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愛してました、たぶん  作者: たろ
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わたしのお父様

シャノンは19年前、スティーブ・ロスワート侯爵23歳、ジョアン20歳の二人の間に生まれた。



サラサラの銀色の髪は母。

真っ黒い瞳は父の瞳と同じ。色白で美しく整った顔立ちは母に似ている。


3歳の時に母が流行病にかかり半年ほど寝込んだ末に亡くなった。


幼すぎたわたしにとって母との思い出はあまりない。


悲しくて辛いとまでは思わなかったが、母がいれば寂しい時嬉しい時一緒に思い出を作れたのかなと思ってしまうときはあった。


でも、ノエル様といると、もし母がいたならこんな感じだったのかしら?

あんなに優しく愛おしげにわたしを見てくださるのかしら?とつい思ってしまう。


父はあまり邸に戻ることのない人だった。侯爵家は王都にも邸を構えているが、南方に広大な領地を持ち、農業と鉱業とかなり栄えているため、いつも忙しく領内を回っている。

邸に戻っても執務室からあまり出てこないので、わたしにとって父は遠い存在である。

たまに会うと

「勉強はどうだ?」

「侯爵令嬢として恥ずかしくないように」

「成績は落とすな」

など厳しい言葉しか言われない。


「お話があります」と

伝えると

「忙しい、無駄なことに時間は取れない」

と怒られる始末。


わたしは良い子でいた。

我儘を言わないで迷惑をかけないように過ごした。

ただ父に褒められたいと勉強もピアノもダンスもマナーも頑張って勉強した。 


父の領地運営に少しでも役に立ちたくて、家令に少しずつ教わって忙しい父のフォローをしたいと思っていた。


家令のクリスは、父に内緒でわたしにも仕事を振ってくれてわたしも父にほんの少しでも近づいた気分になっていた。



◇ ◇ ◇


15歳になったある日わたしは父におしゃれをして一緒に出かけるように言われて、いつも以上にロニーたちに着飾ってもらって父と出かけた。


それが、政略結婚をするためのお見合いだとも知らずに。

ベルアート公爵家に行って、ラウルに出会った。


ラウルは学園を卒業したばかりの18歳。

もともと騎士団に入隊していて学生と騎士と両立して朝から晩まで頑張っていた。

学園を卒業後、公爵家後継者として領地運営などの仕事も精力的に覚えているところだった。


彼は騎士なのにとても細くて背が高くてがさつさなどなく、優しい顔立ちで見つめることが出来なくてドキドキした。


帰りに馬車に乗った父は不機嫌に一言。

「お前が出来ることは侯爵家のためになることだ、わかっているな?」


(お父様は絶対断るなと言いたいのね)


「はい、かしこまりました」


◇ ◇ ◇



わたしは結婚式の日に満面の笑みを湛えて、父に最後の挨拶をした。


『ロスワート侯爵様、もう二度とお会いすることはないでしょう、さようなら』

と……


そう、わたしは父を捨てたのだ。


何度も何度も父の愛情を求めたけど返ってきたのはキツい言葉と冷たい目線。


一度も笑ったことがない、優しく話しかけられたことがない、熱が出ても喘息で苦しんでも入院しても一度もわたしに会いにきてはくれなかった。


わたしは侯爵家の一つの駒でしかない、モノなのだ、離縁されればただのゴミ。


今頃、ロスワート侯爵はわたしが離縁されてゴミ屑と化したことに怒り狂っていることだろう。


もしかしたらわたしのことなんてどうでもいいのかもしれない。


わたしは離縁された時に、何の価値もないゴミになったのだから。

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