エピローグ
お父様と和解してから半年後、わたしはダンと結婚した。
まだ研修中の医者の卵のわたしは、仕事に追われて妻としての仕事はあまり出来ていない。
新たに小さな邸を構えて数人の使用人を雇い、ダンと暮らし始めた。
「ダン、明日お父様と行ってくるわ」
「うん、せっかくの休みだからゆっくりしておいで」
「ありがとう」
わたしは母のお墓参りにお父様と行くことにした。
お母様のお墓参りに行くのは13年振りだった。
お墓は、母が好きだったベルアート領の海の見える丘にある。
王都から馬車で3日ほどかかる場所だ。
お墓の前には、海が見えた。
今まで考えつかなかったがこの景色を見て気がついた。
「海の向こうは、お母様が生まれた国なのね」
「そうだよ。ジョアンはベルアート領に来ると必ずこの丘に来て海を見ていたんだ。結婚を反対され家族を捨ててわたしの元へ来てくれた。もう帰ることが出来ない国が恋しくてもわたしには言えなかったんだと思う。だから、彼女の墓は、祖国が見えるようにここにしたんだ」
「そうだったんですね」
わたしは母のお墓の前に跪いた。
「お母様、わたしはダンと結婚しました。そして今わたしのお腹には赤ちゃんがいます。貴方の孫です。見ていただきたかった、抱いていただきたかった。わたしはこれからこの子の母になります、どうか見ていてください」
お父様は、お墓をそっと触って母に語りかけた。
「わたしが不甲斐ないばかりにシャノンには辛い思いをさせた。お前は怒っているだろうな、心配かけてすまなかった。ジョアン」
◇ ◇ ◇
「シャノン!お前なにやってんだよ!」
「え?お料理よ!」
わたしはもうすぐ子どもが生まれるので仕事はしばらくお休み。
使用人のアンナがいつも食事を作ってくれるのだけど、暇なのでわたしが今日は作ることにした。
なのに何故かフライパンの中身が焦げて炭になっている。
パンも温めたつもりがカチカチに固まっている。
スープは焦げ臭い。
「頼む、お願い。シャノンは何もしなくてもいいから、アンナの仕事増やすな!」
「あら?失礼ね。わたしだって頑張って作ったのよ!」
「悪いが食えない。お腹の赤ちゃんにもしものことがあったらどうするんだ!絶対に食うな!」
横でお父様は、なんとも言えない顔をしていた。
「シャノン、すまない……わたしも無理だ」
お父様を招待してわたしの手料理を食べさせるつもりだったのにみんなしていらないって……悔しくて一口食べたら、「ウェッ」ってなった。
わたしには料理の才能はないみたい。
アンナが作り直してくれたわ。
時折お父様はわたしの家に遊びに来るようになった。
まだお父様は若いので侯爵家を継ぐのはもう少し先になると思うけど、ダンは騎士団の隊長になり忙しい中お父様の仕事も手伝い始めた。
わたしは、このまま医師として働いていこうと思っている。
ロニーがわたしより数ヶ月前に母になったので乳母として今度はわたしの子どもの面倒も見てくれる。
わたしは、やっと愛する人が出来て幸せな家族を持つことができた。
 




