54.海
「う」
「み!」
「だぁーーーっ!! っス!!」
「……暑いな」
「ですねぇ……」
僕、リーピア、フリッターが水着に着替えて南大陸東沿岸の海ではしゃぐ。
ガルデとブライアは日除けの傘の下で、暑そうにしていた。
季節はもう秋になろうかという頃合いだが、気候的にこの辺りはまだまだ夏日が続いており、絶好の海水浴日和だった。
「ほーらほら、ガルデもそんなクッソ暑い鎧脱いで水着に着替えるっスよ!」
「お、おい、引っ張るなって……分かったよ、全く」
「ブライア! 折角なんだから、泳ぎましょうよ!」
「わ、私、海辺の町で育ったとはいえあんまり泳ぐの……ひゃん、やめて下さいよリーピアさん~っ!」
「あはは、楽しいねリーピア、皆!」
僕もいつになくはしゃいでしまう。
……そもそもなんで海に来てるかって?
実はね。
◆◆◆
「大王烏賊の討伐?」
僕は首を傾げた。
「そうっス。新鮮な奴が美味しい食材なんスけど、どうっスか?」
言い出したのはフリッターだった。
別に難しい討伐でもなさそうだし、別に良いんだけど。
ていうか、食材目当てなの、フリッター?
「海か……潮風は鎧が錆びやすいから余り乗り気にはなれんが」
「私は海は好きですけどね。海辺の町で生まれたので……あ、でも泳ぎはあんまり……」
ガルデとブライアが口々に言う。
リーピアはというと。
「あ、良いわね。水着に着替えて泳ぎたーい!」
「遊びに行くんじゃないんだけど」
僕が即座にツッコむが、フリッターはチッチッチ、と指を立てて言う。
「なーにカタい事言ってんスか。どうせいつも通り『無敵催眠』でイチコロっスよ。沖まで行かなくても奴ら、出てくるらしいっスからね、慣れない船で出航! の必要もないっス。なら、ついでに海水浴を楽しむのも全然アリアリっスよ!!」
享楽主義のフリッターらしい発言ではあったが、それにしても珍しいロケーションを選ぶものだ。
洞窟や塔、樹々生い茂る森と言った狭い場所でのゲリラ的戦法、山岳地帯でのアクロバティックな戦いはレンジャーの本領発揮だけど、沼や砂漠や海なんかは彼女らにとって重要な『足場』が不安定だ。
沼は言わずもがな足を取られるし、砂漠や砂浜では自慢の俊足も半減する。
まして、沖に出るとなると論外である。今回は船で沖へ行くプランじゃないからともかく、普通はフリッターから出てこない発想だと思う。
(……水着姿でガルデにアピールしたい……とか……? まっさかぁ)
そんな色気を振り撒く行動とは無縁も良い所のフリッターである。
一時期のリーピアみたいに、四六時中のように肉体的な誘惑を僕に仕掛けてきた色ボケじゃないんだから。
と僕が失礼な事を考えていると、リーピアがジトッと僕を睨む。
「ねえ、スレイド君? 何か今失礼なこと考えてなかったかしら?」
「な、何言ってんのさ。僕はリーピアの事を常に尊敬して、大切な相棒で恋人だと思っているに決まっているじゃないか」
クッソ棒読みになってしまった。
これは後でお仕置きされるな。
そんな僕を余所に盛り上がるフリッター。
「アタシ、めっちゃ泳ぎたいっス! 泳ぐのってあんまやった事ないんで、誰か教えて下さいよ!」
僕はそのテンションにたじろぎつつ、皆を見渡す。
「……泳ぎ得意な人、誰?」
ブライアは先ほども言っていたように不得意らしくうつむく。
リーピアは……まぁ、普通ね、という感じ。
僕は、泳げなくはないけど、得意じゃないかな。
――で、ガルデはというと。
「……まあ……傭兵時代に、水連はそこそこ」
という感じで、教練役は決定した様子だった。
「オッケー! じゃあガルデ、アタシに教えて欲しいっス! これは決定事項っスからね!!」
と、いつもよりもめちゃくちゃハイテンションに意気込むのだった。
◆◆◆
「で、泳ぎの練習するんじゃなかったのか、フリッター」
「あ、そうっスね! でもちょっと波打ち際で遊んでからが良いっス! ほらガルデも!!」
てな感じで、最初の目的はどこへやら、すっかりご機嫌でガルデと一緒に波と戯れるフリッターだった。
その様子をリーピアは見ながら、しみじみ言う。
「青春ねえ……」
お母さんじゃないんだから。
僕は口に出さずに呆れる。そんな僕の様子を見て、キラリンと表情を明るくするとリーピアは、
「私達も遊びましょ、ホラ、スレイド! えーいっ!!」
と水をぶっかけてきた。
「こらっ! 不意打ちはズルいよ! そらっ!!」
僕も負けじと水をかけ返す。
「あはは! やったなー!」
「ほらほら、脇が甘いよ!!」
そんな様子の僕らを見て、ブライアはしみじみ言った。
「若い……若いです……眩しすぎる……」
お婆さんじゃないんだから……。
っていうか、折角水着に着替えたんだから、ブライアも波打ち際にくる位の事はすれば良いのに。
と僕がブライアの方を見やると、そこには。
ばゆん。だぷん。
何かが弾むような効果音を出しつつ、見事に実った果実が二つ、黒い薄布に包まれていた。
「……なに、あの水着」
僕はビックリした。
かなり、その、き、際どい。
誰のセンスなの? あれ?
