ウィリアム、現る
ロニーが元気になって退院した。
わたしはいつものように午前中は先生の執務室での仕事。
昼食を先生のお宅で頂く。
午後からは邸内の隣の診療所の入院患者さんのお世話に行く。
わたしの毎日のお仕事。
一人で隣の診療所に歩いていたら男の人にいきなり口を手で押さえられて、邸内の小屋に引っ張り込まれた。
「…う……うぐっ…」
何とか叫ぼうと思ったけど、押さえられた手が強すぎて声が出なかった。
(誰か助けて!ロニー!リーサ!ダン!)
邸内なので油断していた。
警備は邸の外で厳重にチェックしているので外ほど邸の敷地内は厳しくなかった。
わたしは引き摺られて小屋に押し込まれてた。
ドサッ!
「騒ぐなよ!」
焦った男の人の声が聞こえた、
薄暗い中、すぐに手足を縛られた。
薄暗い小屋は邸内の物置小屋だった。
物の出し入れの時しか使われない小屋だった。
中はホコリと物で雑然としていた。
ゴホンゴホンッ!
埃臭くて咳が止まらないわ。
わたしは、薄暗い中辺りを見回した。
「……ゴホッ……あ、あなたは誰?」
「やっと会えたな。シャノン!ウィリアムだよ!久しぶりだな」
「ウィリアム様?なぜわたしを……?」
まだわたしが狙われるかもしれないとは言われていたが、本当に狙われるなんて思っていなかった。
「俺はアイリスの馬鹿のせいでこの国に目を付けられた。もう逃げられない!
だから最後の賭けだと思ってシャノンを連れて隣の国へ行く。隣の国にさえ行けば向こうで仲間が待ってるんだ」
「わたしがいても隣の国には行けないと思うわ」
「お前は隣の国の王様の孫娘だ、何とかなるだろ?」
「だってわたし、お母様がそんなすごい人だったなんて知らなかったわ。隣の国に行ってもわたしのことなんか誰も知らないわ」
「お前の銀色の髪って珍しいって知ってたか?それは隣の国の王家特有なんだよ。その銀は王家の血筋のみに受け継がれるんだ。
だからお前を連れて行けば隣の国に入れるかもしれない。
それに最近はその髪を持った王族が減っているんだ。
お前を売ればいい金になる。
この国ではただ珍しいだけなんだけど、俺は、外国を回って商売してたから知ってるんだ」
「どうやってここから隣の国に行くの?」
「大丈夫だ。ここの使用人が手助けしてくれる。だからここの邸の敷地にも入れたんだよ。それに逃亡出来る様に人も雇っている」
「そんな…ここの使用人に裏切る人がいるなんて…」
「ほんとお嬢様は甘いよ。金と欲さえ満たせばいくらでも裏切る奴はいるんだよ!」
ウィリアムはわたしを連れて隣の国へ逃げるつもりだった。
なんとかして逃げないと……
手足を縛られているので動けない。
ウィリアム様は、わたしの顔を手で持ち上げると、
「ふうん、シャノン、さすがに美人だと言われるだけあるな。最近女不足なんだ。夜にならないとこの小屋からは出られない。暇な間、二人で楽しい時間を過ごそう」
薄暗い小屋の中で、微かに漏れる光から見えるウィリアム様の顔はニヤけていてとても気持ちが悪かった。
「やめてください!わたしは貴方と楽しい時間なんて過ごしたくありません!触らないで!」
「ふうん?何か勘違いしてないか?お前は今弱い立場なんだ。黙って俺に抱かれろ!」
バシンッ!
わたしはウィリアム様に叩かれた。
髪の毛を掴まれて引っ張り上げられて、わたしの顔にウィリアム様の顔が近づいてきた。
わたしは顔を逸らした。
「やめて!いやあ!」
「うるさい!黙れ!」
そういうと、わたしの体の上に覆いかぶさった。
「いやあー!」
わたしが叫んだ時
バンッ!
小屋の扉が開いた。
外から新鮮な空気と陽射しが入ってきた。
逆光で見えない。
ウィリアムの大きな声が聞こえる。
「うわあ!やめろ!痛いだろ!」
「何すんだよ!」
ウィリアムが取り押さえられて叫んでいた。
「シャノン!」
わたしに向かってきたのは意外な人だった。
「シャノン!大丈夫か?」
「お、お父様?」
「すまない、見つけるのが遅くなった」
お父様は結ばれていた縄を必死で解こうとしてくれていたのだが、とても不器用で解けなかった。
シュンとなってわたしの縄を解いているダンを横目で見ていた。
ウィリアム様はあっけなく捕まり騎士団に連れて行かれた。
わたしはまだ恐怖が続いて、体が震えていた。
◆ ◆ ◆
【え?嫌です、我慢なんて致しません!わたしの好きにさせてもらいます】
もしよければ読んでみてください。