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過去からの襲撃

第八話


前話の「ひえもん」とりから一年後、元寇襲来から三年すぎた建治3年(1277年)、蜷尻は主君の名にて元寇防塁(石築地いしついじが本来の呼び名)の建設に勤しんでいた。

何でも重い腰の幕府が「異国警備」の為に九州の武士に防衛拠点を建築するよう命ぜられたからである。


私の秘密の伝手によると、なんでも大陸(元)の方できな臭い動きがあるらしくまた再び戦になる可能性があるらしい。


しかし、次は前回のように簡単に攻めてくることはあるまい。

この防御施設は前回の「文永の役」と呼ばれる戦いから学び、高さ・幅が平均して2メートル近くある正にそり立つ壁なのだ。内部には小石を詰めている為溝に手や足をかける事も出来ず、陸側に傾斜を持たせて海側を切り立たせている為上ることもできない。

総延長は、現在の福岡市西区今津から東の福岡市東区香椎まで約20キロメートルもある。

我々はこの壁から悠々と元寇に矢の雨を浴びさせ族滅!という正に「虐殺要塞」と言っても過言でない大建造物なのだ。


・・・が、建設開始から二年の歳月が過ぎ去った弘安2年(1279年)。

重機も無いこの時代にこんな建築が直ぐにできるはずもなく、蜷尻の奮闘むなしく防塁は一部しかできず、幕府や主君から「早くしろ」という命令がひっきりなしに来ていたのだった。


そんなある日のこと。

蜷尻「ふ~・・・今日も仕事ば終えたどーん!せでは酒でも飲んとすっか・・・」

そう言って酒を飲もうとしたその時だった。

???「おいあんた。最近此処らへんで見ない顔だね?」

蜷尻「誰じゃおは・・・ん!?」


そこにいたのは一見普通の農民風情に見える一人の侍の姿であった。

しかしその身は只者では無く、とてもじゃないが何れだけ修行を積んだ武芸者のような雰囲気を放っている。

しかも何処かに見覚えがある威圧感もあった。


???「お前さん、俺と同じ匂いがするな。名乗ろうか、俺は福留 福寿丸 孝介(ふくどめ ふくじゅまる こうすけ)。今はこの辺りでしがない警護をしているものだ。」

蜷尻「おいは蜷尻どんち申す。」

福留「ほう。薩摩の言葉か?随分訛っているんだな!」

蜷尻「まあな。そいよりなんでこげん所におっんけ?」


私はただ物ではない雰囲気を漂わせているこの男を警戒していた。


福留「実は先日、うちの殿様が幕府より「異国警戒の為の防塁を築くように」と命じられてな。それでこうして毎日普請しているんだよ。」

蜷尻「ほぉ~う。そんた偉かね。ところで、あてからも一つ聞いてえとね?」

福留「何だ?」

蜷尻「ないごて嘘をちちょっとな?そしてないごてそげん剣術が強かとやろうか?見た所、おはんからは武人の気配を感ずっ。まるで幾多ん修羅場をくぐり抜けてきたよう・・・な。」