「あー、ブライアにはアタシが似合いそうなの見繕ったんス! 似合ってるっスよ、ブライアー!」
「も、もう。水着選ぶなら、私もちゃんとついていったのに! こんな、だ、大胆な水着選ぶなんて……」
ブライアはものすごく恥ずかしそうに露出度の異様に高い黒色のビキニを手で隠していた。
下はパレオなのが救いだけど、彼女のメリハリのあるボディがこれでもか、とばかりに強調される、煽情的な水着だった。
「ちょっとスレイド君? 何いやらしい目を向けているのかしら?」
「み、見てないから!」
物凄くウソでした。ごめんなさい。
いやぁ……恋人がいる身でも目を奪われるなんて、お恥ずかしい。
そりゃあ、男に言い寄られちゃう訳だよね、ブライア……。
因みにリーピアの水着は、彼女のスレンダーで引き締まった身体によく似合う、競泳型みたいな身体にピッタリしたタイプ。
僕はリーピアのアクティブな所や適度に健康的な薄い小麦色の肌が好きなので、よく似合っているなあ、と思って見ていた。おへそが見えないのがちょっとだけ残念。
一方、ガルデとフリッターはというと。
「そーらガルデ! レンジャー奥義、水鉄砲、連射っス!」
「何が奥義だよ……わぷっ! ……フリッター、覚悟は良いんだろうな?」
バシャバシャと、あっちも楽しそうにしていた。
なお、ブライアにあんな露出を選んだフリッターの水着は、ワンピースでフリルの付いた、意外なほど可愛い系だった。
髪の毛もいつもは後ろでまとめている三つ編みを今日に限って解いているから、ウェーブがかったロングヘアになってて、シルエット的に殆ど別人みたい。
「あはは、ガルデがあんな風に遊ぶの、初めて見た!」
僕は笑う。
「意外と、良いカップ……コンビじゃない!」
カップルって言いかけたね、リーピア。
まあ、そう言ってみれば、凹凸コンビ、ってだけじゃなくて。
確かに、フリッターとガルデは、そう見えなくもない、かな。
そんな僕らの様子を眺めるブライアは、自らの水着の恥ずかしさをさておく事にしたのか、
「うーん、この際私も楽しんじゃいましょう! みなさーん、私も混ぜて下さい! えいえいっ! 『視界封印っ』!」
と、僕らにとんでもない禁じ手を使ってきた。
「わっ、何も見えない! ズルいよそれはー!!」
「ちょっとぉ、私達にそれ使うの反則でしょー!?」
「油断大敵、ですっ! あははっ!」
バシャバシャと視界を封じられた僕らに水をかけ倒すブライア。
「んもー、そっちがそう来るなら、私達も使っちゃうわよ!? スレイド、いっくわよー、おやすみぃ……」
「わっ、リーピア流石にそれは駄目だって! 『限定超強化』かけないでー!!」
何も見えない状況でリーピアが僕に『限定超強化』をかける。まあ、僕が『短時間催眠』をリーピアの『限定超強化』がかかってから数秒以内に発動させなきゃ、『無敵催眠』は発動しないので、こんなのは冗談の範疇だが。
……なお、『限定超強化』という能力名はリーピアが今更ながらというか、最近ようやく名付けたものである。合体能力や僕の元の能力と違って、自分の能力には名付けの拘りがなかったらしい。……あれだけ命名に拘ってた割に、変だよね?
「全く、何やってんだかあいつらは」
「あはは、あんな事出来るのも仲間への信頼の賜物っスよ」
遠くでガルデとフリッターも呆れつつ笑っていた。
こうして僕らの、楽しくも騒がしい海水浴は過ぎていくのだった。
――因みに、本日の夕食のメイン・ディッシュは『大王烏賊のゲソ焼き』と相成りましたとさ。
(つづく)
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