幼馴染JCは元人妻だったそうです!
『GC短い小説大賞』用の『このヒロイン実は……』をテーマに描いた作品です。
楽しんで頂けたら何よりです!
「幼馴染のゆう君だから、私の秘密教えるね。私、元・人妻なの」
ゆうくん、こと、俺、鮎川優治は、幼馴染である海野瀬那に告白した。
海野瀬那は、キレイな黒髪ロングで、グラビアアイドル顔負けの豊満な身体、そして、整った美しい顔、そして、母性溢れる優しさと中学生とは思えない妙な色気があった。
なので、死ぬほど告白もされていたが、瀬那はどれも断っていた。
だから、もしかして瀬那って幼馴染の俺の事を……?
そう思うのは思春期中学生男子としては、当然の思考ではないだろうか。
そもそも瀬那は、幼い頃からずっと俺に優しくて、好き好き言ってくれていた。
だから、高校入学前に思い切って告白した。
結果、言われたのが先ほどの言葉。
『私、元・人妻なの』
人妻。
結婚した女性。通常、夫以外から呼ばれる呼称。
なお、日本の法律では16歳以上で泣ければ女性は結婚できないはずではなかっただろうか。俺の記憶が確かならば、彼女はどこか海外で結婚、もしくは、ロリコン野郎と結婚もどきをさせられていたのだろうか。
「あのね、私……前世の記憶があるの」
違った。
彼女は、ラノベとかで言うところの転生者らしい。
前世では、鮫島美波という名前で、人妻。30歳で死んでしまったというのだ。
「で、でも、今の瀬那は、15歳だろ? あ、来週で16歳だけど……じゃあ、気にすること……!」
「そうは言われてもねえ、前世の記憶を持って生まれちゃうとね、気持ちとしてはもう45歳くらいなのよ。ゆう君くらいの子供なんて普通にいる年よ」
頬に手を当てて溜息を吐く仕草は妙に大人っぽくてどきどきするのだが、なるほど、それは瀬那の記憶の蓄積による人生経験の豊富さがそう見せていたのかもしれない。
「ちょ、ちょっと待て。じゃあ、小さい頃から俺を可愛がっていたのは?」
「前世で子供に恵まれなくてね……身近の小さい子供、ゆうくんに母性が疼いて……」
「じゃ、じゃあ、あれは、俺の事が好きだからとかじゃなかったのか……」
「な、な~に言ってんの! もうおばさんをからかっちゃ、め! よ」
お母さんである。完全なるお母さんだ。
瀬那の話を聞いた今だから分かる。
瀬那は俺を男として認識できていないのだ。
つまり、俺はただの子守り対象だったわけだ。
「じゃあ、ちっさい頃、この公園で遊んでいた時って」
あの頃、瀬那は俺のヒーローごっこによく付き合ってくれた。
他の女の子はよく俺にままごとのだんなさん役をやらせようとしていやだったけど、瀬那だけはわがまま言わず一緒に楽しそうにやってくれた。
「無邪気にヒーローの真似をするゆう君、すっごく可愛かったわねえ」
お母さんだった。
「小学校の時、いっつも俺のこと褒めてくれたのは?」
小学校時代、ことある毎に褒めてくれた。
かけっこで一番だった時も、テストでがんばった時も、嫌いなものを食べた時も、全部褒めてくれた。
「ゆう君ががんばったらそれは褒めてあげたくなるわよ」
お母さんだった。
「中学の時、部活の先輩が俺の事いじめてた時に怒ってくれたのって?」
中学時代、先輩たちが俺のことをよく思っていない事は知っていた。
理由は単純。俺が瀬那と仲が良いからだ。
『ふざけないでください! ゆう君は良い子なんですよ! いじめるなんて絶対に許せない!』
そう言って学校で、大声で怒ってくれた。
「だって……ゆう君はこんなおばさんにも優しい良い子なのに」
お母さんだった。
「そっか……そうだったんだ……」
「ごめんね……」
思い出せば心当たりがいっぱいあった。
『ゲームばっかりやってないで勉強なさい』
『好き嫌いしてたら大きくなれないわよ』
『するする言って全然始めないんだから』
お母さんだった。
でも、
「でも、それが瀬那を諦める理由にならないよね?」
「え?」
「だって、今は結婚してないわけでしょ」
「そう、だけど」
「だったら……!」
「でも、ね……私、ゆう君を男性として見られたことがないの。これからもきっと、ゆう君が大人になったとしても、私の心も年をとっていく。ずっと、同じ距離で年をとっていくの」
瀬那の言う事は分かる。
瀬那に比べれば、俺なんてガキにしか見えないだろう。
優しくて大好きだった瀬那の瞳が今は辛い。
「でも! 瀬那……!」
