愛を捨てた日②
執事に渡した紙は離縁状と一枚の手紙。
『残りの物は全てお捨て下さい』
何も書かなかった、ううん、書けなかった。
だって、目の前で浮気を見て、浮気相手に二人の事実を突きつけられて何を彼に言えばいいのかわからなかった。
彼がひたすら気持ち悪い。
あの優しい声も、笑顔も、あの手も、匂いも。
全てが気持ち悪いだけ。
わたしとラウルが初めて出会ったのは15歳の時。
両家が、お互いの領地での鉱物の加工品や民芸品、穀物や農作物などの流通など利便的なもので、共同で商会を始めた。
その時にお互いの繋がりを強くするための政略結婚だった。
商会はあっという間に国内でも一番の大商会となった。
ラウルは学園を卒業したばかりで、父親の後を継ぐべく、公爵としての仕事や商会での仕事を覚えるのに忙しかった。
さらに子供の頃からの夢であった騎士団に学生の13歳の時から入隊していた。
わたしは高等部の学園に入学したばかりだった。
人と話すのが苦手でラウルとも、何を話していいのか分からず、問われることに返事をするのが精一杯だった。
それでも、彼の優しい笑顔、ちょっとした心遣いに、いつもドキドキして会うのが楽しみになっていた。
互いの邸で会う時は
「シャノン、僕にピアノを聞かせてくれないか?」
「ええ、もちろんです」
いつも忙しく疲れているラウルのためにわたしはピアノを弾いていた。
聞いている時の彼の微睡んでゆったりしている姿を見て、嬉しさとあまりのかっこよさにいつもドキドキが止まらなかった。
彼がエスコートして観劇に行ったり美術館を周ったりするデートでも少しずつ会話ができるようになり楽しかった。
夜会やパーティに参加するときは、彼からドレスをプレゼントされ、彼の瞳のブルーに合わせた青いドレスをいつも着ていた。
彼と踊るダンスは、楽しくて。
月に数回しか会えない中で、わたしなりに頑張ってきたつもりだった。
お互いの中に優しい空気が流れていたと思っていた。
結婚後も彼は忙しくて中々邸で共に過ごす時間は少なかったけど、彼が邸にいるときは、共に寝室で寝て朝食を摂り、会話をして、穏やかに過ごしてきたはずだった。
わたしは執事のセバスに習いながら邸での書類や領地運営のことも少しずつ覚えて補助できることはしてきた。
激しい愛はなかったけど、自分なりに穏やかで温かな愛を育んできたつもりだった。
アイリスとは幼馴染で、上手く話せない時いつもアドバイスをくれる優しくてみんなに愛される大切な友人だった。
わたしが大切にしていた二人を一気に失うなんて2週間前まで思いもしなかった。
(わたしって馬鹿なんだわ、信じていたのに……二人は陰でわたしのこと笑ってたのよね)
今日、二人への愛を捨てた。