第1話 新しい始まり
透き通った青い空、夜露に濡れた桜、春を感じさせる心地の良い風。
俺はその全てに感慨を抱きながら、ぼんやりと外を見ていた。
2020年4月8日。
俺、一ノ瀬 翔は、高校二年生へと上がり、さらなる一歩を踏み出そうとしていた。
予鈴が鳴り、2年A組のクラスメイト達が席に着く。
今日は始業式。春休みを経た、最初の登校日だ。
といっても変わるのは学年だけであり、クラスメイトは変わらない。
一年生の時から、このメンバーで学校生活を送っている。
理由は、この高校の入学試験の点数だ。
この私立桜ケ丘高校は、入学試験の点数で、A~D組までクラス分けがなされる。
俺の数少ない特技の一つである勉学のおかげで、俺は一番成績のよいA組に入ることができた。
…しかし、一年経った今でも、あまりクラスメイトとは馴染めなかった。
誰と喋っても壁を感じるのだ。何か余所余所しい雰囲気を感じずにはいられないため、俺ももう、クラスメイトに喋りかけるのは辞めた。
だが、唯一例外がある。
「翔、また前後ろの席だね。」
俺の唯一の友人、兼幼馴染の四谷 唯が、そう喋りかけてくる。
「……まぁ、昔から腐れ縁だからな」
「また勉強教えてね!」
「お前も成績悪くないだろうに」
「いや、だって!翔この前の全国模試ベスト10入りしてたじゃない。私はただの、この学校の八位。所詮、井の中の蛙なのよ」
「……ただ運がいいだけだから。そ勉強は、数少ない俺の特技だからっていうのもある」
「ふぅ~ん。…どこが数少ないんだか」
「何か言ったか?」
「美咲先生来たって言ったんだよ~」
唯の言う通り、女教師が入ってきた。
しかし、先生の後ろには見慣れない制服を着た少女がいた。
異国風というか、この日本では珍しい美く長い金髪。そして、青い瞳。所謂金髪碧眼というやつだろう。それは、俺の目から見ても明らかに美少女だった。
別の高校の制服を着た彼女は、静かにうつむいていた。
「紹介しましょう。この子は、転校生の七花 莢さん。聞いたことあるかもしれないけど、あの名門七花家の跡取りで、英国人の血が四分の一岳混ざっています。だから、この金髪は生まれつき、ということです」
「七花さん、自己紹介を」
七花さんはうつむいていた状態からクラスメイトの方を見る。
そして、ふと、俺と目が合った。
「……!!」
「…ん?」
反応を示された、気がした。
「…や、やっと…やっと会えた…。…ぐすんっ。…だめ、泣かないって決めてたのに…」
「な、七花さん…?」
美咲先生が突如泣き出した七花さんの方を見て心配する。
クラス中は騒然とする。
その瞬間、七花さんは駆け出した。
クラスの窓際まできて、さらに奥まで走る。
……まるで、俺めがけて走ってきているように。
そして七花さんは……俺に勢いよく抱きついた。
「ちょっ…は?」
俺はもちろん茫然とする。
「……翔くん……私は、ずっと、ずっとこの時を待ちわびて……!!
よかった……本当に……また会えて良かったよぉぉ……!!」
七花さんは、そう言いながら俺の胸の中で泣きじゃくる。
全く状況が理解できない。またって言われても、俺はこの子に会ったことなんてない。断言できる。
心の中で様々なことを推理してしまう癖のある俺でも、全く推理する余地がないほどに、その状況は意味不明だった。
「……人違いですよ?」
「……翔くんは翔くんだよ……。どんな世界線でも、翔くんは翔くんなんだよ……」
七花さんは消えそうなほど儚げな声で、俺にそう告げた。