07.初めての共同生活
「ねぇ、町はずれに私たちのギルドハウスにピッタリの物件が見つかったんですって。下見に行かない?」
「お、ほんと? じゃあ、見に行こっか」
僕とリーピアは今日もA級クエストを難なくこなし報酬を受け取り、僕は次のクエストはどうしよう、と考えていた。そこに、リーピアが受付の人から聞いた話を持ってきたのだ。
「どんな家かなぁ」
「お掃除はしないとだと思うけどね。空き家だし」
僕たちはそう言って、町はずれのほうに向かう。
町から少し離れ、森に入る。
「お、あれ?」
「そうね」
どうやら、森に入ってほんの10分くらいの所に、その木造の家はあった。いわゆるログ・ハウスって感じの家だ。
「いい感じの二階建てねえ。誰かが別荘にしてた、って雰囲気」
「そうだね。テラスもお洒落な作りだし」
僕らは家を眺める。
「4,5人で生活するくらいにちょうどいい大きさかな?」
「そんなものね」
家の規模を見ても、小規模ギルド向けといった感じで、仲間を迂闊に増やせない僕らにはうってつけの物件だった。
「ここに決めちゃう?」
「うん、即決だね!」
僕らは文句なくこの家でいいと決め、ギルドのほうに一度戻り、賃貸契約書の締結と年間契約料の支払いを済ませた。
「一括払いとは豪気ですね」
受付の人も笑っていたが、まぁA級クエストを立て続けにクリアできるようになったのだ、それくらい余裕である。
「じゃ、行こうか。家具とかはありもので済ませられそうだけど、日用品は買い出しに行かないとね」
「お掃除もしないとね。忙しくなるわねー!」
そして僕たちの共同生活は始まった。
◆◆◆
「あぁそこ、私の服入れるから」
「うん、じゃあこっちは僕ね」
「ちゃんと名前書いておいたほうが良いかもねー」
「良いの?家具は借り物なんじゃ」
「いざとなれば買い取れば良いんじゃないかしら」
「まぁそれもそっか」
「お風呂の順番どうしよ」
「一緒でもいいわよ?」
「あのね!」
「あはは!」
「そういえば料理、私出来ない」
「僕は出来るよ」
「ホント!?」
「僕も教えるよ」
「掃除の当番は日替わりね」
「うん」
「毎日掃除しないと駄目だからね」
「リーピア、ずっと掃除掃除言ってたね。綺麗好きなんだね」
―――そんな感じで僕たちの共同生活ルールは決まっていく。
「よーし! こんなもんかしら!」
「長い事使われてなかったから、掃除には結構かかっちゃったね……一日仕事だった」
僕らはすっかり家をピカピカにし、ぐったりと倒れ込む。
「あーお腹空いた。ねぇ、今日は流石に外食で良いんじゃない?」
「そだね……今から作る気力はあんまりないね」
そんなわけで新居は取り敢えず鍵をかけて、僕たちはギルドのほうへ食事に向かうのだった。
◆◆◆
「んじゃギルドハウスの所有を記念して、かんぱーい!!」
「なんだか僕たち、連日乾杯してるね……かんぱーい!!」
これで3度目くらいだろうか?