俺が自分の思いをぶつけようとしたところ、瀬那は俺の後ろを見ていた。
その顔は見るからに青ざめていて……
「どうした? 瀬那……」
「あ、いや、その」
初めて見る瀬那の表情。
普段、虫以外で慌てることのない、多少理不尽な相手もまあまあと流す落ち着きある瀬那が怯えている。
振り返ると、眼鏡を掛けた目つきの鋭い男の人が電話で叫んでいた。
「いいから、さっさとなんとかしろ! 仕事を舐めるんじゃない! ちゃんと作家には締め切りを守らせろ! どんな手を使ってもいい!」
厳しい声で電話先の人を怒り続けていた。
「あ、あの、ゆう君、もう行こう。こ。ここから出よう」
瀬那は俺の手を引いて公園を出ようと男の前を通り過ぎようとしたときだった。
男が再び叫んだ。
「ったく、君は本当に使えないな! 死んだ妻そっくりだよ!」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! もっと、ちゃんとしますから! お料理も洗濯も掃除もゆーちゃんのお世話も貴方の為にちゃんとしますから」
瀬那はとっさに謝っていた。まるで何度も何度も繰り返した言葉のように流れるように。
「あ……」
「その言い方……もしかして、美波、か……」
「真治、さん……」
「なんで……? いや、え? もしかして、生まれ変わったのか? なあ、おい! 答えろよ!」
「ああ! そう、みたいです! ごめんなさい! ごめんなさい!」
真治さんと呼ばれた男に詰め寄られて、瀬那は泣きながら頭を下げていた。
俺は何が何だか分からないけど、瀬那の苦しそうな表情を見て思わず声をかけていた。
「ちょ、ちょっと、やめて下さいよ」
そして、男は俺に気が付く。
「なんだお前は!? 部外者は黙っていろ!」
「ひっ!」
怒鳴られ思わず瀬那の方の声が出てしまう。
「部外者っていうか、俺は今のコイツの幼馴染なんです」
「幼馴染だと?」
俺を品定めするように見てくる男。
俺は、コイツが嫌いだ。
ウチの親父と同じくらいだから50代くらいだろうか。
けど、なんていうか、コイツは親父と違って、女をモノみたいに見ている気がする。
コイツに、瀬那は近づけたくない。
「はい。だから、やめてください。大体、生まれ変わりって本当に信じてるんですか?」
「私は、出版社で働いていて、それなりに理解はある。それに、いきなり私の名前を言い当てたし、喋り方が死んだ妻そっくりだ。疑う余地がない。今、お前はなんて名前なんだ? おい!」
「ひ! 瀬那です! 海野瀬那です!」
「ばか! 簡単に言うな!」
こんなミスをするような瀬那じゃない。確実にコイツのせいでおかしくなっている。
「相変わらず、トロい女だ。イライラする。若返ってもそうなのか」
「ご、ごめんなさいごめんなさい!」
コイツと瀬那の感じを見て分かる。
コイツは瀬那に、自分の嫁を大切にしてこなかった。
なんだったらDVとかしてたんじゃないだろうか、瀬那がずっと震えている。
「まあいい。トロいお前でもいないよりはマシだった。しかも、以前より美人になったな。俺のところへ来なさい。分かっているだろう、俺ならば不自由させない」
「で、でも……今の私は、今度高校生になるばかりで……」
「ち……じゃあ、通え。金は出してやる」
「で、でも私」
「口答えするな!!!」
「うるせええええ!」
俺は叫んでいた。
コイツの言い方も瀬那を見るいやらしい目も全部、全部気持ち悪い。
「好き勝手言うな! 大体、今、お前! 中学生を家に連れていこうとしてるど変態クソヤローだからな!」
「な……!」
俺の言葉に男が怯む。
「な、何を言っているんだ! このガキがぁ!」
「事実だろうが! 瀬那が嫌がっているのが分からねえのかよ! そんなの、ただの誘拐犯だぞ! 大体……お前、全然コイツの事分かってねえじゃねえか! トロいけどいないよりマシ? コイツのゆっくりとした時間が一緒にいて落ち着くんだろうが! それに服を畳むのも丁寧でちゃんと着なきゃなって思わされるし、ご飯食べてる時も良く噛んで食べていつもちゃんといただきますとごちそうさま言ってて偉いし、花に水やる時話しかけててめちゃくちゃかわいい! お前なんかにコイツは絶対にやらねえよ! ばあああか!」
「こいつ! 言わせておけば!」
男は俺に向かって殴りかかってきた。
俺は咄嗟に瀬那を庇う。
中学生と大人じゃ勝てそうにない。けど、瀬那だけは守りたい!
