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武士団の資金を獲得せよ!

第三話

10月20日より開始された、後の世で文永の役と呼ばれる戦も11月を迎えていた。


ある日、5千余の元寇軍の軍勢による奇襲によって上陸作戦を許してしまうことになるのであったが、7日間という短期決戦の結果、敵は惨敗。

上陸した連中を手ひどく痛めつけて返り討ちにしてしまったせいで敵の恨みを買った私だが、その後も3回に渡って来襲した元寇軍との戦闘においてその全てを撃退することに成功。

結果、博多の町では蜷尻武士団の名もそこそこ知れ渡っていったのであった。

そして、私はそこそこ実力を持った浪人や元農民を武士団に加入させることが出来、更に多くの強い武士たちが務めるようになった。

だがしかし、順調な武士団にも弱点があった。それは金である。


強者達が大勢増えたせいで武具費や兵糧費が多分にかかり武士団を圧迫したのだった。

幕府や領主からの支援だけでは足りず、元寇軍に勝つことは難しい。

そこで博多周辺の商人たちへの調略を始めたのだが、これがうまく行かなかった。

なにせ、今まで散々元寇(大嘘)達に煮え湯を飲まされてきた彼らにとって、我々など信用できるはずもないからである。

私は彼らの説得を諦め、別の手を試す為ある人物の元へ相談に行くことにした。

その人物は、 筑前国のさる城主・尾脇おわき 雀右衛門じゃくえもん殿である。


彼は元々、私の父の代から仕える家来であった。

元々は私の父に仕えていたが、私が父を殺・・・家督を譲って貰い、あんなことやこんなことがあって彼はさる城主となった。

現在は隠居し、福岡城近くの屋敷に住みつつ、私は時々博多まで出かけて来ては色々な話をしてくれた。

彼が語る話は面白かった。

特に、この国の歴史や地理、文化や風俗についての知識が豊富で、私はいつも感心しながら聞いていた。

彼のおかげで、あまりお頭の良くない私でもこの国はどんな歴史を歩んできたのかが分かったのだ。

だから、今回のように困ったときは彼を訪ねることにしている。


尾脇「ほう、元寇征伐ですか?蜷尻ど・・・蜷尻様」

と、意外そうな顔をしながら言う彼に話した。

蜷尻「うむ。元寇が来る前にも言っておったが、此度の戦、金がかかりすぎて困っておるのじゃ」

尾脇「ふむ・・・それで?」

蜷尻「なんとか支援して貰えんかと思ってのぉ???」

尾脇「そうですか・・・正直難しいですな・・・」


と言ったのであった。やはりダメなのかと思い、私は落胆しつつ、

「どうして無理なんだろうかのぉ・・・?」と聞くと、


尾脇「まぁ、理由は幾つかありますが、一番大きいのは今現在博多には銭が無いということですね。」

蜷尻「確かに博多の町はボロボロじゃ。だが、博多の商人・農民たちはよく働いてくれているぞ?それなのに、なぜ博多の商人たちから銭が出せんのだ?」

尾脇「そりゃあ、彼らは博多の町を復興させるために頑張っていますからね。それに、彼らが博多の町に居なければ博多の商いも出来ません。博多の商人たちも分かっていますよ。ただ、今でさえ苦しい彼らに更なる負担を強いるのはいかがなものかと。」

と言われた。


蜷尻「なるほどのう。だが、我々武士団の頑張りのおかげで博多は大分立ち直ってきたのではないか?あと少しすれば、博多の町も以前の賑わいを取り戻すであろう。その時が来るために、今こそ博多の町の者たちは我らに金銭を与えることで恩返しが出来ると思うのだが?」

と、私の意見を言うと、

尾脇「確かに、蜷尻様方の活躍で博多の町は徐々に平和を取り戻してきました。ですが、それを快く思わない者も多いのです。彼らも元はと言えば元寇達(の前の略奪)のせいで苦しんだ者達ばかり。そんな中でいきなり「金をくれ!」と申したところで素直に渡してくれるでしょうか?」


と言われてしまった。

確かに、元寇達が略奪しなければ博多の町もこんなことにはならなかったかもしれない(すっとぼけ)。

だが、そう思っていても仕方がないではないか。私だって好きで博多の町を破壊したわけではないのだ。私は悪くない。悪いのは元寇だ。


蜷尻「ではどうしろというのだ?このままだと我々は金が無くていつかはご破産ばい!戦の為の武具も兵糧も絶対に必要じゃ!それらを買う金が無ければ話にならない!こんな時に元寇がまた来たら、皆死んでしまうかもしれんのだ!それでもよいのか!?」

