~夢はでっかく億万長者!~
(gas代が高い…。)
最近なんだかやけに高く、正直財布に苦しい。
地方都市の人間にとってはgas代は死活問題だ。みんなどこに行くにしたって、殆どの場合には車で移動している。
数百メートル先のコンビニに行くだけでも車を使用するから、都会の人間より足腰が弱いとネタにされる程だ。
だからこのgas代高騰は困った。
(また生活費を切り詰めないとなぁ。)そんな風に少し考え事をしながら運転していたのが不味かったのだろう、気づけば僕の車は中央車線をはみ出して対向車のトラックが目の前だった――。
「おはようございます!」
(…ん。)
混濁した意識の外から声が聞こえる。それがなんとなく思考をまとめてくれて僕は目を開いた。
「え?あれ??」
目の前にはいっぱいの草原と女の子が一人。直前に見たトラックは影も形もなく、ついでに言えば女の子の恰好はコスプレイヤーか、ファンタジーMMORPGの登場人物みたいな白い絹のローブだった。所々装飾がついていて高貴な雰囲気がする。長い銀髪が風に揺れて、それは同時に僕の心も少し揺らした気がした。
「何はともあれ、まずこのケーキを差し上げます」
そう言って、女の子は満面の笑みでパンケーキを一枚差し出してきた。素手で。僕が唖然としていると、
「早く受け取ってこっちのシロップへ!早く!高APRが来ます!」
急に険しい顔で語調が強くなった彼女がパンケーキを素手で押し付けてきてそのまま僕の手を握って走り出した。
「え?え?え?何々???!高APRって!?」
「いいから早く承認してください!」
「わかんないよーーーーーー!!!!」
絶叫が草原に響く。
しかしその僕の泣き言が不味かったのだろう、周囲には突然虎か豹みたいな生き物が現れた。
「見ちゃだめです!それは目に毒なんです!”リヴォーク!”」
急に視界から豹(?)の姿が消える。
しかし彼女には見えているようで虚空を睨んでおり、しかも足元が少しずつずるずると豹が居た所へ引き寄せられていくように見えた。
「ごめんなさい…呼んですぐ何も教えられない内にこんなことになって…。どうか、どうか上手く生き残ってください…このDeFiで…!」
僕には何も見えない、ただ、彼女が、悲壮な声を発する彼女が何もない空間に向かって消えそうになっていく事だけは分かった。だから、それしか出来なかった僕は、思わず手を差し伸べて言った。
「ケーキの承認、教えて!」