わたしの価値
侯爵家に離縁状を置いて出て行って3ヶ月ほど経ったある日。
先生の邸に、ラウルがやってきた。
わたしはお休みを頂き、赤い屋根の白い小さなお家でドキドキしながら、部屋中をウロウロしていた。
「ねえ、ロニー。どうしよう」
「ねえ、ロニー。なんて話したらいいの?」
「ねえ、ロニー。ラウルは怒っているかしら?」
「ねえロニー・・「いい加減にして下さい!シャノン様。会ってみて後はどうとでもなると思わなきゃ!」
「そ、そうよね、悪いのは向こうなんだもん……わ、わたしは堂々としてたらいいんだもん」
ハアア………
大きな溜息を吐きながら、ソファに座って時計と睨めっこ。
ラウルは今頃先生たちと話をしているはず。
そのあとわたしも呼ばれて、話し合いをすることになっている。
トントントン
「はい」
「シャノン!大丈夫か?」
ロイズが心配して久しぶりに邸に帰ってきていた。
「うん、大丈夫………じゃない、どうしよう?………」
「シャノンが思っていることを全て話すしかないと思う」
「う、うん」
「ロイズ、わたしロイズとは子供の頃からの付き合いだから普通に話せるの。でもラウルとは緊張して話せないの」
ロイズはそれを聞いてビックリしていた。
「お前たち夫婦だろ?」
「ええ、そうよ、でもラウルは公爵で騎士なのよ。忙しくてあまり邸には帰ってこなかったの」
「でも婚約期間だって3年間もあっただろう?」
「うん…………わたし人見知りだし、話すのが苦手なので少しずつしか話せなくて……やっと少し話せるようになったと思ったら結婚したでしょ?
もっと近くなると思ったのにお仕事が忙しいみたいでたまにしかお会いしなくて……」
シュンとしながら言った。
「気づいたらアイリスと浮気してたの」
「お前ほんと人見知り激しいからな。学校でもアイリスにべったりだったしな」
ラウルは頭をポリポリ掻きながら
「それで裏切られたんじゃどうしようもないよな」
うん、自分でもそう思う。
わたしとラウルは、あまり肉体関係はなかった。結婚してから月に数回程度。
まあ、アイリスに比べたら貧相で暗いわたしなんか抱きたくもなかったと思う。
「ねえ、ロイズ……」
「うん?」
「わたしってそんなに魅力ないのかな?やっぱりわたしみたいに暗くて貧相で話も下手な人間で何の価値もないゴミ屑なんか抱きたくもないのかな?
やっぱりゴミ屑は生きている価値もないのかしら?だからラウルもロスワート侯爵様もわたしなんかいらないのかな?」
自分で言っていてつい涙が出てきた。
ああ、わたしって存在価値すらないんだ、改めて気付かされてしまったわ……
「自分で自分の価値をゴミ屑だと思っているやつなんか誰も必要としているわけがないだろ!」
ロイズは怒ってわたしを睨みつけていた。
「シャノン、勉強は常に学年1位。いつもみんなに優しくて、平民の子たちとも普通に仲良く出来てた。俺はそんなお前が大好きだし、自慢の幼馴染だ。
お前自分の価値をわかってるのか?いつもみんなから羨望の眼差しで見られてた。お前ともっと仲良くしたい奴はいっぱいいたんだ。平民の子たちなんか貴族の子たちからいっつも嫌がらせをされて嫌な思いしてたのにお前は馬鹿にせず普通に声をかけてわからないところを教えたりしてただろう。
それを見習って他の貴族の子も平民の子たちを馬鹿にすることがなくなってたんだ」
「え?知らなかった。平民だからといってそんな差別があったの?」
「お前!そこからか!」
「ご、ごめんなさい」
「そうか、そうだよな。
お前は使用人の中で育ったから平民とか貴族とかのしがらみがなかったんだよな。俺も親が医者だから平民とか関係なく接してたからあんまり違和感なかったけど、高等部は頭のいい平民の子も学園に通ってたから結構差別とかイジメがあったんだよ」
「知らなかった……あんまり人と仲良くしてなかったから……平民の子たちがよく教科書なくて困ってたから貸してあげたり教えてあげてたの、貴族の子たちより話しやすいしみんな親切だったんだもん」
「確かに、平民の子たちは見栄っ張りじゃないもんな。
まあ、シャノン、お前は人気者だったんだよ、高嶺の花すぎて誰も本気では近寄れないだけで」
ロイズは小さな声で
「かく言う自分もだけど」
ボソッと言ってたけどわたしには聞こえなかった。




