会ってしまった
アイリスとの面会は、想像していたものとは違っていた。
薬の副作用でアイリスの精神は壊れていた。
ロニーの血を見て興奮したのもそれが原因だった。
アイリスはもう誰にも分からない世界に行ってしまった。
でも時折子どもの頃に戻りいつもの可愛い笑顔でわたしを見た。
アイリス、わたしの大好きだった友達。
本当に失ってしまったのだと実感した今、彼女への怒りは消えて喪失感だけが残った。
ウィリアム様の薬に手を出さなければあんな事にはならなかった。
今更考えても仕方ないことだけど、やはり悔やまれる。
「シャノン……ごめんなさい」
一瞬だけ戻ったアイリスの最後のわたしへの言葉。
(アイリス、忘れないわ。大好きだったわ)
◇ ◇ ◇
ロニーが待っている部屋へ行く。
「ロニー、ごめんなさい。アイリスはもうきちんと話すことができなくなっていたわ。貴方への謝罪も……「シャノン様、もう話さなくていいですよ、涙を拭いて下さい」
わたしは全く気づかずに泣いていた。
ロニーは、ハンカチで涙を拭いてくれて、ギュッと抱きしめてくれた。
わたしが落ち着いてから、王宮内の留置所を後にした。
王宮内を歩いていると声がした。
「…っシャノン…」
声の方を向くとそこにはダンが気まずそうに立っていた。
「ダン、この前はごめんなさい」
わたしはすぐに頭を下げて謝った。
「あれからきちんと考えたの。わたしは、すぐに人に頼って自分では何も出来ない。お父様にも求めてばかりで自分から行動しようとしなかったわ。それに意地っ張りで、自分のことが精一杯で人の気持ちまで考えてなかったわ」
「シャノン、ごめん。あんなこと言うつもりはなかったんだ。ただ、簡単に除籍とかするもんじゃないと思ったんだ。あんなに苦しんできたのに分かり合えないで、簡単に終わらせるなんて勿体ないと思ったんだ。やっと分かり合うことが出来るかもしれないんだ。ダメだったらその時は除籍したらいいんじゃないか?早まって欲しくないんだ」
「シャノン様、全てを今すぐ決める必要はないのでは?もしも旦那様のことで傷つくことがあったらわたし達が全力でお守りいたします。もう少しだけ待っていただけないでしょうか?すぐに旦那様と向き合えとは言いません。いつか会いたくなったら会いに行きましょう。その時がこなければ除籍したら良いのではないですか?」
「ロニー……良いのかな?わたしみたいになんの取り柄もないのに侯爵家に籍を置いても良いのかな?」
何故かまた涙が出た。
アイリスが高い窓を見上げながら言った言葉を思い出した。
『シャノン、またお父様に怒られたの?泣かないで。今日はわたしがお泊まりしてあげるから一緒に寝ましょう?大好きよシャノン』
わたしはお父様に傷つけられたり一人で寂しい時、いつもロニーやアイリスが居てくれた。
泣いていたら手を握ってくれた。
もうこれ以上大切な人を失いたくない。
お父様と仲直りは出来ないかもしれないけど会えなくなるかもしれないと思った時の胸の痛みを忘れられない。
ダンだって、こんなわたしを見捨てるかもしれない。
いつも嫌なことを言ってくるダンは本当は一番優しいのかもしれない。
わたしを励ますためだったり頑張らせようと言ってくれたりしてたことにも気づいていた。
ただあんまり意地悪だからついこっちも拗ねたり言い返したりしてた。
「シャノン、お前は侯爵の子どもだろう?子どもは甘えてもいいんだよ。ちょっと老けててデカい子どもだけど」
「ふふ。それこそダンだわ」
「ああ、まあ、……ごめん、シャノン」
ダンと仲直りした。




