8レオの姉と師匠
「師匠。本当にこれで良かったのですか?」
「いや、それはワシの方がむしろ問いたい? 本当にいいのか? お前は?」
老いた奴隷と若い女奴隷が話すここは王城の一室。
老いた奴隷は相貌が険しく只者ではないオーラを纏っていた。一方若い女奴隷は長い銀の髪に美しい翡翠の色の目、優雅な美しい衣装に身を包んでいる。
「私は運命に委ねようと思います。それで奴隷が……私達ハズレスキルが解放されるならば」
「自身の命と引き換えにか?」
「私は罪を犯します。ならば罪を償うのは当然だと思います」
「罪? 罪ではないだろう? お前はただ……」
「弟、レオの大切な人の命が失われるのを知っていながら私はそれを隠すのです。伝えれば彼女は命を落とすこともないでしょうに。ですから……」
老いた奴隷は天を仰ぎ、何か物思いに耽る。
「ワシは未来を弟子であるレオに預ける。じゃが、本当にこれで良いのか? ワシは未来予知のスキルで未来を見た。レオは奴隷、ハズレスキルの未来を変える。いや、いずれ現れる魔王を倒し……そしてこの腐った国をも滅ぼす」
「私はその未来に賭けたいのです。ハズレスキルだからと言って奴隷にされる運命……奴隷であるだけで虐げられる運命。多くの奴隷の無念、そして親友のリリーの仇をとりたいのです」
「リリーか……ワシが不在だったばかりに」
「違います。師匠がいなかったからこそ、賊はその隙を狙ったのです。そんな時に貴族の騎士共は酒を飲み、寝込んでいた。悪いのは貴族共、なのに……」
リリー。有名な女奴隷……リリーは賊が入った時、運が悪くも賊に見つかった。そして短刀を首元に突きつけられ口を塞がれた。声を出せる訳などないだろう。ましてやそもそも不手際があったのは貴族の騎士達……だが王は重要な書類が書庫から盗難されたこと知ると、怒りをリリーにぶつけた。『何故大声で賊の侵入を叫ばなかったのか?』と、そんなことをすれば彼女の命はなかったろう。だが、王はこう考えた。『己の命を顧みず大声で賊の侵入を叫び、殺されることこそが奴隷の義務である』__有名な女奴隷リリーの処刑の理由は奴隷の義務の不履行。
本当に罪があるのは騎士達。だが、王宮の守護騎士達は高位の貴族の子弟達だった。本来騎士達を左遷などすればいいだけのことだ。だがプライドの高い貴族達は名誉を重んじ王へ圧力をかけた。王はその不満と怒りをその女奴隷に死を命じることではらした。王にとって奴隷一人を処刑したとて、微塵も罪の意識など持たなかった。
女奴隷リリーが平民だったのならこんなことはなかったろう、正式な裁判を経てそのような罰が下される筈もない。全ては奴隷に人間としての権利がなかったが故のことだ。
「本当に良いのだな? フレイヤ? ワシはあと10日で死ぬ。考え直すならば」
「私は今確定している未来を変える気はありません。例え弟にどんなに恨まれることになっても……例え弟が復讐鬼となり、多くの者を殺す存在になろうとも」
「ワシには何が正しいのかわからん。ワシはただ最後に奴隷の未来を知りたかった。奴隷のまま死ぬワシにとって、唯一の気掛かりは奴隷の未来じゃ。奴隷はこんなに迫害される存在ではなかった。ハズレスキルもこんなに蔑まれることはなかった。ほんの30年前までは」
老いた男は奴隷であり、剣聖でもあるアイザック。だが剣聖と誉高い奴隷将軍の彼の才能は『不確実な預言者』ハズレスキルだった。
奴隷は自身の身請け料を支払えば平民に戻れる。だが、彼の王はそれを許されなかった。
豪奢の部屋に王と同じ食事、貴族なみの衣服を与えられ、身の回りの世話をする女をあてがわれ、何不自由のない生活。だが、彼には唯一、自由だけは許されなかった。
何故か? それは彼がハズレスキルだから。ハズレスキルが本当の剣聖の才能を得た者より秀でていることを知られることを王は恐れた。
この国ではハズレスキルには価値がない人間とされた。だからこそ蔑まれ、奴隷として売られるのが通例となった。その価値観を壊す存在である剣聖アイザックを自由にする筈がなかった。
そして王はこう思っていた。剣聖アイザックに不満などあるはずがない。彼には自由以外の全てを与えているのだから。
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