アイリスお父様の悩み事③
王城に息子たち二人と共に呼び出された。
部屋にいたのは宰相と騎士団長、第一から第四部隊の隊長と副隊長、近衛騎士団長に副団長と錚々たるメンバーに圧倒された。
息子たちは王城内で文官として働いている。
財務関係の仕事に就いている。
仕事は二人ともいたって真面目で実直なはず。
特に呼び出されることはないはずだ。
ならばやはりアイリスか……
アイリスは末っ子の女の子で、とても愛らしい顔をしている。
子どもの頃はいつも笑顔で舌ったらずなところも可愛くて末っ子の我儘も可愛く思い甘やかし過ぎた感はあった。
今さら厳しくも出来ずつい言うことを聞いてしまっていた。
アイリスの笑顔にいつも癒されて、つい誤魔化されていたのだった。
ベルアート公爵と結婚すると言い出してから我が家の生活は変わった。
騎士団からもベルアート公爵からも何度も抗議文が来た。
アイリスに何度もう行くことは駄目だと諭しても言うことを聞かない。
私たちの目を盗んでいつの間にかベルアート公爵家へ突撃している。
その度に抗議文が届く。
我儘も可愛いと思っていたが、もうアイリスになっている。
妻はアイリスを見るたびに嘆き悲しんでいる。
「私たちの育て方が間違っていたのね」
ベルアート公爵には妻がいるのだから、結婚なんてできない、向こうからも断りが入っていることをどんなに伝えてもあいつには分からない。
しかも幼い頃からの友人の旦那さんと関係を持つなんて非常識極まりない。
『自分は公爵夫人になる女よ』
アイリスは、不気味な笑いで
『お父様もお母様も傅きなさい!』
しかも娘が違法な薬を使っている事を本人の口から聞いた時は唖然とした。
始めはもちろんベルアート公爵に抗議文と娘を娶ることを伝えたが、誓約書が届き娘を娶る事はあり得ないと言われた。
そこには娘の署名と印がしっかり押してあったのでこちらから強く言えなかった。
さらに娘の過激過ぎる行動も問題となっている。
社交界では醜聞になり妻は夜会やお茶会も全て断っている状態である。
アイリスにはもちろん招待状など来なくなった。
さすがに修道院へ入れようと決めた時、上の力ある方から
『待った』
がかかった。その方から言われればこちらは素直に従うしかない。
アイリスを放置したまま時間が過ぎていった中、今度は王城からの呼び出しだった。
◇ ◇ ◇
私たち三人が部屋に入ると、重苦しい空気の中、騎士団長のトーマス・アンブライト公爵が口を開いた。
「君たちに来て貰ったのはアイリスのことだ。伯爵はアイリスの違法薬物のことは知っているな?」
「はい、娘本人が話しましたので。本当は対処しないといけないのは分かっているのですが……」
「ああ、わかっている。君に娘を放置するように言ったのはシャノンの父のスティーブ・ロスワート侯爵だろう?」
「は、はい。そうです。今は何も動くな、このままでいるようにと言われました」
「ああ、あいつはシャノンとラウルの結婚当初からラウルの動きが怪しくて色々調べていたらしい。その時にアイリスのおかしな動きにも気がついて証拠を探していたらしい」
「え?そんな前から娘の怪しい行動に気がついていたんですか?」
(わたしは全く気がつかなかった…あんなにアイリスを可愛がっていたのに…何も見えていなかったのか)
「スティーブからこちらに話があった。
アイリスを泳がせていると。ウィリアムを捕まえるためにな」
「まず、きちんと状況を説明しよう。
グレーテル男爵の次男ウィリアムが隣国から仕入れたものをこちらで色々売っているのが始まりだ。その中には違法薬物がいくつか入っている。
あと紛い物の薬も多く、買った人は効かないと言っているらしい。
ロスワート侯爵が運営している商会で扱っている薬品の紛い物もウィリアムが勝手にニセモノを本物として安く売り捌いているらしい。商会としても信用に関わるので調べている中でシャノンの友人のアイリスにたどり着いたらしい。
そこにラウルとの浮気も重なってスティーブは、アイリスのことを調べ始めたんだ。
そしたらアイリスが騎士団にちょくちょく顔を出していることを知った。そしてそこで違法薬物、アイリス本人は、魔法の薬だと言って売っていたんだ」
「え?………まさか……」
私はアイリスが少しだけベルアート公爵に使ったがすぐなくなって薬はもう使ってないと聞いていた。
「アイリスは少しだけ昔の恋人に譲って貰って少しだけ使ったと聞いているのですが………」
「そんな訳ないだろう。ラウルがあそこまでおかしくなったのはお前の娘の違法薬物のせいだろう。
あの薬は飲んですぐに目に入ったものに性欲を覚える媚薬だが、長年飲み続けると副作用で正常な判断が出来なくなり妄想などの幻覚を現実だと思い込むんだ。
ラウルはまだ短かったから軽いがアイリスは長年使っているので少しずつおかしくなってきているのではないか?お前たち家族は気づかなかったのか?」
「すみません、いつもの我儘だと思っておりました」
長男と次男が答えた。
そう私たち家族は、アイリスのヒステリックなところも我儘なところも全て甘えているだけだと思い込んでいた。
ちょっと面倒くさいが可愛い我儘なんだと思っていたのだ。