と言ってみた。すると、

尾脇「それは・・・困りますな・・・」と、頭を抱えながら言った。

蜷尻「だろう?ならば何とかするしかあるまい。」


尾脇「しかし、蜷尻様。仮に博多の商人たちから金を受け取っても、その金を返すアテが無ければ十中八九、寸分の狂いもなく商人の恨みを買って最悪斬首ですよ(この当時切腹はまだ一般的ではなかった)。その事も考えた上で博多の商人たちを説得せねばならないのですよ?」

と言われる。

蜷尻「うーむ。だが、博多の商人たちが納得するような理由があれば良いのではないのか?」

尾脇「まぁ、一応は考えなくもないですが・・・」

と彼は言いつつ、こう提案した。


尾脇「博多の商人たちにこう言えばよろしいでしょう。『元寇を撃退した暁に、恩賞として略奪した物品をお前たちに与える』と。そして、その褒美を博多の町の復興に使うと言えば幕府にも『武士の誉れ』と示しがつきますし、きっと博多の商人たちも協力してくれると思いますぞ。」

と言った。

蜷尻「おおっ!!さすが雀右衛門どん!貴公に相談してよかったばい!!」

私は心の底から感謝の言葉を述べた。


尾脇「いえ、私などまだまだ。もっと相談したいことがある時はいつでもお声がけください。」

と、謙遜しながら彼は言う。

蜷尻「うむ。では早速商人に話してくる。」

と言って、私は博多へ向かった。


博多へ着くと、町の様子は以前と全く違っていた。

建物はほとんど崩れていないものの、道端には死体や血の跡が多くあった。

私は博多の町にある豪商の家を訪れた。

商人「誰じゃお主?見覚えのない顔たい」

と言う家主に、私は

蜷尻「私は蜷尻強右衛門と申す。此度は其方に頼みがあって参った。」


と言い、早速雀右衛門どんの提案を話したのだった。

商人「ほぅ・・・恩賞の為に戦利品ば使うとは、実に面白い案たい。やの、ほんなごと元寇ば族滅するこつのきるんか?」

蜷尻「いかにも。そんためにこうして武器を手に取り、馳せ参じたど。」

商人「ふむ。よかよか。わしらも元はといえば元寇達のせいで苦労させられたもんたい。しかし、おまんらは武士とはいえまだ若い。そげん無理せんでもええんちゃうかのぉ?」

という。要は適当に追い返したいというのが本音であろう。


蜷尻「確かに、我らはまだ若輩者でごわす。今いっきは九州を救うことは出来もはん。じゃっどん、我ら武士団んきばりによって博多ん町は大分平和を取り戻してきたかち思わるっ。あと少しすりゃ、おはんら商人たちも以前んごつ商売が出来っごつなっやろう。そん時が来っまでに何卒金銭が必要なんや。お願いできもはんか?(要約:金貸してくれ)」と言うと、

商人「そうか・・・なら保証人ば付けてくるーなら貸してもろうても構わん。」

と渋々了承してくれた。


私は雀右衛門どのを保証人にして、なんとか商人どもから金銭の約束を取り付けた。

その後、私は評定を開き元寇征伐の支度を整え意気揚々と戦場に向かったのだった・・・が、


「「「元寇ん船がおらん!!!」」」


と部下が叫んだ。

なぜかあれ程までにいた船は1艘たりともおらず、海はもぬけの殻だったのだ。

「どうなってん?」

私が呆然としていると、部下の一人が波に打ち上げられた元寇らしき兵を連れてきた。


蜷尻「おい!おはん!元寇はどけ行ったんじゃ?」

捕虜「はい・・・私たちはモンゴルの皇帝フビライ・ハンの命により1度体勢を立て直すため、この国からの撤退を開始しました。そしたら突然嵐が発生してしまい、船を捨て海に飛び込みまして命からがら流れ着いたんです。」

蜷尻「逃げたんか!?」

捕虜「はい。ですので、もうここに元寇が戻るつもりはありません。」

蜷尻「・・・」


私は黙り込んでしまった。

(何故だ?あれ程の軍を率いていたのに撤退!?借りた金は・・・雀右衛門が・・・)

と、考えていると、

尾脇「殿、まさか逃げると思いませんでしたな。大丈夫ですか?」

と雀右衛門が言ってきた。私は雀右衛門の顔を見た。

尾脇「それに、逃げたとは言え元寇がいなくなったわけではないのです。安心なさって下さい。」

尾脇は続ける。


尾脇「元寇達はいずれまた攻めて来るはずです。その時に借りを返しましょう。」

蜷尻「うむ、ならばそれまでに更なる軍備を整えねばならぬのう・・・その前に」

尾脇「えぇ、そのためにもまずは借りた金をどう返すか考えましょう」

という事で我々は再び金のことで頭を悩ませるのであった。

こうして、元寇への復讐心を燃やした私達の苦難の返済計画が始まったのである。


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