「ゆう君!」
男は俺の背中を蹴り続けてくる。
俺は必死で壁を手で押さえながら瀬那が潰れないように耐える。
「ゆう君ゆう君! お願い、真治さん! もうやめて!」
「じゃあ、言え! 俺に従うと言え! 早く! 早く!」
男の様子がおかしい。もしかして、コイツ……。
瀬那を見ると、目に涙を浮かべてじっと俺を見ている。
お母さんみたいな目で見ないでくれよ。
「俺、本気でお前が好きなんだから」
そう言うと、瀬那は涙をぽろぽろ零しながら叫んだ。
「……そ、それ、は……それだけは言えません! ゆう君の代わりに私が殴られますから! もう帰って下さい! お願いです!」
瀬那の声が綺麗で通る。
びっくりするくらい響き渡ったその声と、遠目でも分かる芸能人並みのスタイルと顔の美少女が泣いているのを見て、人が集まりだしている。
「く……! 来い! 早く来い!」
俺を突き飛ばして、瀬那を連れ去ろうとする男だけど、必死になっているせいか、隙だらけだ。
俺はとっさに避けて、男の股間を蹴り上げた。
「ぐわあああ!!!」
男はそのまま倒れ込む。
そして、そのまま抑え込み、警察を呼んだ。
瀬那と俺は警察に保護され、事情を聞かれた。
瀬那は、あの変態に連れ去られそうになったと話してくれた。
そもそも生まれ変わりなんて、信じてもらえるはずがない。
アイツは生まれ変わりだって言い張ってたみたいだけど、意味がないだろう。
警察にも殴りかかっていたみたいで、もうダメだろうな。
『美波ぃいいい! 美波ぃいいいい!』
叫び声が聞こえた気がしたけど、俺達にとってはもう関係ない。
「もう大丈夫。あの人は終わるから」
瀬那がそう言った横顔は大人っぽかった。多分、瀬那は……いや、美波さんは……。
解放された俺は、そのまま、瀬那の家に引っ張り込まれた。
「いや、いいから!」
「よくないわよ! ばいきんが入ったらどうするの!」
瀬那は、泣きながら怒って、俺の手当てをしてくれた。
結構擦りむいていて、あちこち血だらけだった。
「痛かったよね……大丈夫?」
「あ、ああ」
俺の傷口に消毒液をつけてガーゼを当てて包帯を巻き終わると、瀬那は安心したように笑っていた。
「良かった……ごめんね……でも、ありがとう」
「……どういたしまして」
「まったくもう……なんでこんな」
「瀬那が好きだから」
俺はまっすぐ瀬那を見つめて言う。
「こんな事言ったらダメかもしれないけど、今日、俺は瀬那の弱い所を見て、絶対に守ってあげたいと思ったんだ。俺は本当に瀬那が好きだって思ったんだ」
「で、でも、私なんておばさんで……」
瀬那が色っぽく髪を掻き上げながら、困ったような笑顔を浮かべる。
いつも、この顔で引いてしまう。大人っぽい仕草に圧倒されて。
でも、今日は引かない!
