第10話 王女と教師
残ったリナ、スノー、クラミ、レオナルド。
大雅は人差し指と中指で刃を挟みながら、右腕を振るう。飛ばされたリナが壁に叩きつける。
スノーがリナに近づこうと動いた瞬間、影の刺が地面から飛び出して行く手を塞いだ。
「行かせると思った?」
どうやら、マリーの仕業だ。
狼魏はレオナルドに向かって飛び出して、右拳を振るう。
レオナルドは両腕をクロスして防ぐ。だが、飛ばされ、壁を崩し廊下へ出される。
狼魏も部屋から廊下に出る。
「ぎぃははは! 獣人よ、この俺が相手だぜ」
「けっ。上等だ!」
レオナルドは両手に雷の爪状のオーラを纏う。
壁に叩きつけられたリナは少し痛みに耐えながら立っている。
足はふらふらだが、なんとか立てている。
「随分とダメージがあるようだが?」
真田から受けたダメージがまだ残っている。それとレオナルドとの戦闘で受けたダメージもあり、リナは息を切らしている。
「貴方との戦闘には問題ない」
「ほぅ。威勢が良いようだな」
スノーが氷の息を吐く。マリーはふんわりと避ける。
クラミが剣を鞘から抜き、マリーに近づく。だが、クラミの動きが止まる。
マリーから伸びる影がクラミの影とくっついていた。
「これは一体!?」
「僕は影。自然系魔法の1つ。影魔法の使いなんだよねぇ」
クラミの体が勝手に動く。スノーの方に向き、右手に持っている剣を掲げる。そして、剣を振るうのであった。
スノーは避けたが軽く斬られる。
「クラミさん、一体何を!?」
「すまない! 体が勝手に!」
マリーは面白おかしく笑っている。
そう、クラミは操られているようだ。マリーの影によって。
自分の意思とは関係なく体が勝手に動く。ひたすら、スノーに剣を振るう。
スノーは避け続ける。これでは攻撃ができない。
マリーに近づこうとするが、クラミに止められ、近づく事すらできずにいる。
みくるの匂いを辿って、教室へとやって来たリリカとリカ。
そこは机と椅子が転がっており、窓側にみくるが壁に背をつけた状態で座っていた。
見るとみくるは血だらけでいて、意識はある。
リリカとリカはみくるに近づき、しゃがむ。
「先生! 大丈夫!?」
「.....り......リリカか......」
力を振り絞り、口を動かす。意識はあるが見えてはない。
「一体、何があったのだ!?」
「リカ王女までいるとはな......リリカ、気を付けろ......奴は強い......」
「喋らないで! 急いで止血するから」
リリカは必死で止血する。自分の制服のスカートや袖口の一部を破いて、それをみくるの怪我した部分に押し当てる。
すると、リリカとリカの後ろに誰かいるのを感じて二人は振り向いた。
そこにいたのはニット帽を被った銀髪で赤い瞳をした少女だった。
「お前がやったのか?」
「そうだとしたら?」
「リカ......先生を頼む」
リリカは立ち上がる。リカがリリカの変わりに、みくるの止血する。
「先生に.....先生に......」
両拳を強く握りしめる。少しずつだが全身を震わせていて、歯を食いしばる。
リリカの周りに炎が出て、火花を散らす。感情で無意識に炎が出る。
「何をしてんだよ......お前......!」
「邪魔する者を排除するのが妾の仕事」
一気にリリカの怒りがこみ上げてきた。許さない......許さない......。
今まで感じた事がない気持ちになり、爆発しそうだ。
「許さねぇ......絶対に許さねぇ! お前を......」
呼吸を整えて瞳を閉じる。感情のままに行かず、冷静になるために心を落ちつかせる。
所変わって、リナは床に刀を突き刺し、それを支えに立っている。やっとの思いで立てているため、辛くきつく、倒れそうになる。
「貴様を相手している暇はない」
「この状態でもお姉ちゃんを護るために.....」
リナは刀を床から抜き、鞘を両手で持ち、瞳を閉じて構える。
「貴方を斬る!!!!!」
「お前をぶっ飛ばす!!!!!」
リリカとリナは同時に瞳を開けて、水色から緋色へと変わる。
場所は違えど、まるで阿吽の呼吸かのようだ。
リナは大雅に向かって飛び出す。
「伊南川流......壱ノ型......火車!」
刀に炎を纏い、縦に回転しながら、大雅を斬りつける。
咄嗟の事に防御できず、大雅は斬られてしまい、左膝を床に着ける。
「ぐっ......やるな......」
リナは大雅の後ろに着地する。
リリカは左拳に炎を纏い、ニット帽の少女に向かって飛び出す。
「爆拳!」
左拳を振るう。しかし、ニット帽の少女に軽々と避けられた。
そのまま、横に回転して右足に炎を纏い回し蹴りする。これも軽々と避けられる。
