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姉様

 



「シャーディー姉様から聞きました、ギルドを、やめたって…………どうして、どうしてですかッ!?」


 急いでいたのか、キュウラは少し息を切らしてるようだ。


「まだ私を〝姉様〟と呼んでくれるのか」


 キュウラとは別に本当の姉妹というわけではない。

 ギルドで先輩や尊敬する人をそう呼ぶのは珍しくないことだ。

 特に【白銀の百合】のような男子禁制のギルドならなおさら。


「当たり前ですッ!! どんなことがあっても、私にとって、セフィー姉様はセフィー姉様なんですッ!!」


 キュウラとは付き合いが長く、特に私とシャーディーに懐いてくれていた。

 妹がいるというのはこんな感じかと、よく思ったものだ。

 そういえば、何となくネルルファとも似てるかもしれないな。


「もう私はギルドをやめたんだ、律儀に〝姉様〟なんて呼ばないでいい。それに……お前だってわかってるだろ? 今回の件は私がやめるのが最善で、それがギルドの為に、なによりシャーディーの為になるって」


 私は自らの意思でギルドを出た。

 それこそが彼女の為になると、そう信じて。


「そんなことありませんッ、シャーディー姉様とセフィー姉様は一緒じゃないと駄目なんですッ!! 今からでも遅くないです、ギルドに戻ってください」


 今にも泣きそうな顔で、キュウラは私を止めようと必死になっている。

 こんなキュウラの顔を見るのはいつぶりだろうか。


 私だってそう思ってたさ、シャーディーとは死ぬまで一緒にいると、そう信じて疑わなかった。


「いや、もう遅いよ、キュウラ。もう遅いんだ…………お前はもうギルドに戻れ、私はこれから大事な用があるんだ」


「…………その大事な用というのは、そちらにいる方となにか関係があるんですか?」


 キュウラの視線が私から、横にいるネルルファへと移った。


「そうだ。私はこの子の依頼を個人的に受けた。これからその仕事だ。悪いが先を急いでるんだ、行くぞ」


「待ってくださいッ! 昨夜魔法をお使いになりましたよね? 何か面倒事に巻き込まれてるのでは?」


 やっぱり夜に私の魔法は目立つか……

 それにキュウラは私の魔法を見慣れてるからな。


「これは個人的に受けた依頼だ。他人に話すことはできない」


 私はあえて、冷たく突き放すような物言いをした。

 キュウラが私を心配してくれてるのはわかるし、素直に嬉しくも思う。

 息を切らしてるのも、きっと今まで私を探していたのだろう。

 だけど、私はもう【白銀の百合】のメンバーと関わる気はなかった。

 それが、妹のように可愛がっていたキュウラでも、私の意思は変わらない。


「た、他人……そんな、セフィー姉様…………」



 私はネルルファの手を引っ張り、キュウラをおいて先に進んだ。

 前に向き直る直前に見たキュウラは、まだ納得いってないといった感じで、口をつぐんでいた。







「――――ねぇ……ねぇってば!!」


「ん? どうした?」


「手ッ! 痛いんだけど」


「おっと、すまん」


 気付けば無意識にネルルファの手を強く握り過ぎていた。

 やっぱりまだ引きずってるな。


「よかったの?」


「何がだ?」


「さっきの人のことよ! 納得してなさそうだったけど……」


 キュウラはああ見えて意外と頑固だからな……納得はしてないだろう。

 でももう終わったことだ、無理矢理にでも納得してもらうしかない。


「あいつは私の妹みたいなものでな…………ちゃんとわかってくれるさ」




 その後は馬車乗り場に着いて、ゴジ山の麓まで運んでくれる御者を探した。

 運がいいことに馬車はすぐに見つかり、早速出発の運びとなった。









 ◇


 馬車に揺られ暫くたち、辺りはすっかり暗くなった頃にようやくゴジ山の麓に到着した。

 御者とはこの麓までの約束なので、お金を払いここで別れた。


「今日はここで野宿して、明朝に山に入る。明日からは少し大変だから今晩はゆっくり休め」


 食事は魔法で火を起こして作った簡単なスープと干し肉で済ませた。

 質素だが、これが一番荷物にならないで楽だ。

 明日からは山の魔物を狩るので、もう少しマシな食事になる予定ではある。


「夜は冷えるからな、ちゃんと毛布をかけるんだぞ」


「……ありがとう」



 山越えにかかる日数はだいたい4日。

 山を越えたら近くの村まで歩いて、そこでまた馬車に乗って丸2日。

【ゲルゾルの里】までたどり着くのには、どうしたってそれなりの日数が必要になってしまう。


 昨夜寝る前にネルルファに確認したことだが、ヴァンパイアは里から出た者を容赦なく殺す。

 だが逆に里から出なければ殺されることはないという。

 それはヴァンパイアが獣人たちの血を食糧としてるかららしい。

 魔力が豊富に含まれていて、獣人族の血はヴァンパイアにとってご馳走なんだとか。


 だがネルルファを里の外に逃がした母親はどうなってるかわからない。

 ネルルファは最悪のことも覚悟してると言ってはいたが、気が気じゃないはずだ。

 私も早くなんとかしてやりたいと思ってる。



 だが焦りは禁物だ。

 山さえ越えられればもう着いたも同然ではあるが、山中では魔物との遭遇がある。

 私一人なら何の問題にもならないが、ネルルファを守りながらとなると気は抜けない。

 とにかく明日からは油断せず、気を引き締めていかなければ。



 ――――ん?


 これからのことを寝ながら考えていた時だった、背中に暖かな温もりを感じた。

 見ると、隣で寝ていたネルルファが私の背中にくっついてきたようだった。


「どうしたんだ、ネルルファ。寝付けないか?」


「……別にいいでしょ。昨日あれだけ私を好き勝手したんだから……」


 誤解を招きかねない言い方はやめてほしい。

 たしかに昨日は尻尾や耳を触り過ぎてしまいはしたが、それ以外に変なことはしていない。


「別に私は構わないが、いいのか? また触ってしまうかもしれないぞ」


「……変態」


 な……変態、だと?

 私はただ尻尾と耳をモフモフしただけなのに。

 あまりに酷い話だ……


 だが明日寝不足になられても困る。


「今日は触らないから、安心して寝ろ」



 こうして、特に問題なく私たちは初日を終えたのだった。




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