第11話 王女vs大雅
クラミがスノーに剣を振るい続ける。避け続けるスノーは何も出来ないでいる。
どうしたらいいのだろう。影をどうにかしたら操りは解除出来る。
マリーはのんびりとしている。今は油断しているならやれそう。だが、クラミが邪魔してマリーの所まで行けそうにない。
「クラミさん、すみません! 氷息」
氷の息を吐いて、クラミを凍らせる。ガチガチに凍るクラミは動けずになる。
よし!
これでマリーに近づける。
クラミには申し訳ない事をした。後で謝るとしよう。
「さて、貴方だけですね!」
「へぇー。君、仲間をやるとはねぇ」
マリーはにやけて、馬鹿にしているようだ。
少し怒りがこみ上げてきた。スノーは右手に氷の槍を作り出し握る。
それを見たマリーも影の剣を作り出し握る。
マリーに近づき、氷の槍を振るう。マリーは影の剣で防ぎ弾く。
「僕のシャドウソードに勝てるかな?」
「いつまでも余裕があると思わないでください!」
スノーは左手から氷を出して放つ。その氷はマリーの手足首を壁にくっつけて拘束する。
「これは!?」
「アイスリストレイント......これで動けないでしょ?」
少し怖そうな顔をしながら、ゆっくりと、マリーに近づく。恐怖にかられ、背筋が凍るような感じになるマリー。
にやつくスノーは氷の槍をくるりと一回だけ回してマリーに刃を向ける。
「アイススピアー!!!」
氷の槍をマリーの顔付近の壁に突き刺す。
「ひぃぃぃぃぃ!!!!!」
恐怖のあまりに涙目になり、マリーは尿を漏らしてしまう。
「さて、どうしましょうか......?」
顔を近づけ話しかける。にやけた表情のまま、何処か怖さを感じる。
マリーは恐怖がマックスに達して瞳と口を開けたまま気絶するのだった。
「あらら。この程度で気絶なんて、リリカ様より怖がりですね」
呆れるスノーであった。
直ぐ様、スノーはクラミに近づき、氷を溶かす。クラミは生きていたようだ。
それを見ていた大雅。
「情けないな。ちっとトレーニングが必要だな」
「よそ見している暇はないよ」
刀を握ったリナが大雅に近づく。大雅は瞬時に気付き構える。
炎を纏った刀を振るい、炎の斬撃を飛ばす。
大雅は右拳を振るって斬撃を消す。
「伊南川流、弐ノ型、煉獄斬り!」
リナは炎を纏った刀を振るい下げる。大雅はその刀を握る。
リナは後ろへ下がる事も出来ず、動けそうにもない。
何という力だ。大雅の右手から血が出る。しかし握るのを辞めない。
「剛腕!」
大雅は左拳をリナの顔面に向かって振るう。リナは飛ばされ転がる。
リナの刀は炎が消え、大雅に投げ捨てられる。
リナは立ち上がり、二丁の拳銃を太股にあるショルダーから取り出す。
「脚速」
空中を蹴って跳び回り、リナに近づく。リナは構え、銃口から炎を撃つ。
大雅は空中を蹴って避け、再度リナに近づく。
「剛腕......連!」
両拳を連続で振るう。リナは二丁の銃で防ぐ。しばらくして拳銃で大雅の両拳を弾いた。
そして、銃口を大雅に向ける。
「フレイムバレット!」
2丁拳銃から炎の弾を複数撃ち出す。炎は大雅に直撃して、無傷な大雅は着地する。その後、床を蹴って一瞬にリナの目前に現れる。
右拳を振るいかかる大雅に向けず、リナは床に炎を撃ち、空中へ飛ぶ。
大雅の背後に回り、左手の拳銃を向ける。
「フレイムバスター!」
炎が大雅を押し、壁にぶつける。壁が崩れて穴が開く。
大雅は外へ出される事はなく、その場に止まり立ち上がる。
「少しはやるようだ。なら本気を出さなくては」
大雅は全身に黒い縞模様が出現して、耳と尻尾を生やす。少し歯と爪も伸びて、牙と鍵爪のようになる。
まるで密林の王者と呼ばれる最大ネコ科......虎だ。
リナの方に向く。睨みをきかせるように見つめる。その瞳の先にリナの姿。
「動物系魔法......か」
自然系魔法と動物系魔法がある。自然の力を扱うのが自然系魔法で、動物の力をその身に宿しその力を扱うのが動物系魔法だ。
この国ではその2つの魔法が多く使われている。
リリカは骸骨たちを殴ったり蹴ったりして倒す。
数の多さに嫌気が差す。
「くそ! あいつに攻撃できねぇ!」
あいつとはアテナの事だ。骸骨たちに邪魔されて近づく事すら出来ないでいる。
そんなアテナは真顔でひたすら骸骨たちを生み出し続けている。
リリカは骸骨たちをひたすら攻撃して倒すばかり。
一方、レオハルドはふらふらのまま立ち尽くしていた。
「だははは! そんなふらふらで何が出来るんだ? 剛爪回!」
右足を蹴り上げ、爪状の斬撃を飛ばし、縦に回転させ放つ。
レオハルドは体を退けて避けるが、右肩をかする。
「俺様を嘗めるなよ......ライトニング......」
狼魏に向かって飛び出し、懐へ入る。
右手に纏っている雷の爪状のオーラをドリル状へと変化させる。
「パーフォレイト!!」
狼魏の腹に雷のオーラを纏った右手を貫かせる。その時、狼魏の全身に雷が流れる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
狼魏はなんとか耐える。
「この......野郎......剛爪貫!」
両手に爪状の斬撃を纏って、レオハルドの背中と腹に突き刺す。
両者はしばらく、その状態でいた後に、レオハルドは右手を抜きうつ伏せに狼魏は両手を抜き仰向けに倒れる。
レオハルドは大量出血でこれ以上は立てそうにないし、動けそうにない。ましては戦う事すら出来ない。息をするのがやっとだ。
狼魏の方を見ると流石に気絶していた。
「へへっ。俺様の勝ちだな」
残るはリナと大雅、リリカとアテナのみとなった。
だがそう簡単に勝てる相手ではない。リナとリリカは勝てるのであろうか?
