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第7話 過去との決着

日は昇っては暮れていく。

夕暮れ時、教室の外、廊下。

今日の授業を終えた俺たちは、作戦決行のために、教室の外で待機していた。

メンバーは、俺と三栖さんだ。

三栖さんがいたほうが何かと都合がいいだろうという、三栖さん自身の提案によって、二人でその時を待つこととなった。

教室の中には、五日沢いおさわ とおるが一人で佇んでいる。

どうやら、教室から校庭を眺めているようだ。

その姿からは、哀愁のようなものを感じるほど、ある雰囲気を帯びていた。

「そろそろ行こうか。」

「…。そうだね。」

その返事を聞いた俺は静かに教室に入り、一歩一歩あゆみを進めた。

「…享。」

「…!?、か、奏。…どうした?」

五日沢は、戸惑いながらも俺たちの存在に気づく。

「…、あの時は、本当にごめんなさい…!!!」

「…。」

「…?」

突然三栖さんが謝った。

理由は全くもって理解できない、だが、五日沢の表情、三栖さんの台詞を鑑みれば、確実に過去に何かあったことは確定だろう。

痴情のもつれ?喧嘩?…今、俺がここでその理由を推測しても、そんなものは邪推になってしまう。

この理由を予測するには、俺はあまりにも三栖さんという人間を知らなすぎた。

「あの時、あの事故の時、私はずっと放心状態だった。私だけ、無傷。楓は重症で、お父さんもお母さんも死んじゃった…。だからというわけじゃない。悪いのは私、あの事故で生き続けてしまった私が悪いの…。だから、だから、あの時、「あなたには関係ない!」なんて言って、本当にごめんなさい…!!」

三栖さんは、心の奥底から叫ぶように、言葉を吐いた。

その姿はあまりにも必死で、今にも泣きそうな表情をしていた。

「…やっぱり、そんなこと、気にしていたのか…。いいんだ。悪いのは俺の方だ。あの時、無責任に助けようとした俺が悪いんだ…。善悪を顧みず、自己中心的に良しとし、行動した俺が悪いんだ。」

五日沢は、正面から三栖さんと向き合い、そう告げた。

「…いや、享は悪くない…!助けようとしてくれた享を、私は…、私は…!」

その瞬間、五日沢が三栖さんの頭に手を置いた。

「…だから、気にするな。俺も、ずっと気がかりだった。あの事故から疎遠になって、学校も、クラスも同じだが、目を合わすことすらなくなってしまった。男としてじゃなく、幼馴染として純粋に寂しかった。でも、これからは、前と同じように仲の良い幼馴染でいてくれ。俺の話を、前のように笑って聞いてくれたら、俺は嬉しい。もう謝る必要なんかないんだ。」

この五日沢という生徒は、見た目の通りの男前だった。

推測するに、おそらく過去に大きな事故があった。

それは、状況的に車両による事故と見ていいだろう。

つまりは交通事故ということになる。

歩行者側なのか、車両同士によるものなのかは現状は判別がつかない。

そして、その事故で三栖さんは両親を失い、楓、というおそらく名前から察するに妹か姉が重症を負うという惨事になってしまった。

その時に、幼馴染だった五日沢享が助けの手を差し伸べようとしたところ、三栖さんはそれを払い除け、「あなたには関係ない」と言い放った。

そこからは、二人は疎遠になってしまった。

こんなところか。

だが、一つだけ付け加えるとするならば、三栖さんの、「生き続けた私が悪い」ということばは、絶対に間違っている。

たとえ俺が知らない原因がその事故にあったとしても、確実にそれは三栖さんが生き続けることを妨げるものにはなり得ない。

森羅万象の事物は、他人の生に干渉する権利はない。

これは完全に俺の持論だ。

「…わかった。享がそれでいいなら、私もそれでいい…。」

三栖さんは泣きながらそう告げた。

完全に蚊帳の外の俺だが、ここに入り込むほどお節介にはなれなかった。

「…一ノ瀬、奏をここに連れてきてくれてありがとう。」

「いや、そういうわけでもないんだが…。」

五日沢は、俺が三栖さんの心のしこり、及び幼馴染二人の関係を戻すためにこの場所に共に来たと思い込んでいる。

よく考えたら、そりゃそうだ。

というか、この状況に適合している自分自身に俺は驚いていた。

「一ノ瀬くん、突然こんなことしてごめんなさい…。」

「…いや、わかってる。これで、何故奏さんは五日沢が放課後教室にいることを知っていたのか、合点がいった。ずっと、機を伺っていたんだな。それがどれほどの期間かはわからないが、そこに偶然俺たちの計画が舞い込んだ。俺たちの話に巻き込んだんだ、このくらいは全然構わない。」

「…!すごい、これだけの情報でそんなにわかるんだね…。流石、万年学年1 位は違うや…。」

三栖さんは、なきじゃくった後の腫れぼったい目をこすりながら、そう答えた。

「…ちょっと、俺には話がわからないな。」

「…そうだな、一から話すよ。」

俺たちを照らす夕日は、未だ煌々と光り輝いていた。


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