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九州鎌倉武士のお薬調達

第七話


國宗らをチェストしてからはや二年近くがたった。

あれ以来元寇には目立った動きは無く、比較的平穏な日々が続いていた。

そんなある日のこと。


蜷尻「おい尾脇どん、酒が足りんなぁ」

尾脇「そうやなあ、蜷尻様。ちょっと買ってくるたい」

蜷尻「頼ん!」

尾脇は町へ買い出しに出かけた。


尾脇「さあてと、酒は何がいかねえかなあ・・・おっ?」

蜷尻の好みそうな酒を物色している最中、ふと見覚えのある顔を見つけた。

尾脇「あれは確か・・・谷・・・重政どんだっか?」

谷重政はかつて蜷尻と共に元寇合戦に参加したぼっけもん(ヤバい武士)であった。


尾脇「何ばしよーっちゃろう???」

気になったので酒を買った後、尾行する事にした。

暫く歩くと蜷尻の屋敷に到着した。何か用なのかと尾脇は尋ねた。


尾脇「もしもし、そこんお方。貴方は谷是成んところん重政ではごじゃらんか?。」

重政「おお、もしやあたは蜷尻様ん知恵袋、尾脇様ではあいもはんか!」

共に中に入ると、重政と尾脇から酒を受け取りともに飲むことになった。

元寇以来との事で蜷尻は大層喜び、飲みながら話をしていた。

しばらくすると、重政は我ら二人に「話がある」と、泣きながらある協力の要請へと変わっていった。


重政「実は最近、うちん主君ん谷是成様が大病を患うちょりまして・・・。こんまま放っちょくと命に関わっとじゃが、医者に見せてん原因がわからず困っちょりますんでごわんどす!」

蜷尻「なにっ!?是成どんが!?」

尾脇「ほう、そりゃ・・・心配ばいなあ」

重政「そこで相談じゃっどん!我が薩摩隼人に伝わっ妙薬、「ひえもん」を取っ為にお二人のお力を貸していただこごたっとじゃ!どうかたのみあげもす!!」


そう言って涙を流し頭を下げる重政。

確かにあの妙薬ならば是成も直ぐに回復するかもしれないと思った。

だがしかし、重政の頼みを聞くことにしたいが、それは一筋縄でいくものではなかったのだ。


蜷尻「うむぅ・・・しかし・・・」

尾脇「大病では調達が難しいな・・・」


その条件というのがかなり厄介だった。

この薬は薩摩隼人秘中の秘であり、薬を作る為の材料は病気の度合いによって変わり、今回のような大病だと難易度が非常に高い。

その材料を入手するにも条件があり、とある条件が揃わねば完成できない事もあり、「妙薬」と言われているのである。


重政「そこをなんとかおたのみあげもす!!あてをささげてん良か!!」

蜷尻「重政、まあ落ち着け!」

尾脇「うーむ・・・よし、とりあえず行ってみるだけなら良かやろう!ただ、期待するでなかぞ!」

重政「かたじけのうごわす!」


こうして三人は谷是成の治療の為「ひえもん」取りへ行くこととなったのであった。

早速採取に向かったのだが、やはり難しいという事が分かった。


尾脇「ばってん、大病ば治しぇるほどん強者がおるとはここ最近聞いとらん。大丈夫なんか?」

蜷尻「たしかに、屈強なばかふともんげなかれば「ひえもん」なつっれんぞ重政どん!」

重政「はっ!既にめぼしは付けちょります!肥後国(現熊本県)に朧 利三郎 文枝(おぼろ りさぶろう ぶんじ)というばかふともんがいるでごわす!けつなら立派な「ひえもん」が出来っはず!」