リーピアと知り合ってわずか1ヶ月。
僕たちはすっかり、A級冒険者として名を馳せ、ギルド『居眠りドラゴン』の評判はうなぎ上りになっていた。
「ようスレイド、景気良さそうだな」
「あ、ガルデ」
「あらガルデさん、お久しぶり!」
乾杯している僕らに、久しぶりにガルデが話しかけてきた。
「A級冒険者として最近活躍してるみたいだから、ホント良かったなって思ってな。何かお祝いに奢ろうか?」
「い、良いよ。あのお酒、すっごく高かったんでしょ。あれで十分だよ」
「ちょっとスレイド! そんな遠慮しなくて良いじゃない!」
僕は遠慮するが、リーピアはガルデの好意に甘えようとする。
い、いくらなんでもあんなお高いお酒を何度も奢ってもらうと、釣り合いが取れないよ。
「ははは、遠慮すんなって。ま、毎回アレばっかってのも芸がないし、今日はこっちでどうだ?」
ガルデはそう言うと、何やら包みを持ってくる。
「これ何?」
僕が尋ねると、ガルデは包みを開いて言う。
「何を隠そう、これは痺れドラゴンの肝臓だ」
「おおおお! 珍味!! 一口食べれば全身が痺れるくらいに美味しさで満たされるという!!!」
「よ、よく知ってるねリーピア」
僕は聞いたこともない謎の黒い物体(なんか、肉を燻製にしたような匂いがする)をしげしげと見つめた。
「待ってろー、切り分けてやるから」
そう言ってナイフで痺れドラゴンの肝臓とやらを切り分けると、僕らの皿に盛り付けてくれた。リーピアが早速、
「いただきまーす! う、わ、ぁ……ヤバい……マジでおいし……」
と口にした瞬間、身体がブルブル震えている。
「そ、そんなに? じゃあ僕も……はむっ……!?」
僕の身体に雷が落ちたみたいな衝撃が走る。
こ、これが『痺れドラゴン』の肝臓……! ホントに身体が痺れる……! いや、麻痺するとかじゃないんだけど、美味しさで痺れるっていうか。
その様子を見てガルデは笑う。
「ははは、まぁ実際はコレ、ドラゴンじゃないらしいけどな。良く似た海洋生物の肝臓を、名前の通りがいいってんで『ドラゴンの』って謳い文句を付けてんだとよ。……ま、『居眠りドラゴン』のお二人には良い具合のつまみだろ?」
そんな洒落の利いた贈り物をくれるガルデに、僕は思わず感動する。
「……ありがと、何度も」
「良いって。……お前には悪かったなって何度も思ってっけど、ようやく胸のつかえが取れた気がするよ」
「んーホントに美味しいー! が、ガルデさん、これどこで手に入れたんですか……!?」
僕らはそんな風にして、今宵の宴席を楽しく過ごすのだった。
◆◆◆
「いやぁ満腹満腹。あのおつまみホントお腹に溜まるわね」
「そうだね……見た目ちょっとグロかったし大きくはないのに、美味しくてビックリだよ」
僕らはギルドハウスに帰宅し、ゆっくり寛いでいた。
「さて、明日からどうしようかな」
「そうねぇ……A級クエストをこなし続けるのも飽きてきた頃合いじゃない?」
と、リーピアはまさかの提案をしてくる。
「え・す・きゅう」
「いやいや……それは流石に早すぎるよ」
「えー、なんでー? 行けるわよ?」
「目立ちすぎるって言ってるの。そういうのはリーピアも望むところじゃないでしょ」
「A級の時点で今更だけどね! まぁ言われてみるとそうだわ」
S級クエストというのは、上級冒険者の中でも選ばれた人たちだけがこなせると言われている最高難易度のクエストである。この町でも、年にほんの10数回くらいしか依頼は来ない。
この町はそこまで大きくはないので、受けられる冒険者も限られる。
そんなものを受けて、しかもあっさりこなした日には、僕たちの無敵催眠に嫌疑がかかるのは火を見るより明らかだ。
「何事も程々が一番だよ」
僕はそんな庶民的な発言をするが、リーピアは反論する。
「でもさぁ、スレイドは今まで散々な目に遭ったんだから、ご褒美があって然るべきだと思うのよ」
僕はそれでも頑なに言った。ちょっと意地悪な気持ちも込めて。
「ご褒美ならもう、とっくに貰ってる。君と会えたことだよ」
するとリーピアは急にボッと顔を赤らめて、モジモジし始める。
「な、な……か、からかわれるばっかりだと思ってたのに、なに急にそんな事……」
「ははは、お返しだよ」
いつも僕をからかってくるリーピアには、良い薬だろう。
「じゃ、もう寝よう。おやすみなさい」
「あ、もう! 話はまだ終わってないのに!」
リーピアは抗議するが、僕は今日は掃除や共同生活の話や宴席を経て本当にすごく眠かったので、まるで無敵催眠にかかったかのように、あっという間に眠りに落ちてしまった。
(つづく)
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