確かに病室だな。ん?」
気付くと、何故だがリナが隣に寝ていた。しかも、パンツ一丁で包帯が巻かれてあるだけの姿でいた。
「のわぁぁぁ!!?」
驚きのあまりにベットから飛び落ちる。
クラミは落ちた音に驚き何事かと剣を構える。
「き......貴様!」
「いや! 違うんだ! 起きたらこうなっていただけで俺様は何もしてない!」
クラミはレオハルドに剣の先を向ける。
リナは目を擦りながら目を覚まし上半身を起こす。
そこへリカが入ってきた。
「お前ぇぇぇ!!! 何しとるじゃぁぁぁぁぁ!!! ボケぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
リカが叫びながら、レオハルドに向かって跳んで跳び蹴りする。
蹴られた瞬間に爆発する。
「ぎぃぁぁぁぁぁ!!!」
レオハルドの断末魔が響き渡る。
リナは何があったか分からず、首を傾げていた。
その光景をスノーは(リナ王女様は寝相が悪く、脱ぐ癖があるんですねぇ)と呆れながら見ていた。
城から数回、爆発音が聞こえる。リリカと真田が激しい戦いをしている。
両者は攻撃をしてはかわして攻撃をする。それを繰り返す。
しばらくして、両者は距離を取り離れる。
「流石は神によって選ばれただけはある。まぁーけどよ、終わりにしねぇか?」
「だな」
真田は懐からエターナルエメラルドを取り出す。それを投げてリリカの足下に転がす。
「どういう事だ?」
「お前にあげる」
「何を企んでいる?」
「いーや、企んでいねぇよ。面白い事が起きるのを期待しているだけだよ」
真田はゆっくり歩いて窓に向かう。
「逃げるな!」
リリカは追いかけようとする。だが、真田は飛び降りた。
「じゃあな! 今度、会った際に決着つけようじゃねぇか!」
リリカは真田が飛び降りた窓の下を覗く。しかし、真田の姿はない。
「くそっ」
窓から離れてエターナルエメラルドに近づく。そして、それを拾おうと腰を曲げる。
その瞬間、エターナルエメラルドから剣の刃が伸びて、リリカの胸を貫く。
何が起きたのか分からない。気付いた時には遅く、吐血する。
「ぐはっ......」
(なんだよ......偽物かよ......)
意識がなくなってきている。
剣の刃は消えて、リリカはその場にうつ伏せに倒れる。
血が流れ止まる気配がなし。意識が朦朧して周りは見えない。
このままだと死んでしまう。
「ナミエール! 急いで!」
「はい!」
女性とナミエールの声が聞こえる。二人はリリカの元へ近づき屈む。
ナミエールがリリカを背負い、翼を広げる。
「リリカをお願い」
「はい。承知いたしました」
ナミエールは窓から飛び去り急ぎ病院へ運ぶ。
病院に到着したナミエールは直ぐ様、エリナにリリカを引き渡す。
手術室へ運ばれるリリカ。
そこへリカとスノーが慌てて走って来た。
「ナミエール! リリカは!?」
「殿下、リリカ様はさっき手術室へ。エリナ様にお任せしました。彼女は元医師ですのでご安心を」
「そうか」
かなりの時間が過ぎて、リリカの手術が終わった。
手術室からエリナと共にベットに寝ているリリカが出てきて、そのまま、看護士によってICUへ運ばれる。
エリナはリカたちの元で立ち止まる。
「王女様、 出来る限りの事は処置してなんとか命に別状はありません」
リカはホッとしたのか膝から崩れ落ちる。
「ですが、いつ目覚めるか分かりません。下手をすればこのまま目覚めず、昏睡状態になるでしょう」
「そ......んな......」
リカは涙が流れ出して落ち込む。
「私のせいだ! 私が止めていればリリカは......」
自分を責めてしまう。あの時、リリカが城へ向かうのを止めていれば、こんな事にならなかった。
スノーはリカの右肩に左手を添える。
「リカ王女様のせいではありません。リリカ様が自分で決めた事です。今は信じましょう、リリカ様が目覚める事を」
リカは涙を拭い、立ち上がる。キリっと表情へ変える。
「うぬ。そうだな。リナには私から伝えておく」
信じるしかない。今、リカたちが出来るのは。
真田との戦いから数日が経った。
真田の手から王国を取り返したリカとクラミは城で色々と事務作業に追われていた。リリーが殺されてしまったため、リカがその後を受け継いだ。
新女王の就任式の準備に忙しく、城の中は兵士たちが走り回っていた。
そして、受任式当日。
多くの記者やテレビ関係者が城の王の間に集まる。そこへドレスを着たリカが現れ、大臣の前に大臣に向かって立つ。その隣にクラミが護衛のために立っている。
就任式はテレビにて生放送もされている。
「ごほん。これより、就任式を行う。大臣、王冠をリカ殿下に」
大臣は右隣に台の上にある王冠を優しく手に取り、リカの頭へ被せる。
一斉に記者たちは写真を撮る。
拍手喝采され、新たなる女王の誕生である。
国民の不安はなくはないが、少しは解消されたのであろう。
だが、真田がいる限り、その不安は消える事はない。
だから、リカは必ず真田を捕まえる事を誓うのであった。
就任式を終え、リカは執務室で急ぎ普段着に着替えて、リリカの見舞いに向かう。無論、クラミも同席だ。
リリカに伝えるのだろう。女王になった事を。
本当は自分よりリリカが相応しいはずだから。
レオハルドとスノーは町の見廻りに。避難していた人々は帰っていて、いつもの活気に戻っていた。
リナはリリカが住んでいたマンションの部屋に来ていた。
綺麗に整頓されていて、掃除もされていた。洗濯物が干してあり畳まれていなかった。
リナは干してある洗濯物の一つ、パンツだけ取りだし、タンスへしまう。
「お姉ちゃん、必ず真田を捕まえるから......」
そう呟いて、その部屋から出ていく。
依頼内容を確認して、マンションを背に走り去る。
これはサインサルト王国に住まう三人の王女たちの物語。
彼女たちはまだ知らない。新たな戦いがそこに来ている事を......。
この世界の王になるのは誰だろうか? 真田なのか、それともリリカなのか......。そもそも、それは何だろうか?
今は誰も知る事はない。それは神のみぞ知るのだ。
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