大雅は床を蹴ってリナに向かって飛び出す。リナは両手に持っている拳銃の銃口を斜め後ろに向け、炎を床に撃ち、その反動で大雅に向かって飛び出す。そして大雅に体当たりして窓にぶつける。
窓ガラスが割れ、二人は外へ出る。大雅は空中を蹴って、リナは拳銃から炎を撃って、互いに離れて距離を取る。
その時だ。先程までリナと大雅がいた部屋から無数の影が刺になって出現して部屋を貫く。部屋が崩れてその部分だけ無くなった。
下の階へ落ちたスノーとクラミは無事でいた。
「今のは何だったのですか?」
「さぁー。分からぬが嫌な予感がする......!!?」
クラミが何かに気付き、スノーの前に立ち防ぐ。
刺の影が無数に現れてクラミに突き刺す。
「クラミさん!?」
「ぐっ......」
影はクラミから離れて主人の所に戻る。クラミは吐血して両膝を地につける。
気絶していたマリーがそこに立っている。表情は怒りに満ちていて拳を握り締めていた。
「よくも......よくも......僕を虚仮にしてくれたな」
部屋を崩した影もなくなっており、マリーの元へ戻る。
「貴様、まだやるつもりか?」
「君たちを許さないから。絶対に許さない! 殺してやる!!! シャドウランス!!」
足下から刺の影を無数に出し、クラミとスノーに向かわせる。
「アイスフィールド!」
スノーは全ての影を一瞬にして凍らせる。部屋も少し凍り、気温が下がる。
クラミは力を振り絞り立ち上がる。立っているのがやっとだが、髪留めを外し、ポニーテールをほどく。その瞬間、緋色の瞳が、漆黒の瞳へと変わる。
「私はサインサルト王国騎士団の団長、クラミ・レッドガルド! 姫様をお守りする者!」
剣を両手で持ち構える。今、自分が果たさなくてはならない事。それは、この国を担うであろう次期王リカを護る事。だからこそ、クラミにとって負けられない闘いだ。
「君たちは僕を怒らせた! きっちりと返させてもらう!! シャドウソード!」
マリーは影の剣を出現させて、それを右手に持ち、クラミに向かう。クラミもマリーに向かって飛び出す。
両者は剣を振るう。互いの剣がぶつかり金属音が響く。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
両者は雄叫びを上げて、力を入れる。押し合い、剣が震える。
徐々にクラミの剣がマリーの剣に食い込み、そして折る。その勢いのまま、マリーに斬りつける。
「うっ!」
マリーは右肩から左脇腹にかけて斜めに斬られた。
まさか......僕が負けるなんて......。
今まで多くの人を殺してきた。心がない訳ではない。だが、悲しくもない。
強くなるため、邪魔する者は排除してきただけ。
なのに、こんな騎士に負けるとは愚かだ......。
ごめん......僕は君のために......君がこの世界を憎んでいるのに......。
マリーは仰向けに倒れて瞳を閉じて気絶する。
「はぁ......はぁ......やったか......」
「そのようですね。クラミさん、大丈夫ですか?」
「これぐらいは問題な......い......」
クラミは倒れかかるが、スノーが支える。無茶し過ぎですよと思ってそう。
「剛腕砲!」
大雅は右拳を振るい、衝撃波を飛ばす。リナは2丁拳銃を交差して防ぐ。だが、勢いに負けて体勢が崩れる。左手の拳銃から炎を撃ち、体勢を立て直す。
大雅が目前に来ていて、両拳をリナにくっつける。
「剛腕砲......2連!!」
両拳から衝撃波を出す。その衝撃により、リナは耐えられず気絶して落ちる。
ビル4~5階の高さぐらいから落ちた。普通なら即死するレベルだ。
落ちたリナの近くに大雅は着地する。
「そんなものか? 英雄の力は?」
リナは仰向けに倒れていて、左手を少し転がっている拳銃に伸ばす。しかし、大雅の左足に左腕を踏まれしまう。
「どうせ死ぬのだ。苦しみながら死ぬがいい」
大雅は左足に力を入れてリナの左腕に踏みつける。
リナは痛み叫ぶ。それしか出来ない。左腕の骨が折れた感じがする。
うん、完全に折れたな。けれど、リナは諦めてない。
痛みに耐えながら右手の指を動かす。まるで操っているかのように動かす。
「何をしている?」
「私は諦めない......貴方を倒すまでは!」
リナの刀が何処からかやって来て、大雅の背中から突き刺す。
「ぐっ! これは!?」
刀が背中から胸の中心にかけて貫いている。
操演魔法。武器や物と言った無機物を操る事の出来る魔法。
「貴様......2つの魔法を使えるとは......」
「これでも、私は英雄の娘......甘く見るな!」
リナは右手の指を動かし、拳銃を引き寄せ手に取る。そして大雅に銃口を向ける。
「フレイムボルケーノ!」
炎を撃って炎が大雅を高く舞い上がらせ、空中で爆発する。まるで火山が噴火したみたいだ。
大雅は落ちて横向きに倒れる。
突き刺さっていた刀は取れて地面に突き刺さっていた。
「お姉ちゃん、私はやったから......負けないで。信じてるから......」
リナはゆっくり瞳を閉じる。
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