Sen-say
先生に会うと、いつも教えてくれる。だから今日も、ここに来る。
「ねえ。調子がよくないの、なぜ」
「うーん。なぜだろう」
額や胸に手を当てて、先生は悩んでいる様子。でも心配いらないの。なんたって、先生は、先生なのだから。
「そうか、君は、くるくるぱー病を患っている」
「くるくるぱー病に?」
戸棚から薬を取り出した先生は
「ちくっとするけど我慢してね」
と言うなり私に注射した。痛かったけど、先生は正しいから、我慢するのよ。
また数日後。
「ねえ。調子がよくないの、なぜ」
「うーん。なぜだろう」
お腹やお尻を探って、先生は困っている様子。でも安心しているの。いつだって、先生は、先生だから。
「そうか、君は、あんぽんたん病に侵されている」
「あんぽんたん病に?」
抽斗から薬を取り出した先生は
「二回目からは無料じゃないからね」
と説明するなり私に注射した。値段は安くはないけれど、先生は親身になってくれるから、どうってことないのよ。
それから私はことあるごとに三回、四回と注射を打ち続けた。
同じ症状を訴えて、でもお金がないから診察を受けられなかった子どもがいた。けれどいつの間にか回復している。
「ねえ。ちっともよくならないの、なぜ」
「うーん。三十回目で効果が現れる可能性もないことはないはずである可能性も捨てがたい確率が僅かではないというエビデンスが記載されていた論文に似た資料の出典に不備があったことはないから、おそらく多分大丈夫だと思うんだよね」
ポケットから薬を取り出した先生は
「個人差が、あるからね」
と呟くなり私に注射した。診療の繰り返しで、元々どんな気分だったかすっかり私は忘れてしまった。
でも先生の言う通り、千回を越えたところで
「ねえ。とても気分がいいの、なぜ」
頭のなかでお花畑が広がっていて、たくさんの妖精たちと私は踊る。
二回しか注射されなかった子どものうち、半分は元気で、もう半分は元気ではない。でもときどきそのなかで元気になる子どももいるし、元気な子どもの方でも体調が悪くなる場合もある。
三回の子どもは半分は元気そうだし、そうでもなさそうで、残りの半分は楽しそうだし、悲しそうでもある。
四回と五回も大差なければ、百千に渡る治療も結局よく分からない。
ただひとつだけ確かなことは、確かなことなんてひとつもありはしないということだと、先生は私に教えてくれた。
(了)