44.休暇
「ねぇスレイド、旅行行かない? 旅行」
「どしたの急に? 別に良いけど、皆の予定も訊こうよ」
僕とリーピアが出会って、4ヶ月目くらいになるだろうか。
彼女は突然そんな事を言い出した。
僕が『皆の予定も』と言って、暗に全員で行くのだろうとほのめかしたところ、リーピアはモジモジと指を弄び、ぽつりぽつりと言う。
「いや……み、皆と一緒に、じゃなくて」
「……あぁ」
2人きりで?
それならそうとハッキリ言えば良いのに、と思ったが、彼女はこういう妙に奥ゆかしい部分があるので、黙っておいた。
「良いよ。じゃあ、いつにするか相談しないとね。皆もクエスト受ける都合とかあるから、暫くお休みにする、って話くらいはしないと」
「そ、そうね。それは義務よね……」
そこまで頭が回っていなかったのか分からないが、リーピアは慌てて取り繕った。
「じゃあ、早速みんなに伝えてくるよ」
「あ、あっ、ちょっと、ちょっと待って。スレイド、言い方に気を付けてね?」
言い方って言われても。
2人きりでちょっと旅行に行きたいから、暫く『無敵催眠』なしでクエストやっておいてね、とか、いっそ皆も休暇とかどう?とか、色々切り口はあるだろうけど。
「その、2人きりで旅行、の部分はボカして」
「ええ……? 無茶言うよね」
僕は呆れる。そもそも、2人で朝帰りキメた事が皆に知られているのだ。
2人きりの旅行が今更、何だと言うのか。
僕は若干理不尽なものを感じながら、言い訳を考える。
どうしようかな。
僕ら抜きで3人でクエスト、もしくはソロ活動とかやって貰う事になるだろうけど、そこは正直心配していない。
まあ、そもそもS級を2つもこなしたり、日々A級をこなす僕らに糊口をしのぐほどの資金難が迫っている訳ではない。むしろ、生活には余裕がある訳で。
となると、やっぱりこれを機に、皆にはのんびりして貰う、とか……。
「あ、そうだ」
「な、何?」
「いや、良い言い訳を思いついたから」
僕は皆を集めて、話す事にした。
◆◆◆
「……という訳でさ、『居眠りドラゴン』のメンバー各位に、自由時間を持って貰おうかなって」
僕はそんな切り口で、『僕とリーピアは暫く2人きりで旅行してくるからね』という部分を隠蔽しつつ、それなりに納得して貰えそうな理由を話す。
曰く、ギルドを結成してからそれこそ毎日のようにA級、ごくまれにS級なんてクエストもこなしてきて、みんな疲れているだろう。
なら、たまにはリフレッシュするのもどうか。
貯金は山のようにあるから、旅行やリフレッシュに必要な分、5等分してそれぞれが欲しいだけ分けよう。
ギルドマスターとして太っ腹な姿勢を見せつつ、リーピアをあくまでメンバーの1人として扱う言い方にしたのだ。
これなら文句ないでしょ?
すると、フリッターが真っ先に賛同して、言い出す。
「良いっスね! 皆での活動がしんどいとは思わないっスけど、むしろ楽しいくらいっスけど、たまにはアタシの性に合ったソロ活動も久々にしたいとは思ってたんス!」
フリッターはそういう性分だもんね。
良い助け舟を得た、と僕は思うが、ガルデとブライアは言う。
「俺は別に良いが……何故急に? 昨日も、今後はどういうクエストを受けるかの相談をしていたのに」
「そ、そうですよね。何週間くらい先までのクエストの情報も集めて整理してたじゃないですか。それ、無駄にしちゃって良いんですか?」
……まぁ、慎重派の2人は不審に思うよねえ。
その様子にリーピアがソワソワして、何とかして!と僕に目線を送ってくる。
ううん。
もうとっくに公然の仲なのに、変に隠したがるリーピアのせいで面倒な言い訳を考えなきゃいけない身にもなって欲しいなあ。
「ええとね、僕もそう思ったんだけどね。実は、リーピアが旅行好きの家族と久しぶりに会いたいって言うんだ。で、リーピアが旅行に行くって言うなら、当然『無敵催眠』も使えないよね。だったらいっそ、全員で休暇ってのはどうかな?って」
僕は立て板に水の嘘をスラスラと並べ立てる。
いやあ、これ本気でアドリブなんだけど、よくこんな嘘が僕の中からペラペラと出てくるよね、と自分に思わず感心してしまった。
「なるほどな。旅行好きの家族と」
「それじゃあ、しょうがないですね」
リーピアの家族が旅行好きだという話は以前から周知の事実。ただ、僕を含めて家族の話は殆ど詳しい事を聞いていなかったので、どうとでも解釈できる。僕はこれ幸いにと、ダシにさせて貰ったのだ。
ま、リーピアの都合を忖度したんだから、このくらいの事は許してくれるよね。
リーピアの方をチラリと見やると、胸を撫で下ろした様子だった。
「てな訳で、僕らの都合で大変申し訳ないんだけど、皆には自由時間を過ごしてもらおうと思って……」
あ、しまった。
反射的に『僕ら』って言っちゃった。
リーピアがそれを聞いて、ダラダラ汗をかいて真っ赤になっていた。
「僕ら?」
耳聡く聞きつけたブライアが不思議そうな顔をする。
ああ、もう。
これはバレたな。
僕は良いけど、リーピアが後で僕に激昂しそうだな、と思った。
「いや、どうせお二人さんで旅行でも行くんでしょー? まぁ、分かり切ってるんで、隠さなくて良いっスよ」
「そうだな。2人でゆっくり楽しんでくると良いさ」
フリッターとガルデも後に続いてサラリと流す。
からかうような口調をいつもより抑え気味にしたフリッターも意外だったが、ガルデの優しげな言い方、こういう場合は空気読んで隠してくれるのに、わざと後押しする言い方。
なんか、ちょっと前の雰囲気と変わったよね。
ブライアも、
「あぁ、なるほどそういう。だったらちゃんとそう言って下さいよ、なんで変なウソつくんですか」
と呆れていた。相変わらず余計な一言が多いな、とは思いつつ確かにそれは正論だった。
そんな風にギルメンにも軽くスルー気味の反応で呆れられ、リーピアは僕に泣きついてくる。
「うう、スレイドぉ~~~……」
「はいはい、ごめんねリーピア。まぁ、こんな感じだし、バレたからってどうってことないんだってば。皆がちゃんと祝福してくれてるんだからね」
僕はポンポン、とリーピアの頭を撫で、改めて言った。
「まぁそんな訳で、皆に休暇を楽しんで欲しいのも本当だから、僕らの旅行の件はダシとでも思って、ゆっくりしてよ」
「了解っス! ひっさしぶりの勝手気ままな活動、全力で楽しんでくるっスよ!」
「ああ、俺は逆に何もせずにゆっくり過ごしたいかな……戦いにも、少しだけ飽いてきた」
「私も読書とかしたいですね。それに、個人的に見て回りたい場所もありますし、ソロ旅行も良いかなあ……」
フリッター、ガルデ、ブライアも思い思いの休暇を過ごそうとあれこれ考えているらしく、僕は綻ぶ。
「僕らも楽しもうね。リーピア」
「もう! 結局バラしちゃうんだから! 別に良いけど!」
頬を染め、少し怒った風にリーピアは同意してくれた。
こうして、僕らの少しの休暇が始まった。
(つづく)
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