福留「はっはぁ!!流石だな!よく分かったな。だが残念ながらその質問には答えらん。何故なら・・・」


そして彼は突然腰に差していた刀を抜き放った。それは真剣の太刀だった。

彼の目は本気の目をしていた。そしてこう言ったのだ。


福留「おいは今からきさんにチェストを申し込ん!!」

蜷尻「な・・・ないをゆっちょっ!?」

福留「決まっちょっ!!!・・・おめに復讐を果たすためでごわす!!!」


そう言い放つと男は斬りかかってきたのである。

しかし咄嵯の出来事であったため・・・いや、福留のチェストが凄かったためか私は反応が遅れてしまった。

そして次の瞬間・・・ ザシュッ!!! 私の左肩から腕にかけて斬撃が入り、血飛沫が舞った。


蜷尻「ぐふぅあああっ!!!」

福留「ふん。やっぱい手応えあり!どうだおいんチェストの一撃は!」

私は激痛に耐えながらも抜刀し、お返しチェストで反撃した。

が、それも彼に躱され、逆に蹴り飛ばされたのだ。

蜷尻「ぐうああっ!!」

蹴られた衝撃で数メートル吹っ飛び倒れ込む私。


福留「どうだ蜷尻!?潔う介錯すっがえ!!」

蜷尻「おはん・・・相当なぼっけもんでごわす。・・・が、ないごておい直ぐにを殺さんか!?ないごてわざと痛めつくっ真似をすっ?」

福留「あんたは憎う、恨み辛みも沢山あっ!が、おいは簡単におはんを殺しはしとうなか。・・・じわじわと甚振り苦しめて殺すて!さぁはよ立て!」


そう言うと奴は再び構えを取った。

私は命を狙われているにもかかわらず、この男の事について必死に思い返していた。

福留・・・福留・・・!?そうか、そういう事か。ならば・・・

蜷尻「あい解った。なれば今度はおいん全身全霊んチェストを受けてみじゃ!!」


私は覚悟を決めた。もうどうなってもいい。一撃で仕留めてやる!!

私は一瞬にして間合いを詰めると刀を振り下ろした。


蜷尻「チィィィィィィィィエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


ガキィンッ!!バキィィン!!!ズブ!!!!ブシャァア!!!


福留は私の斬撃を受け止めたが、私は受けた刀ごとチェストし、辺り一面は血だまりという状態になっていた。


そして私は・・・ 福留に、

蜷尻「おはんな、ないごておいをそこまで憎み、襲うたど?」

そう言うと彼は、

福留「グフッ・・・わかっちょっことを・・・かつてわいん父やった家久様・・・そしてあてん姉ん紅葉をチェストして・・・逃げたんなわいじゃろうが!!!・・・ゴフッ・・・」


そう言って吐血する彼。

蜷尻「なっほどな。あん時おはんの姉上殿を殺したんな確かにおいじゃ!じゃっどん、それならばないごて、あん時おはんらはわしらん前から消えたんじゃ?」

福留「・・・そんた・・・あてん姉ん遺言があったけんじゃ!『我が子を守って』って・・・。じゃっでおいは誓うたんど!!おいん命に代えてんあんしん子供だけは守っと!じゃっどん、あたは子供どころか一族揃うて族滅を宣言してチェストした!わいは鬼畜外道や!」

蜷尻「・・・そいが武士ん、薩摩ん習いであろう。さすがにそろそろきつかろう。おはんを苦しめんよう介錯させてもらうど」


私は福留に介錯(とどめを刺す事)をすることを決めると、

福留「ああ、楽にしてくれ。最後にいおごたっこっがあっ・・・。おいには妻も息子もおっどん、あいつら二人はただひたすらおいん帰りば待ってくれちょっだけじゃど。・・・二人はこん後どげんなっとかな?おいがけしんでんこん復讐は何度も続っぞ・・・覚えて置け蜷尻!!!」


ズブ!!!! ブワッッッッッ!!ドサッ

私は福留を介錯すると

蜷尻「おはんの妻子は既にチェストされちょっでごわす・・・」

こう呟き彼を丁寧に埋葬した。


そして私は傷を応急手当てし、尾脇の所へ向かった。

尾脇「蜷尻様!どげんしたんかそん傷は!」

蜷尻「おお雀右衛門どん!いやーちょいとケガしてしめやんせ!治療をお願いしよごたっ!あと酒あっ?」


私が肩を抑えつつ、息絶えだえになりつつもいうと彼は慌てて医者を呼びに行ったのだった。

その後私は何とか一命を取り留めたものの3ヶ月の間寝込み続けたそうな。その間は主君を始め家中の家臣達や尾脇も心配してくれた。


尾脇「蜷尻様、いったい何があったんか教えてくれんか?」

蜷尻「うーん・・・いやぁちょいと昔ん野暮用でね!」

尾脇「またそれと・・・。まあいずれ話してくるーと信じとるんで、今はゆっくり休んどくんしゃいましぇ!」


そう言って頭を下げる尾脇。

人には決して言えない過去がある・・・私には余りにも他言できない過去があった。

寝ている私の横ではまた再び冬が訪れようとしていた。

弘安2年(1279年)冬・・・元寇の襲来まであと2年を切っていたのである・・・


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