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愛してました、たぶん  作者: たろ
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ダンとわたしとお父様②

お父様には前もって都合の良い日にちの確認をした。


そして今日わたしはお父様に会いに行く。

もちろんダンも一緒だ。


久しぶりの我が家。

変わらない邸。

玄関で迎えてくれたのは家令のクリスだった。

3年振りのクリスは、やはり少し老けていて、白髪が増えていた。

でも相変わらず優しい笑顔で出迎えてくれた。


邸の中に入ると見慣れた人達がまだたくさん残っていてくれた。


「お嬢様お久しぶりです」

と、以前の呼び名で挨拶をしてくれた。

一瞬昔のわたしに戻った気がした。


でもここはもうわたしの居場所ではなくなっている。


みんなに挨拶してから、客室に通された。


紅茶を出されて、飲んでいると父が入ってきた。


わたしとダンは椅子から急いで立ち上がり頭を下げて挨拶をした。


お父様の顔を久しぶりに見たら、変わらない綺麗な顔立ちで今もなお社交界のおばさまから若い女性まで人気があるのがわかる気がした。


こんな風に冷静に父の姿を見るのは初めてかもしれない。

客観的に見た父は、落ち着いていて知的で物腰も柔らかい。


わたしが見ていた冷たく凍るような表情、いつも怒っているような話し方、それを思わせるものは今は見つからない。


「侯爵、お久しぶりです。お忙しい中お時間をとっていただきありがとうございました」

ダンは席を立ち父に挨拶をした。

わたしも隣で席を立ち挨拶をした。


「ご無沙汰いたしております。侯爵様、今日は忙しい中よろしくお願い致します」


「……久しぶりだな。シャノン」


父はわたしとどう向き合えばいいのかわからないみたいだ。

わたしもお父様と呼ぶべきなのか侯爵様でいいのかよく分からない。


除籍はしていないがもう会うこともないと思っていた人。

まさかもう一度向き合うことになるとはお互い思っていないはずだ。


「「・・・・」」


また、二人の無言地獄が始まった。


でも、今回はダンがいた。

ダンは空気など読まず突進してくる。


「……ハアア…そろそろお互い素直になりませんか?シャノンは、侯爵に「ありがとう」だろう?」


「え?」


「侯爵のおかげで大学に行かせて貰えたんだろう?感謝しろよ、捨てられたと思っていても侯爵はずっとほんとはお前を守っていたんだ。わかりにくいしめんどくさいやり方だけど」


「……な…っあ、わる…かったな」

父は苦虫を噛み潰した顔をしていた。


「…お、お父様」

父はわたしを見て驚いた顔をした。

わたしは3年振りにお父様と呼んだので

少し恥ずかしくなった。


「あの、わたし、大学に行って働き出して働くことの大変さを今身に染みて感じております。お父様がわたしを育てながら侯爵家のため、領民のために働くことの大変さも少しだけ分かった気がします。わたしは、お父様に求めるだけで寄り添うことはありませんでした。ダンにもっと表面だけではなく中にあるものを考えろと言われてお父様の気持ちも考えました」

わたしは父の目を見つめた。


「少しはわかっているのです。貴方の不器用な優しさにもわたしへの愛情も。でもずっと嫌われていると思っていたわたしには素直に貴方の事を受け入れられませんでした」

わたしは頭を下げた。


「ごめんなさい。育てていただきながら素直になれず、貴方を拒絶することしか出来ませんでした」


わたしはダンのおかげで自分の悪いところ、弱いところをやっと認めることができた。


「シャノン、わたしが間違っていた。君が望むなら除籍も受け入れるつもりだった。だが、ほんの少しでも可能性があるなら君ともう一度向き合いたい」


「わたしも少しずつ向き合えたらと思っております」

わたしは今まで一度もお父様に言ったことがない言葉を口にした。


「お父様、今までわたしを見守ってくださりありがとうございました」

わたしはお父様に頭を下げた。

下を向いたまま上を向くことが出来なかった。

涙が溢れて止まらない。


お父様が初めてわたしを抱きしめてくれた。

「シャノン、すまなかった。わたしが悪かった。辛い思いをさせてごめん」


お父様も泣いていた。






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