蜷尻「肥後じゃと重政どん!「ひえもん」がとれてんねまって(腐って)しまうど!」

尾脇「そげん事言うてもしゃあないじゃろ!ほら行くどー!」

こうして肥後へと向かう事となった。


――時は進み、そうこうしている内に朧の屋敷前にたどり着いたのだった。


重政「奴はこけおっはずじゃ!さあ、入りもんそ二人とも!」

尾脇「いやいや、敵ん数もわからんのに無謀すぎるぞ重政どん!?」

蜷尻「わしら薩摩ん武家衆は突っ込んでチェスト!以外戦法がなかけんなぁ・・・尾脇どん!ないか知恵はあっと?」

尾脇「そげなとあれば苦労しぇんわい・・・」

重政「それならばおい一人で行けばよか!それでいかんかったら諦めるでごわす!」


そう言いながら門を叩こうとする重政。

「「いやいや、ちょっと待て」」と止められ、作戦を練ることにした。


蜷尻「まずは朧ちゅうばかふともんを生け捕りにすっ必要がある!おいが忍び込んで敵が多かれば引いて増援を、少なかれば皆でチェストすっ!」

重政「うむ!わかったでごわす!!さすが強右衛門豊久様!」

尾脇「気ぃつけえよ蜷尻どん!もし失敗してバレたら命はなかて思うてくれ!」


こうして二人は茂みに隠れ潜んだ。

数刻たち、蜷尻が戻り遂にその時が来た。

蜷尻「来たぞ二人とも!敵は僅か30名!一人10人で問題なく殺れる!」

「「よし!」」と二人はうなずき、早速「ひえもん」の採取に向かったのだった。


そして、三人は朧の屋敷に忍び込み気づかれないように敵を全て殺害しつつ、大部屋にたどり着いた。

目の前には大柄の男がいた。


朧「む?何用だお前達」

重政「貴殿は、朧 利三郎 文枝様ではなかか?」

朧「その言葉・・・貴様は薩摩の物か?如何にも私が文枝だが、何故その名を知っているのだ?」

重政「拙者は此度朧様にお願いがあって参った次第!」

朧「ほう、話だけは聞いてやる」

重政「かたじけなか!実は我が主君が大病になり、治しとうば「ひえもん」を持ってこんなならんて言われ申しちょりましてな!」

朧「ほーう、「ひえもん」とはなんだ?申せ!」

重政「こちらにおららる強右衛門豊久様が御持ちなされた!「ひえもん」じゃて!」

朧「な!?曲者か!?何者だお前らは!」


そう言って、朧が立ち上がった瞬間に二人は斬りかかった。

しかし、その刃が届くことはなかった。重政、蜷尻はその光景を見て驚愕した。

二人同時に切りつけたにも関わらず、間一髪で躱しきり傷一つついていないのである。


蜷尻「ほう!!これは相当なばかふともんだ!」

朧「ふん、薩摩の武士もたいしたことないようだな!隙だらけの私に斬撃さえ与えぬとは!者共であえであええええい!」

重政「残念だが、おめん家臣は既に常世にいった。わしらに勝つっかな?」

朧「なにぃ!?」

そう言いながら再び二人が襲いかかる!


朧「無駄だとまだ分からんのか愚か者が!!」

すると、二人の剣は朧に当たることはなく空を切った。

しかし、屋敷から逃げようとした朧は、何かに引っかかり膝から崩れ落ち倒れた。

朧「んんんんんん!!!!???なにがあった!?足が!?動かな!?なんなのだこれは!?」

そして朧はそのまま何者かに気絶させられ意識を失ったのである。


重政「今んな一体どげんこっだ!?」

蜷尻「分がんね」

といった様子でいる二人を見つめつつ答えるのは尾脇。


尾脇「こげんこともあろうかと、逃げ道にうちが罠ばしこんでおいたばい!」

蜷尻「なに!?さすが尾脇どん!頼りになるでごわす!」

重政「お・・・尾脇どん!?まさかほんのこて殺したんか?そいでは「ひえもん」を使うて主君を治せん!」

尾脇「ましゃかそげんことあるはずがなか!大切な「ひえもん」やけん眠らしぇて生け捕りにしたまでばい!」

重政「かたじけない尾脇どん!これで主君が治せる!」

尾脇「よかこつよかか!重政どん!これから三人で急ぎ是成ん所に戻るぞ!」

こうして、三人は急いで是成の待つ屋敷へと戻ることになった。


――是成の屋敷にて

是成「おぉ・・・戻ったか重政・・・蜷尻と尾脇もかたじけなか・・・そいで首尾はどうやった?」

蜷尻「気にせんでよか!そいでは早速「ひえもん」取りにめろう!」

尾脇「殿、この御仁こそが殿を助けてくれる方ですじゃ!」

朧「放せ!この卑怯者!これから何をするつもりだ!」


縄で縛られた朧。その前後には蜷尻と重政がいた。

蜷尻・重政「肥後んばかふともん大役ぞ!こいが薩摩名物「ひえもん」とりごつ!」

そう言うと、二人は素手で朧の内臓を引き裂き抉り出した。


朧「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


説明しよう。「ひえもん」とは薩摩語で「生き胆(生の肝臓)」の事であり、「ひえもんとり」とは肝臓や取る人間を傷つけないよう素手のみで引きちぎる儀式である。

古来薩摩では「ひえもん」には万病に効く万能薬という考えが支配的であり、特に強いぼっけもん・ばかふともんの生き胆は死亡寸前の物もたちまち回復すると信じられていた。


朧「・・・ビクンビクン」

全身から血を流し悶える朧。

蜷尻「もうすこし待ってくれ是成どん!いま肝を丁寧に取り出しちょっところじゃ・・・」

尾脇「うぅっ・・・いつ見たっちゃ吐きそうになる!」


そう言いながらさらに腹の中をかき回すと、ついに

蜷尻「あ、取れたぞ!「ひえもん」取りもしに!」

重政「ほんのこてあいがと蜷尻どん!(号泣)」

是成「おぉ・・・これがぼっけもんの「ひえもん」・・・蜷尻どんなんとお礼ばすりゃ・・・」

蜷尻「よかど是成どん!はよ治してあてん屋敷で飲みに行こう!」


こうして、三人は朧から「ひえもん」を採取し、是成に渡す事に成功した。

蜷尻と尾脇は上機嫌で屋敷に帰り、夕焼けを背にしながらこう述べた


蜷尻「良かことをしたや、きもちいなぁ!」

尾脇「まったくやなあ蜷尻様!」


――

――

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