45.フリッターの場合
「い~~~~やっほぉ~~~~~~ぅ!!」
ドヒュッ、ドヒュッ、ドヒュゥッ!!
アタシは得意の『連続射出』で、獲物を次々仕留める。
森の中での野生のケモノやモンスター相手の追いかけっこは、レンジャーの本分。
魔族なんて厄介な連中と違って隠蔽能力も普通に通用するし、ギルド活動で鍛えた野生のカンはますます冴えわたる。絶好調だった。
「た~のしぃ~~!!」
『居眠りドラゴン』が約1ヶ月の休暇をくれた事で、アタシは久しぶりに羽を存分に伸ばしていた。
ギルメンの前でも言った通り、ギルドでの活動は別に苦になっていたわけではなく、むしろ楽しかった。
けど、これはまた別種の快感があるという事である。
勝手気ままで、誰にも邪魔されず制限かけられず、ひたすら思いのままに狩りを楽しむ。
冒険者をするにあたって狩人やレンジャーって職業を選ぶ人間は、大方そんな性分が多かった。
「いやあ、大漁大漁」
アタシは森で仕留めた野生のケモノやモンスターを手早く捌いて、数日分の食糧を小屋にドサリと投げ入れ、冷凍保存のための弱めの凍結魔法を放った。
「2ヶ月ぶりくらいかな、こんな生活すんの」
アタシがスレイド達と岩山で出会ってから、もう2ヶ月以上が経過していた。
短いようで、長い日々だったようにも思える。
ギルドハウスという定住地を持ち、日々仲間と共に過ごす生活。
それはそれで、今までの人生では有り得ない幸福だったように思う。
だって、アタシは他人が嫌いで、他人と一緒に生きる事が嫌いだったから。
アタシは、昔の事を少し思い出す。
「あの頃は荒れてたなぁ……」
◆◆◆
「フリッターって、自分勝手だよね」
アタシが良く言われていた事だ。
そうなのかな。
生まれついてそういう性格だったから、分からなかった。
周りのペースを読まない、空気読めない、足が速いからって良い気になんないでよ。
なんか、そういう感じの事を良く言われた。やっかみっぽい事は、身体能力の高さを理由にした嫉妬なんだろうけど。
でも、子供の頃のアタシは、そういう言葉を受け続けて、だんだん暗くなっていった。
周りに合わせよう、空気を読もう、足が速い事は隠そう。
そうして、『ウジウジした、どうしようもないアタシ』が生まれた。
でも、それが壊れたのは13歳くらいの頃。
アタシは、町の(友達と言いたくないが、当時は友達だった)子供たちが度胸試しにモンスターのいる森で遊ぼうぜ、なんて言い出したので、危険だよ、止めようよと言っても聞かないのを不安に思いながら、おずおずと後ろをついていった。
「なにビビってんだよ、フリッターは臆病だなぁ」
「そーよ! どうせモンスターなんて大したことないわよ」
口々に言う友達と違い、アタシは野生のカンが告げていた。
あぁ、こいつら、ここで死ぬんだ。
でも、こんな奴ら、別に死んでも良いか……。
アタシは自慢の俊足を隠しつつも、決してその鍛錬は怠らなかった。
生まれ持った能力、才能を磨くことは大事だよ、って、両親は言ってたからだ。
なので、いざとなったらコイツら見捨ててアタシは逃げよう。
アタシはそんな後ろ暗い気持ちでコイツらの愚行を見ていた。
けど、そうはならなかった。
「グォオオオオ……」
予想通り。
足の速い『虹色トカゲ』が、アタシらを見つけて、食おうとしてきた。
B級冒険者なら難なく逃げ切れる程度の敵だが、当時はまだ子供のアタシ達だ。
俊足のアタシはギリ逃げられる程度の速度だったが、アタシと違って足の遅い子供たちは恐らく、餌になるのだろう。
アタシは虹色トカゲに遭遇して瞬間的に判断し、踵を返して逃げようとした。
だけど、そこで見たんだ。
「た、助けてぇええ!」
「ふ、フリッター! お前ひとりで逃げんなよぉ!」
こんな奴ら。
死んじゃえば、いい。
アタシは恐怖と涙に呑まれていく『友達』の姿を侮蔑的な目で見て、逃げようとして。
「……1回だけだからね!!」
そして、密かに練習していた、レンジャーの能力……『一点投射』を使った。
何があっても自分は逃げられるように、と思って用意していた、手作りの弓と矢に、わずかな魔力を込めて、放つ。
それは見事に虹色トカゲの眉間に突き刺さり、少なくとも一時動きを止められた。
「逃げるよ!!」
アタシは恐慌状態の『友達』の手を引っ張り、俊足で駆け抜け、森から脱出した。