後ろへ下がるニット帽の少女は左手の平をリリカに向ける。
「我が名はアテナ。我に仇なす者を闇へ葬りたまえ! 行け! 我が闇の住人たちよ!」
アテナの周りに骸骨の死人が複数、床から現れる。
骸骨たちはリリカに向かって襲いかかる。
「何だよ!? こいつら!」
リリカは骸骨たちを殴ったり蹴ったりして払い除ける。
だが、骸骨たちはやられては復活して襲いかかり、またやられては復活して襲いかかる。
「何なのだ!?」
「奴は......神の名を持つ者......死人を蘇らせ操る魔法を使う.....」
「みくる、喋らない方が良い! 傷口が広がるぞ!」
この私、東みくるを必死に止血するリカ王女。しかし、血は止まる気配がない。
今、私のために戦っているのはリリカ。我が教え子。
だが、奴は神の名を受け継ぎし者。そんな奴に勝てるのか。
それでも私は期待している。何故なら、リリカはあいつの子。世界が認めたこの世界の王.....その娘。
私は走馬灯のようにリリカに出会った時の事を思い出す。
リリカが10歳の時だ。
教師たちがいる教室。当時、リリカがいるクラスの担当だった教師が悩んでいた。
私は当時、初等部の生徒指導担当をしていて、その教師の悩みを聞いたら、リリカが男子と喧嘩したとの事。それだけではなく、かなりやんちゃで授業をサボりがちで、しょっちゅう誰かと喧嘩したりしているのだと言う。
そこで、私はリリカを呼び出しする事した。
お互いに向き合って椅子に座る私とリリカ。リリカは暇そうに足をぶらぶらと揺らす。
「担当から聞いたが、貴様は私が面倒見る事にする。教室には行かなくても良い」
「先生が教えてくれるのぉ?」
「あぁ。貴様の父とは知り合いでね」
「へぇー。パパの知り合いなら信用できるな!」
リリカはニカッと笑顔になる。何だろうか。この笑顔に救われる気がする。可愛いなぁ......って何を思っているんだ私は!
そうか。英雄の娘だからと周りから期待されてきたのか。
それに嫌気がさし、期待を裏切るような行動してきた。自分は自分だと言うように。
王位継承権を放棄したのも、王族の暮らしに嫌気をさしたから。それはこの国の女王であるリリーから聞いている。
あいつの子らしい。というか、あいつにそっくりだ。
色々とあり、他人を信用しなくなったのだろう。昔は極度の人見知りだったと言う。それもあり、余計に信用しなくなった。
それでも私はリリカをほっとく事はできなかった。父と母が亡くなったリリカを育てるとリリーと約束したのだ。
リリカを陰ながら見ていた。あの子は本当は優しいのを知ってる。
だからこそ、今、リリカが戦っているのを嬉しく思う。
あー、意識が遠のいてくる。気付くと、私は瞳を閉じながら、涙を流していた。
そうか。私は死ぬのか......。
レオハルドは全身に雷を纏い、ものすごい速さで狼魏に向かう。その速さは雷が落ちるのと同じ。
「ライトニングクロー!!!」
右手の爪状の雷を切り裂くように振るう。狼魏はその右手を右足で蹴って受け止める。
一旦、後ろへ下がり、右手を地面に触れる。
「ライトニングサンダー」
周囲に雷を降らす。狼魏には当たらず、軽々と避けられる。
「だははは。良いぜぇ。剛爪!」
狼魏は右手を振るい、爪状の斬撃を出す。レオハルドは向かってくる斬撃を、左手は振るいかき消す。
「お前ら、一体何者だ?」
「俺たちか? 俺たちはある男から依頼され、その内容はてめぇらが持っているカオスルビーとピースサファイアを奪う事。ついでに殺しても構わないってよ」
「そうかよ! ライトニングクロークロス!」
狼魏に近づこうとする。だが、狼魏が両手を前に出し両手の指を曲げていて構えていた。まるで動物の牙みたいに見える。
その両手を閉じて合わせる。すると、牙状の斬撃がレオハルドを噛みつかれたように挟む。尖った部分が体に食い込み、血が吹き出し吐血までする。
何が起きたかは分からず、ただやられた。足がもたれ倒れそうになるがなんとか四つん這いになる。
「だははは! 弱っちぃな。俺の剛牙をくらうとはな」
笑いながら、情けなねぇなと思ってそうだ。
レオハルドは立ち上がろうとする。力が入らず、すぐに倒れかかる。けど、それでも立ち上がろうとする。
なんとか立ち上がったが、ふらふらで倒れそうになる。踏ん張って立ち続ける。
「ほー。まだやるのか?」
「まぁーな。まだ負けてねぇからな!」
「てめぇー、名は?」
「レオハルドだ。お前を殺す男の名だぜ!!!」
最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回もよろしくお願い致します。




