41.ギルド同盟
「じゃ、漆黒スライム討伐を記念して~?」
「あ、僕が音頭取るの? か、かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
「「乾杯」」
女性陣と男性陣で声のテンションが綺麗に分かれる。
普段は大人しいブライアも雰囲気に乗っかって、女性側の元気な声に合わせたらしい。一方、ガルデとライヒはいつも通り、静かにグラスを傾けた。
「いやぁ、『無敵催眠』が通じなかったときはどうなるかと思ったわよね」
「だねぇ……」
僕とリーピアはホッと胸を撫で下ろす。
「でも、収穫だったな。これでブライアの『心眼開花』を使えば、視神経を持っていないモンスターだろうが、眠らせられる訳だ」
「ま、まだ全てのモンスターに有効かどうかは分かりませんけどね……それこそ、『視界封印』にかかったような状態のモンスターだと、多分そっちが優先されるんでしょうし」
「まぁまぁ、細かい事は良いじゃないっスか! 戦術の幅がまた広がったって事で! ……アタシは今回の事を教訓に探知スキルを磨こうと思ったっスけど」
ガルデ、ブライア、フリッターがそれぞれ今回の戦いの反省会を開く傍ら。
「今回は報酬半分ずつって、良いのかい? 人数考えたら、2:5で分けるのが妥当なんじゃ?」
「そうだな。俺もこんな分け方は施されているようで気に入らん」
と、共闘したミスティさんとライヒが言い募る。
ミスティさんはともかく、ライヒもこういう所は公平なんだよなあ。
「良いよ。そもそも、今回は僕達が能力の検証を仕切れなかったのも落ち度だしね」
「そうねー、悔しいけど手間取った分のお詫びも兼ねて、5:5が妥当でしょ」
ミスティさんはまだ納得しかねるようであったが、ライヒは頷いた。
「そうか。まぁ、ギルドマスターのスレイドがそう言うんだ。ミスティ、俺も今の言い分には納得した。遠慮なく半分貰っておくとしよう」
「うーん、しょうがないね。両ギルドマスターがそう言うのであれば。ごめんねスレイド君、ありがとう」
と、ライヒは言う。そういえば、あっちのギルドマスターはライヒなんだったね。そこの決定権はしっかり握っているらしく、ミスティさんはいつもとは逆に不承不承、という感じで納得した。
まぁそんな訳で、口の悪いライヒもようやくここへきて僕たちと打ち解ける雰囲気を見せてくれた。やはり同じクエストをこうして大成功に導くという成功体験は、仲間としての絆を強くするのだな、と僕は思った。
ところが、僕らがギルド『居眠りドラゴン』への勧誘を促すと、ライヒは断固として断る方針らしかった。
「俺たちは確かに少人数ギルドだが、お前らの所帯に加わる気はない。基本はこの2人で組んでやるのが、ベストだと考えているからな」
「そう……残念。ウチとしては回復魔法が使えるライヒがいると、ありがたいんだけどね」
今回も回復担当は逃すことになったか、と僕は少しだけシュンとした。
「な、何だスレイド。そこまで落ち込むことか? 俺はお前とそこまで仲が良いつもりはなかったぞ」
僕のその態度に珍しく困惑するライヒ。
あ、なんか面白い。
「ライヒは素直じゃないからね。ま、こんな事言いながらしっかりスレイド君の能力も人格も認めているのさ」
「ミスティ!」
ミスティさんのからかいにライヒは赤くなって怒り出す。
し、新鮮だなあ。
一緒にギルドで戦っていた頃も、こんな表情を見せた事はなかった。
ライヒは常に冷静沈着で、戦闘では分析担当。毒舌家の部分は僕以外からもやや煙たがられていたけれど、仲間の傷や怪我はいち早く気付いて癒してくれるという、生粋の白魔道士でもあったのだ。
だから僕は彼が嫌いにはなりきれず、毒舌には困りつつもそれなりに協力関係を結んでいた。
「おい、何をニヤニヤしているんだ。変な勘違いをするなよ」
僕はどうやら表情に出ていてしまったらしい。
リーピアはその様子を見て面白くなさそうにムクれる。
「……スレイドって、男女関係なくそういう風に誑し込む所、あるわよね」
ジトーッと僕のほうを見て非難めいた言葉を投げかける。
それは誤解だよ!
僕に男色のケはない!
「ははは、まぁ両ギルマスの友誼も結ばれ、仲が深まったところで……ここはひとつ、どうだい。ギルド同盟を結んでおかないかい?」
と、ミスティさんが折衷案的な事を言い出した。
「ギルド同盟……なるほどね、それは良いかも」
ギルド同盟とは、ギルド同士が不戦協定を結んでおくであるとか、例えば今回のような共闘関係を行うにあたって、事前に色々と取り決めをしておくものである。この同盟を結んでおくと、共闘に際して毎回のように取り分に関する揉め事が発生したりしないし、意思疎通や連絡も密に取りやすくなる。同盟自体を冒険者ギルドに申告しておくので、能力や人数の構成を考慮して、冒険者ギルドが斡旋してくれる仕事も、段違いにマッチ度が上がりやすくなる。
つまり、基本的に良いことづくめなのだ。
「良いんじゃない? 私は賛成」
「なんだ、同盟か? 良いんじゃないか、同じ状態異常を与える能力が主体のギルド同士、相性も良いしな」
「アタシも賛成っス!」
「わ、私も」
ウチのメンバーは口々に賛成してくれた。さて、肝心のライヒはどうだろう。
「ふ、ふん。まぁ、お前がどうしてもウチのギルドと同盟を結びたいというなら、俺は吝かではないがな」
……吝かではないの使い方、多分間違えてるよ。それ、自分からやりたい、って意味だからね。僕は苦笑して、ライヒの素直じゃない返答を飲み込む。
「じゃ、よろしくね。ライヒ」
僕は握手を求め、ライヒはふん、と顔を逸らしながらもしっかりと僕と手を結んでくれるのだった。
(つづく)
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