「俺、頑張って大人になる。お前にふさわしい大人の男になる。そんで、お前を絶対絶対しあわせにする」
「……ゆう君……あの……えっと……でも……」
「瀬那は、俺の事、嫌い?」
「嫌いじゃないわ。好きよ、でも、私、ゆう君をこどもにしか見られなくて、その……」
「今日からでいい。今日から俺を一人の男として見てくれ」
「んんん! 分かった! 分かったから! そんな目で見ないで! て、照れるから」
瀬那は両手で顔を隠していやいやする。耳は真っ赤だ。かわいい。
「これから、私は、ゆう君を男性として、恋愛対象として見ます! これで、いい?」
「……うん、ありがと。瀬那」
これだけでも、こう言ってくれるだけでも俺は嬉しくて笑ってしまった。
瀬那は俺を見て固まってたけど、しまった、何か変な顔してたかな?
それから俺の瀬那への猛烈アプローチが始まった。
*********
【瀬那視点】
「おはよ」
「お、おはよ……」
朝、ゆう君が迎えに来た。
いつも通りだ。
いつも通りのはずなのに、なんだろう?
顔が熱い。
ゆう君は私の手を握って歩き出す。
ゆう君の手が温かい……。
ゆう君が男の子に見える。
ゆう君がどんどんカッコ良くなっていく。
ゆう君が……。
「ねえ、瀬那?」
ゆう君が呼んでる。
はっ! いけない! ぼーっとしてた! ゆう君が心配そうにこっちを見てる!
「な、何!?」
「いや、なんかボーッとしていたみたいだったし、それに、その……俺の顔見て、赤くなってるけど、どうかしたのかと思ってさ」
うわ! バレてる! 恥ずかしい!
なんでだろう、ゆう君を直視できない!
「そ、それは、ほら、あれよ。えと、ちょっと、寝不足で眠くて!」
「そっか。ああいう事があったしな。無理すんなよ」
そう言ってゆう君は頭を……
「ほわああああああああ!」
「あ、ご、ごめん! やだったよな? 頭撫でられるなんて……」
「あ、いや、その、いやじゃなかった、よ……」
「良かった。嫌がられたかと思った」
「き、気にしないで! 大丈夫だから!」
45にもなって、中学生の男の子に頭撫でられるんなんて!
いや、実年齢は15だけど!
でも、でも!
恥ずかしいぃいい!
私が慌てるとゆう君が笑う。
今日はなんだかおかしい。
ゆう君を、見ているとどきどきする。
こんな気持ち初めて。
今までは、ただ、我が子のように思っていたのに。
もしかして、ゆう君のこと……。
だ、ダメダメダメ!
だめよ。きっと気のせいよ。だって、ゆう君は子供よ。
そうだ。ゆう君はこれからようやく高校生だし、まだまだ成長期。
背も伸びるかもしれない。
そうなったら、もっと格好良くなるかも……って、ダメェエエエエ!
何を考えてるの私!
「あの、瀬那?」
「ひゃああ!」
ゆう君が肩を叩く。どきどきする。
「大丈夫か?」
「らい、じょーぶ……」
ゆう君が心配してくれる。どきどきする。
「そっか、なら、よかった」
「ぅん……」
ほっとしたのか笑顔を見せてくれる。どきどきする。
こんな甘酸っぱかったっけ? 青春って……ああんもう!
どどどどどどどどうしよう。このままだと私、おかしくなりそう。
「はは、変な動きしてるぞ、瀬那。それもかわいくて好きだけど」
「ふわぁ! ちょ、いきなり、あ、ああ、あんまり言わないでよ!」
「どうして?」
「だって……恥ずかしいもん……」
「俺はもっと言いたいんだけど?」
「え?」
「瀬那、好き」
「ひゃあ!」
「大好きだよ」
「あぅ……」
もう駄目だ。
年甲斐もなく、私はゆう君に、いや、優治に恋をしている。
私を守ってくれたこの人が……。
「ひゃっ!」
優治がまた、手を握ってきた。
顔は真っ赤だ。
多分、私も真っ赤だ。
30歳魂の年の差がある私達だけど、少しずつ近づいていこう。
今は、一緒に歩いて、同じようにどきどきしているから。
少しずつ少しずつ。
お読みくださりありがとうございます。
このヒロイン実は……というテーマで考えていた時に、ふと
『見た目十代なのに中身がちょっと落ち着いてしまった三十代。逆に三十代が十代みたいな恋愛してたら照れちゃってかわいいんじゃね?』
という謎思考でたどり着いた作品です。楽しんでもらえたら嬉しいです。
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