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魔戦闘蜂

 



「それにしてもネルルファ、お前は耳が良いんだな」


 私は肉にかぶり付くネルルファの耳を見ていた。


 毒を吸出す為に首に口をつけたあとは暫く不機嫌だったが、【悪食鬼熊(グルグルグマ)】のお肉を食べ始めてからは上機嫌とまではいかないものの、だいぶマシになったようだ。


 尻尾が揺れるからわかりやすい。


「ええ、私たち獣人は個人差や種族差はあるけど、総じて音や匂いには敏感なの」


「獣人が人間よりも五感が優れてるというのは知識として知ってはいたが、たいしたものだな。またなにか気付いたら、すぐに私に知らせてくれ」


悪食鬼熊(グルグルグマ)】が現れたとき、ネルルファは私よりも早くその存在に気付いていた。

 これは森などで魔物に奇襲をうけるリスクを減らせる、とてもいい能力だ。


 まぁ【悪食鬼熊(グルグルグマ)】のような化物の場合は気付いても逃げれるかどうかは難しいところではあるが。

 それでも他の魔物なら戦闘を避けることはできる。



「わかったわ、任せてちょうだい」


「これは頼もしいな。さっきまで小さく踞っていたとは思えない頼もしさだ」


 フフンと自慢気なネルルファを見て、少しからかいたくなってしまう。


「あ、あれはしょうがないでしょッ!? あんな魔物を見たのは初めてなんだもの……」


 まぁたしかにあれは恐いか……


 ゴジ山では毎年何人もの死者が出ているが、その半分以上は【悪食鬼熊(グルグルグマ)】の仕業だ。

 大の大人でも逃げ出すくらいには恐い存在だろう。


「そうだな。恐がるのは仕方ないし、勝てないものは勝てない、時には逃げることも大事だ。だが敵に恐怖して目を背けるのはダメだ。どんな時でも敵から目を離さないようにはしておくんだ。でなければ逃げ出す機会すら失うことになってしまうからな」


 これは魔物と遭遇したときの鉄則だ。

 その場で踞っていては、食べてくださいといってるようなもの。

 逃げるにしても、その寸前までは敵から目を離してはならない。


「わかってるわよ、もう大丈夫だから」


「一応言っておくが、ヴァンパイアは【悪食鬼熊(グルグルグマ)】なんかより恐ろしいからな、気を引き締めるんだぞ」


 ネルルファに言ったこれは自分自身への言葉でもある。

 いくら魔法の相性で優位とはいっても、決して油断できる相手ではない。


「……今さらだけど、あなたはそんな相手に本当に勝てるの?」


 ネルルファの耳が少し折れた。

 気を引き締める為とはいえ、少し脅かし過ぎてしまったな。


「大丈夫だ。戦いに絶対はないが、必ずなんとかするさ。それにお前は依頼者だ、なにがあっても守るから安心しろ」


 私はネルルファの折れた耳を摘まんで、ピンと立たせる。


「ふふ、なによそれ。絶対はないのに必ずって、矛盾してるわ」


「…………子供は細かいことを気にするんじゃない」


「ちょっと怒ったかしら? ふふふ」


「…………」


 小生意気な狐娘だ…………


 私は無言で尻尾と耳をわしゃわしゃと触りまくった。


「ちょっと、や、やめなさいってば」


 それでも触り続ける。

 年上をからかったお仕置きだ。








 ◇


 山に入って2日目。


 昨日と同じく歩いては休憩を繰り返す。昨日と違うところは山の勾配がだんだんとキツくなってきたということ。

 これは山の頂上が近くなってきたということでもある。

 昨日よりもこまめに休憩をしながら、ひたすらに登り続けた。


 ちなみに昨夜倒した【悪食鬼熊(グルグルグマ)】の亡骸はそのまま放置してきた。

 場所によっては燃やして処分しなければならないが、ゴジ山ならば問題ない。

 他の魔物のエサになり、骨は土に還る。




「待って、セイフィール!」


「どうした、またなにか聞こえたか?」


 後ろを歩くネルルファの声に足を止める。


 これも今日で3度目だ。

 ネルルファが魔物の足音を聞き取り、そこを避けるようにして登る。

 そのおかげで今日は魔物との遭遇はゼロだ。


「違うの、今回はなにか聞こえたわけじゃなくて、なんていうか、甘い匂いがするのよ」


 甘い匂いか……これはもしかすると。


「それはどこからだ? 辿ることはできるか?」


「ええ、できるけど……大丈夫? 魔物とかじゃないかしら?」


「大丈夫だから、案内してくれ」


「わかったわ」




 私は鼻をクンクンとさせて歩くネルルファの周囲を警戒しながら、あとをついていく。


 50メートルくらい進んだだろうか、その辺りでネルルファが立ち止まった。

 目の前には1本の大樹が。


「甘い匂いはこの木の上から出てるわ」


「よし、少し後ろに下がってろ」


 木の上に目を凝らす。



 ――――――見つけた。



 目当ての物を見つけた私は剣を抜き、それに向かって威力を最小限まで抑えた光の刃を飛ばした。


 そして狙い通り、それは地面へと落ちる。



「セ、セイフィール? それってまさか……」


「ああ、【魔戦闘蜂(バチバチ)】の巣だ」


 地面に落ちたのは蜂の魔物の巣。


 この【魔戦闘蜂(バチバチ)】の巣は濃厚な甘い蜜が大量に練り込まれていて、中々手に入らない【魔蜂ノ甘宝(ハチミー)】という名の高級食材として稀に市場に出回る。



「じゃあ【魔蜂ノ甘宝(ハチミー)】が食べられるの?」


 ネルルファが興奮気味に聞いてくる。


 ふふ、【魔蜂ノ甘宝(ハチミー)】は甘くて旨いからな、ネルルファの気持ちもわかる。


 私も最後に食べたのは数年前になる。


 楽しみではあるが、その前に――――




「食べられるが、まずは逃げるぞ。走れ!」


「え、えぇぇぇぇ~ッ!?」


 私たちの上空には、巣を攻撃されて怒った大量の【魔戦闘蜂(バチバチ)】が、ブゥンという羽音を響かせていた。

 この魔物、毒はないのだが、刺されると半端じゃなく痛い。


 落とした巣の一部を拾って、私たちは早々に逃げ出したのだった。







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[一言] ハチミーハチミーハッチっミー 蜂蜜を舐めると〜
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