表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛してました、たぶん  作者: たろ
16/87

ベルアート公爵(本人視点)⑤

診療所でヘンドリー伯爵と会ってから1ヶ月が経った頃、やっとシャノンと会えることになった。


夜会から約3ヶ月ぶりのシャノン。

早く会いたい。




◇ ◇ ◇



シャノンが去ってからもアイリスは何度も邸に訪問をしては追い返されていた。

騎士団に差し入れに来ていたが、団長に全てを報告して出入り禁止となった。


団長にはシャノンとアイリスのことを全て話したら大きな溜息をつかれた。


「団に迷惑をかけた訳ではないが、上の者として恥ずかしい限りだ」


実は団長は子どもの頃からのシャノンのことを知っていた。

団長の奥方が、シャノンの教育係として2年程侯爵家に出入りしていたそうだ。


いつも一人で邸にいるシャノンを連れ出しては、自宅で団長の子どもたちと遊ばせていたそうだ。


だから団長にとってもシャノンは可愛い娘みたいなものだった。


「ラウル、腹に力を入れろ!」

バコッ!

バコッ!


団長の握り拳が腹に何度も入った。


机にぶつかり転けた俺に団長は一言。


「妻の代わりだ」



◇ ◇ ◇





今はアイリスに会うことはなくなった。

もちろん他の女達も切った。


もともと誰にも愛情などなかった。


愛しているのはシャノンだけだ。



アイリスはかなり執拗に邸に押しかけて来ていた。

邸では彼女を追い返すのに使用人だけでは難しくなった。


伯爵令嬢という立場を出されると、使用人たちは強く出ることができない。


そのため門番として公爵領地で雇っている騎士達を何人か王都の邸に連れてきた。


だが、さすがの騎士達もアイリスの花畑の頭(話)にはついて行けずかなり疲弊しているようだった。


◇ ◇ ◇


シャノンがいなくなった邸は活気がなくなってひっそりと静まり返っていた。

使用人たちは俺が帰ってきても淡々と仕事をこなすだけだ。

シャノンがいる頃は、使用人たちも明るかったが今はなくなってしまった。


◇ ◇ ◇


シャノンが家を出たことが両親に知られてしまった。


騎士を領地から派遣してもらうのに説明を余儀なくされたのだ。

知ってしまった両親は慌てて領地から戻ってきた。


父からは罵倒され殴られた。


「お前は何をしているんだ!」


俺は何も言えず項垂れるだけだった。


母は泣き続けた。

俺の顔も見ようとしない。

何も言わない。


ただ泣き続けた。




◇ ◇ ◇


やっとシャノンに会える日、俺はそわそわしながらヘンドリー伯爵の屋敷に向かった。


シャノンはうちの邸からヘンドリー伯爵の邸までフラフラしながら歩いてきて倒れたと聞いた。


3ヶ月前はまだ初夏で暑い時期だった。



普段なら馬車を使うのだが、歩くことにした。


シャノンはこの道をどんな気持ちで歩いたのだろう。



邸に着くとすぐに客間に通された。


ヘンドリー伯爵とノエル様が待っていた。


「シャノン嬢は、一度だけ会うと言っております。無理強いはしないで欲しい」


「お約束いたします」


ノエル夫人は不機嫌な顔で


「シャノンちゃんは来た時、栄養失調と貧血、睡眠障害でずっと寝込んでいたの。

最近やっと元気になってきて明るい笑顔が戻ってきたの。

貴方のことでその笑顔が壊れたらと思うと心配なの」


そんな状態でここまで歩いてきて倒れたのか……


俺のせいでシャノンが体調を崩したなんて知らなかった。

自分の快楽に酔ってシャノンを言い訳にしてきちんとシャノンと向き合うことから逃げていたんだ。


もう一度やり直せるかもなんて期待していたけど……


「そんなことになっていたなんて・・・まったく知りませんでした」


俺は頭を上げることもできなくてずっと下を向いたまま膝に置いた両手を握りしめているしか出来なかった。


「さっき息子と侍女がシャノンちゃんを呼びに行ったからそろそろこちらに来ると思うわ」


ノエル夫人は、席を立って退室した。



トントントン


「失礼いたします」

シャノンの久しぶりの声が聞こえた。


「シャノン嬢そこに座りなさい」


ヘンドリー伯爵とラウルがお互い正面を向いて座っていた。

シャノンは二人の真ん中にある1人用の椅子に腰掛けた。


ロイズは父であるヘンドリー伯爵の横に座った。 


「うん?ロイズ?君は何でここにいるのかな?」


ヘンドリー伯爵が少し苛つきながらロイズに問いかけた。


「僕はシャノンの兄のようなものだからね。シャノンには誰も味方がいないからそばにいてあげたいんだ」



「ベルアート公爵、ロイズがここにいることを許して頂けるだろうか?」


「シャノンがそうして欲しいと言うなら一向に構いません」


「ありがとうございます」


ロイズはにこりと笑ってお礼を言った。


「シャノン嬢、ベルアート公爵から話は聞いた」


「そうですか」


シャノンは俯いたまま答えた。一度もラウルを見ていない。


「シャノン、アイリスとのことすまなかった」


俺はやっとの思いでシャノンに伝えた。


「ラウル、アイリスとの事認めるのですね、あの夜会で二人の姿を見てびっくりしました。

まさか二人に裏切られていたなんて思ってもいなかったわ。

わたしとはもうすぐ別れるからとアイリスにおっしゃってましたね」


「あ、あぁ」


「すぐに別れられてよかったですね、わたしはお人形さんでつまらない女だそうですね、邪魔なわたしを捨てられたんだからもういいでしょう。 

これ以上わたしと話すことはないと思います、謝罪は今聞きました。では失礼します」


シャノンすぐに席を立って部屋を後にした。


「……シャノン」


おれの呼ぶ声が聞こえなかったのか振り返らずに部屋を去った。



一度も俺の顔を見ないまま。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