72.勇者トルスと聖女リエル
普段前書き書かないんですけどちょっと宣伝です。
今回は『まちがいだらけのプリンセス』や『妄想★マテリアライゼーション』とのクロスオーバーネタが多めです。そちらも気になった方は是非読んでみて下さいね。
https://ncode.syosetu.com/n6777gl/ 『まちがいだらけのプリンセス』
https://ncode.syosetu.com/n8271gl/ 『妄想★マテリアライゼーション』
「さ、記念式典の準備会場はこっち! 関係者は王城の裏門から、って話は聞いてるわよね?」
「ええ、もちろん」
僕らはマゴリアさん達と共に、王城の裏門へ。
裏門なんて言い方をすると真逆にありそうだが、正確には少し正門からズレた所にある小さい門だった。
マゴリアさんは顔馴染みらしい城の兵士さんに気安く挨拶し、言った。
「『幻顕』のマゴリアです。こちらはギルド『居眠りドラゴン』のお歴々」
「これはこれはマゴリア様。どうぞ奥へ」
顔パスが利く辺り、本当に信頼されてるんだな、と僕は思った。
「勇者さん達ももう来てるかな?」
「どうだろ。聖女リエルってアストリアの姫さんなんだろ? 公務も忙しそうだしなあ」
マゴリアさんとオスオミさんの会話。
そういえば、今回は魔王討伐記念式典だ。
主賓たる救国の勇者とパートナーの聖女リエルが居なければ、お話になるまい。
「なーにズレた事言ってんのよ。そもそも、コレ自体が公務でしょ」
「そりゃそーか」
マゴリアさんは呆れたようにオスオミさんに言い、オスオミさんは頭を掻く。
本当に仲がいいな。
「勇者の名前も何度も聞いたけど、顔を見るのは初めてになるっスね。どんな男なんスかねえ」
「魔王を倒した勇者だからな、さぞ勇猛な面構えだろうさ」
フリッターとガルデが、多分それぞれ違う思惑で期待を胸に抱いている。
「シースさんにどんな感じの人か聞いてはいるけど、顔のイメージまではねえ」
「だね」
僕とリーピアは以前に勇者、聖女と会っていたという神官シースさんの言葉を思い出す。
勇者トルスさんは、いかにも勇者という感じの優しくて強そうな男性。
聖女リエルさんは、ふんわりした雰囲気の、まさしく聖女という風情の穏やかで清浄な女性だとか。
「あたしも顔は知らないのよ。勇者と聖女の話は、国王様経由で聞かされただけだしね」
それを聞いて自分の有り余るお金を活用したくなり、マゴリアさんは魔王討伐の一助となるであろう、ドラゴンの道の魔族討伐クエストをギルドに出したのだそうだ。
マゴリアさんを基軸にして僕らは国王様のみならず、救国の勇者様達ともお目通り出来る。
いち冒険者の集まりだった僕らにとっては、なんとも光栄な話だ。
「勇者さん達も男女の関係だったりするんですかねえ」
と、そこで急にブライアが俗っぽい話をする。
色恋沙汰で面倒な事に巻き込まれてウンザリしている彼女とも思えない積極性だ。
まあ、直接自分が関わらないなら基本的に女性は色恋話が好きってだけなのかも知れない。
するとマゴリアさんは意外そうに言った。
「あら、そこは伝わってないんだ? 勇者トルスと聖女リエルって、近々結婚予定らしいわよ? 亡国となっちゃったアストリアの復興の為にも、伴侶は必要だろうし。それと二人が普通に相思相愛らしくって、まぁ自然な流れよね」
それを聞いてブライアはきゃーっ、と彼女には珍しいくらいにはしゃいだ。
どうも彼女、さっきのマゴリアさんとオスオミさんの馴れ初めもそうだけど、ロマンティックな恋愛話に弱いらしい。
「凄い、凄いです! 魔族に滅ぼされた国のお姫様が勇者と手を取り合って魔王を討伐ってだけでもロマンティックなのに、そのお姫様は魔族とのハーフで、それでも相思相愛だなんて! ロマンティックの度が過ぎてます! 作り話を疑うレベルです!」
まあ、そういう風に事実を列挙してみると、確かに。
脚色の必要なんてないくらい出来過ぎた貴種流離譚であり、救国の伝説であり、そして、強烈なラブ・ストーリーだった。
「吟遊詩人の仕事は、しばらく安泰だね」
僕は笑った。
やがて僕らが来賓の為の待合室で雑談を交わしながらお呼びの声を待っていると、騒々しい声が聞こえてきた。
「トルスさん、主賓室って何処でしたっけ?」
「覚えてないのか!?」
「だ、だって私、次期魔王として部下への指示と併せてアストリアの為に人間界の要人とも交渉しなくちゃで、そういう些事は忘れがちになっちゃうんですよぅ!」
「声がデケえよ! その話は後で聞いてやるから、とにかく思い出すかその辺の奴に訊こうぜ」
トルス、という名が聞こえた。
そして、次期魔王。
と、言うことは。
ガチャリ、ばたんっ!
