シャノン、団長夫婦に会う②
シェリル夫人もノエル様も、ラウルに対して御冠でかなり怒ってくれていた。
それを横で見ていた先生とトーマス様は、苦笑いをしていた。
「シャノン、君は伯爵のところに来てから明るくなったな」
トーマス様は優しく微笑んだ。
ちなみにトーマス様は40歳を過ぎているのだが、がっしりした身体に似合わず目鼻立ちが良く金色の髪を後ろで結んでいる。
未だにご婦人達からの人気は高い。
あ、先生ことおじ様は45歳。ロイズと同じ赤髪で少しふっくらした身体は安心感があって親しみやすくて患者さんからは大人気である。
「きみの生き生きした姿が見られて嬉しいよ」
シェリル夫人も横で相槌を打った。
「わたしもそう思うわ」
「ありがとうございます。こちらにお世話になってから患者さん達と触れ合うようになって人のために尽くすことは自分のためでもあることに気がつきました。
病気や怪我で辛い思いをしているのにわたしに『ありがとう』と言ってくださるんです。
何もできないわたしはその言葉に何度も救われました。
昨日できなかったことが今日できるようになる、それは全て周りにいる方達の温かい言葉のおかげです」
そう、わたしは患者さんの食事の世話や歩行訓練などしかできない。
それすらまともに出来なくて、患者さんに謝ってばかりだった。
なのにみんな失敗しても怒るではなく、『ありがとう』
『頑張って』
と言ってくれるのだ。
ちょっとしたお世話をしただけでも感謝してもらえる。
わたしの方がみんなに感謝しているのに。
今まで貴族としてしか生きていなかったわたし、それも貴族の中でも必要とすらされなかったわたしが、ほんの少しでも人の役に立っている実感、必要とされている実感をもらえているんだもん。
公爵夫人として病院に慰問に行っていた頃は、『頑張ってくださいね』と言ってるだけだった。
今は心から『頑張ってくださいね』と言っている。
心の中で一人一人治りますように祈りながら。
同じ言葉なのに自分の立ち位置で言葉の重みの違いに気付かされた。
患者さんからわたしが頑張る勇気と優しさをもらっているのだ。
食事が終わりお茶を飲んでいる時、トーマス様から話があった。
「ラウルのことだが、シャノンは離縁をするつもりかい?」
「はい、ラウルは夜会でわたしの友人のアイリスに愛してると言っておりました。わたしとはもうすぐ別れるから待っててほしいとも言っておりました」
わたしは、ギュッと手を握って、でもしっかりトーマス様を見つめた。
「ラウルはわたしを愛していないのです。政略結婚ですから、そこに愛がないのは仕方がないことです。
でもわたしなりに彼と寄り添って行こうと思っていました。まさかアイリスを愛していたなんて思いもしませんでした。それなら結婚などせずになんとか破棄していたのに……」
「ラウルとは話し合いにならなかったと聞いているがこのまま別れるつもりなのかな?」
「わかりません、会ってもこの前みたいにパニックになって一方的に話してしまいそうだし、正直会うのが怖いです。
はっきりとお前を愛していないと言われるのが怖いのです」
思わず本音を漏らしてしまった。
ノエル様はわたしのそばに来て、ギュッと抱きしめてくれた。
シェリル夫人は横で頭を撫でてくれた。
二人の優しさに思わず涙が溢れた。




