シャノン、シェリル夫人とお出かけ
今日は仕事がお休み。
ロニーは先生のお家に昼の間お手伝いとして勤めている。
今日はシェリル夫人とお買い物に行くことになった。
といっても、わたしは公爵夫人ではないので、使えるお金は市井の人と同じお給金。
多少の蓄えはあるけど、いざという時に使いたいので普段は平民暮らしを満喫中。
考えたら実家の侯爵邸でも、ラウルの公爵邸でも一人は寂しくて、使用人にお願いして一緒に食事をしていたので、食べる物はもともと贅沢なものより普通の一般家庭の食事が好み。
和気あいあいと食べるお食事が大好きで、たぶん貴族らしくない舌をしていると思うの。
だから今日はシェリル夫人とは市井の街で食べられるちょっとお洒落なお店に行くことにした。
最近、市民の間で人気のケーキセットとサンドイッチのお店に行く予定。
ドレスではなく、白の花柄のワンピースを着て、編み込みをした髪を右サイドに纏めてみた。
あ、ロニーが……。
◇ ◇ ◇
お家の前で待っていると、豪華な馬車がやってきた。
さすがに公爵夫人が気軽にランチとはいかないわよね。
馬車から降りてきたのは、同級生だった幼馴染のダンだった。
「シャノン!久しぶりだね」
ダンは私を見て微笑みながら、手を差し出して馬車に乗るためにエスコートしてくれた。
「ほんとお久しぶりだわ。ダンが降りてきたからびっくりしたわ」
「今日は街に出るからと言われ、母上の護衛を頼まれたんだよ」
馬車に乗るとシェリル夫人が座っていたのでごあいさつをした。
「本日はお迎え頂きありがとうございました。宜しくお願い致します」
「今日は街に出るのよ、堅苦しい喋り方は駄目よ。
だからダンにも軽装でいてもらっているのよ」
ダンは白いシャツにスラックスを履いていた。
シェリル夫人もドレスではなく落ち着いた紺のワンピースを着ていた。
でも二人ともどんな服を着ていても貴族にしか見えないんだけど……。オーラが出ているわ。
馬車の中ではダンと久しぶりの会話に盛り上がった。
シェリル夫人の邸に伺うと3歳年上のジャック、同い年のダン、2歳下のジェシー、時にはロイズも来て、5人で遊んだりお勉強をしたりして過ごした。
シェリル夫人は、遅れ気味のわたしの勉強を教えて下さった。
時には厳しく、さらに厳しく。
ほんのちょっとだけ優しく。
愛情のいっぱい入った厳しさだった。
わたしは、母が亡くなり忙しい父に放置されて侍女達に甘やかされて育てられた。
病気がちでベッドの上での生活も多かったわたし。
邸のみんなは主の娘に怒ることも出来なかったと思うの。
あのままだったら意地悪な我儘令嬢になってみんなを困らせていたかもしれない。
ノエル様やシェリル夫人のおかげで母の愛情を知ることができた。
シェリル夫人の子ども達やロイズのおかげで、子どもの世界での生き方を教えてもらった。
我慢とか人に合わせるとか、必要なことを教わった気がする。
まあ、緊張しすぎて慣れない人とは話すの苦手なので人に合わせていたかは定かではないのだけど……
馬車を降りて、三人で街中を歩いた。
わたしは公爵家から出るまで街を歩くことはなかった。
いつも馬車で送迎されて、孤児院や病院、診療所の慰問に回っていた。
自分なりには頑張っていたつもりだったが、あの行為は今になって思うと、貴族としての義務だった気がする。
今なら、みんなと同じ目線で物を見られるので何が必要なのか、どうすればいいのか、もっとみんなのために動くことが出来たのかもと思う。
上から物を見るのではなく同じ目線で見ることで大切ななにかを見つけられる気がするの。
まだまだ何も出来ないわたしだけど、自分が市井に下りて思うのは、人からの施しではなくて生きるための知恵や教育がもっと必要だと感じたの。
そうすれば生活も豊かになるし、豊かになればまわりも豊かになれる。
わたしはこの街で幸せな時間を過ごさせてもらっている。
◇ ◇ ◇
歩いて着いたお店を見た瞬間。
「か、可愛い!」
なんて可愛いの!
赤い煉瓦で出来た建物。
窓枠と扉はモスグリーン。
瓦屋根は焦茶色。
三つの色合いがとっても素敵。
お店の中に入ると木の丸いテーブルとそれに合わせた丸椅子。
ソファ席にはフリルをあしらった赤と緑のクッションが置いている。
所々に可愛い小物を飾っている。
中庭にはテラス席もあって綺麗なお花がたくさん咲いて、なんだかほっこりとさせてくれる。
私たちはシェリル夫人の一言でソファ席に案内された。
「アンブライトの名で予約していた者よ」
「
アンブライト様ですね、すぐにご案内致します」
案内された席は中庭が見える角のソファ席だった。
フリルが可愛くてギュッとしたくなるクッションを見つめながら、心の中で叫ぶ。
(我慢よシャノン!お行儀が悪いわ。ギュッはダメよ)
シェリル夫人は座り心地が気に入ったみたいでゆったりと座った。
目前に座っているダンは、なぜか遠い目をしていた。