モンスターのいる森で死にそうになった事は、保護者からこっぴどく叱られたっけ。
でも、アタシの両親は責めなかった。
よくやったね。
尊い事をしたんだよ。
アタシは馬鹿な事をしたな、放っておけば良かったのに、と思っていたが、両親の言葉で思い直した。
それから、アタシは少しだけ『友達』に寄り添ってみようと思ったが、連中は変わらなかった。
だからアタシは、絶望と共に、むしろ自分を変えようと思った。
コイツらなんかと合わせなくて良い。
アタシはアタシらしくあろう。
アタシがなりたいアタシになろう。
モデル・ケースとして浮かんだのは、両親だった。
快活で、明るくて、ハキハキしてて、ひょうきんで。
――そして、誠実で。
アタシはああなりたいと思った。
だから、『友達』と合わせるためにウジウジしていた自分を変えようと思った。
そして今のアタシが出来た、って訳っス。
◆◆◆
「今にして思えば、しょーもない事で悩んでたよなぁ」
アタシは周りに誰もいないので、半分演技の口調を止めて独り言ちる。
あの語尾、父親の影響なんだよね。
自由な狩りを楽しんだ後は、お食事タイム。
野性味溢れるジビエ料理をワイルドに調理して、がっつく。
「ん~っ、おいひぃ!」
ギルドハウスで食べるスレイド・ガルデの男のくせに妙に上手な料理や、ブライアの家庭的な料理も美味しいけど(因みにリーピアは壊滅的に料理の腕が下手なので、あまり台所に立つなと言われている)、こういう猟師メシってのは独特の味わいがある。
手間暇かけたアクや臭み抜きなどをしないのでエグい味も多少あるが、何より新鮮さが良いのだ。
「今頃スレイド達、どうしてるのかなあ」
アタシは飯をばくばく食べつつ、今はここにいない仲間を想う。
「ホント……アタシみたいな自分勝手な人間を、よくギルドに入れたよね」
自嘲気味に、ガルデの勧誘とそれに追随したスレイド、リーピアの事を思い出す。
能力が目当てで、最初は打算だった。
こないだガルデにそう言われて軽くショックを受けたのも意外だった。
そんなもんでしょ、人間関係。
そう割り切って、冷めていた部分がアタシにはある。
むしろ、だからこそアタシは打算的な気持ちを込めて、それを敢えて言いまでしてあのギルドに入った。
なのに、いざ勧誘の理由を尋ねて、そこに感情より打算があった事に傷つくなんて、勝手な話だ。
だけどガルデは、アタシを『信頼』してると言った。
スレイドが信頼したから、なんて言ってたけど、先にアタシを信頼してくれたの、アンタのほうでしょう。
まあ、変に恋人関係みたいに発展するのも面倒だから、言わなかったけど。
ブライアがガルデを実際のトコどう思ってるかってのもあるし、アタシはやっぱ、ぎゃーぎゃー騒いでるムード・メーカーが良いポジションだ。
気楽だしね。
「なんて、自分の気持ちに懊悩する辺りが、語るに落ちているかなぁ」
アタシは苦笑しつつ、猟師メシを食べ終えると、軽くストレッチをしてから野宿の準備を始めた。
◆◆◆
「ふぁあ……そこそこ規則正しい生活に慣れちゃうと、こういう気ままな寝起きに違和感覚えるなあ」
テントで寝転びつつ、アタシは今何時ぐらいだろう、と懐中時計を取り出す。なんだ、まだ23時か。
欠伸が出るという事は、もう寝たほうが良かろうが、少し気分が高揚していたのでアタシはテントの外に出た。
すると。
「わぁ……」
そこには満天の星が輝いていた。
なんだろ、こんな光景を見るのも久々だなぁとアタシは思った。
のんびり空を眺めるとか。
「休暇をくれたスレイド達には感謝だなあ」
今頃彼らも、ラブラブ旅行中に夜空を見ていたりするのだろうか。
その光景を想像して、何となく胸がほっこりした。
「リーピア、変に奥手なトコあるからなあ。むしろ最近じゃスレイドのほうが積極的だよね」
アタシは旅行に行く話を変に誤魔化そうとして墓穴を掘っていたリーピアを思い出し、笑った。
「あのまま二人とも、ずーっと上手く付き合って行ければ良いのにね」
そう独り言ち、存分に満天の星の美しさを堪能したアタシはテントに戻って眠りについた。
明日は、何を狩ろうかな。
(つづく)
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