「失礼しますっ! アストリア王国、第一王女のリエル=フォルシュタインですっ! しゅ、主賓室ってここでいいんでしたっけ!?」
「あ、す、すいません、勇者トルスです……って、ここもう使ってんじゃねえかリエル! ゼッテー別の場所だよ!」
僕らは目をまん丸に見開く。
このポンコツそうなゆるふわ乙女が、聖女にして亡国の姫にして魔族とのハーフで……次期魔王?
……ちょっと、にわかには信じがたい。
そして傍らの男性が勇者トルスか。
気さくで精悍な雰囲気はあるが、勇猛果敢ないかにも勇者、というよりは彼女の保護者か兄といった風情だ。
とはいえ聖女リエルのイメージとのギャップに較べれば、まだこちらの方が信じられる。
僕らは誰一人勇者と聖女の素顔を見たことがないので、皆が一様に半信半疑になるのを感じていた。
その視線に気付いてリエルさんがあわわ、と慌てる。
「ま、まさか私、不審者だって思われてますかっ!?」
トルスさんは彼女の頭を軽くぽふ、と撫でる。
「よーしよし、落ち着け」
彼女の美しいブロンドが柔らかく撫でつけられ、表情は見る見るうちに蕩けていく。
「ふわぁ……❤️」
僕らは何を見せられているんだろう…………。
勇者と聖女という言葉から連想する神々しさではなく、そこに居たのは呑気なバカップルだった。
沈黙が重苦しく続き、そして。
「マジでこの人らが救国の英雄なんスか?」
フリッターは禁断のツッコミを入れた。
「おい、フリッター。言い過ぎだ」
ガルデは気持ちの上ではどうあれ、フリッターの礼を失した物言いを窘めた。しかし表情は複雑で、なんとも言いようのない空気が流れる。
「え、ええと、トルスさん、リエルさん。初めまして。あたし、ドラゴンの道の討伐クエストを出した『幻顕』のマゴリアです。お噂はかねがね伺っておりますけれど、まさかこんなに年若い男女とは思いませんでした」
そこでマゴリアさんが弛緩した空気に巧く乗りつつ、失礼のない程度に彼らの印象を正直に口にした。
「ふぁ……あ! す、すみません私ったら! トルスさんのナデナデが気持ち良くって、つい……」
リエルさんはマゴリアさんの言葉を聞いて正気に戻り、そんな風に言ってペコペコ謝り出した。
その小動物のような可愛らしい仕草には、聖女や姫や次期魔王の威厳など、どこにもない。
「すいませんコイツ、戦ってる時以外はホンット、緩い感じで」
トルスさんも一緒に謝る。
そんな彼女の頭を衆目も気にせず撫で出したあなたも大概ですよねというツッコミは僕の心の中にしまうことにした。
「『聖剣の勇者』と『守護者たる聖女』なんて大仰な称号はついちゃいるけど、まあ実態はこんなもんさ。気軽に接してくれよ」
「は、はい! 私も気さくな方が好きですので!」
トルスさんたちは口々にそう言い募った。
その言葉に僕らは綻び、ようやく微妙に緊張したような恐縮と、彼らの緩さにある種失望するみたいな変な空気が解けた。
「で、話戻るけどここ主賓室じゃねえんだよな? 悪いけど知ってる人いたら教えて欲しいんだ」
トルスさんは尋ねてくる。
「誰か知ってる?」
リーピアが尋ねるが、僕らは元より、マゴリアさんですら首を振った。
「あうう……じゃあ大人しく一般来賓室らしきこの部屋で待ちます?」
「つっても部屋ギュウギュウじゃねえか。既に7人いるんだぞここ」
卑しくも王城の来賓室なのでギュウギュウは言い過ぎだが、トルスさんは自分達がいることで部屋を狭くする事を気にしているようだった。
「良いですよ。あたしは気にしないし。ね、オスオミ」
「そだな、てか俺、マジの勇者様と会話できるチャンスとかめちゃくちゃレアで楽しみだからむしろ居てくれて構わねえよ。厨二病が疼くぜ」
「アンタねえ」
マゴリアさんとオスオミさんはそんな感じで歓迎。
「わ、私はお二人の馴れ初めと魔王を倒すまでの冒険譚、それに次期魔王となられるリエルさんの今後の方針に興味あります!」
ブライアは遠慮会釈なく、いつもの控えめな彼女らしくもなく興奮して質問する。
「ちょっとブライア、自己紹介が先でしょ、もう」
リーピアも流石に呆れて窘める。
「なんか賑やかで楽しくなってきたっスね! 式典なんて退屈かなって思ってたけど」
「言葉を選べと言うんだ」
フリッターとガルデもいつもの調子に戻る。
「えっと……じゃあ、みんな自己紹介と略歴でも話し合いますか?」
僕は場を取り仕切るように言った。
満場一致で、僕らは頷き合う。
そうして、救国の英雄たる勇者と聖女、その手助けをした魔道士とその夫、間接的に勇者の手助けをしたギルド……という妙な取り合わせの9人組が、期せずして一堂に会する事となったのだった。
(つづく)
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