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おやすみヒプノシス  作者: 0024
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38.スタン・ミスト

無敵催眠(おやすみヒプノシス)、かぁ。なるほどねえ」


「ふん、なるほど。スレイドが曲がりなりにもギルドマスターを務めているのは、そういう訳か」


 ミスティさんとライヒが納得したように頷く。

 僕らは相手側が先に奥の手である『麻痺霧霞(スタン・ミスト)』を明かして来てしまった以上、自分達の能力を隠すのはフェアじゃない……と判断し、念の為全員の同意を得てから、僕とリーピアが代表して説明したのだった。


「……って訳でね、あんまり悪目立ちしたくなくて、なるべくこの能力の事は内緒にしているんだ」


 と僕が説明するとライヒは呆れたように言う。


「スレイド。お前の認識というか、そもそもの前提が今ひとつズレているようだから言っておいてやるが、S級クエストを受けるような連中は、その位のスキルはザラに持っているし、隠す気もそんなにないぞ」


「え、ええっ……?」


 僕は困惑したようにライヒを見る。

 鵜呑みには出来ないが、実際に彼らは二人の能力を組み合わせた合体能力(クロススキル、とミスティさんは言っていたな)…… 麻痺霧霞(スタン・ミスト)を用いてS級相当のクエストを別の町でこなしてきたという。


合体能力(クロススキル)としてではなく個人としてその位の固有能力(ユニークスキル)を持ち合わせる連中もいたぞ。S級ってのは、詰まるところそういう冒険者の集まりだ」


 僕は目から鱗だった。

 ひた隠しに隠してきたのに。

 そこで黙って僕達のやり取りを聞いていたミスティさんが口を挟む。


「ちょっとライヒ、君の発言はやや偏り過ぎだよ。ごめんねスレイド君。彼の言う事も確かにS級冒険者の一側面ではあるが全てじゃない。鵜呑みにするのは危険だよ」


 そのフォローに、今にもライヒに噛み付こうとしていたリーピアが口を引っ込める。更にミスティさんは続ける。


「それに、私は君達が能力を隠していたのは当然の流れだと思うよ。君の経歴を考えれば、そんな急激な成長は、確かに不審がられる」

「でしょ! やっぱミスティは話が分かる!」


 リーピアは助け舟を出してくれたミスティの言に、大いに同意する。僕もその言葉に、励まされるような心持ちだった。

 そしてミスティさんは最後に、


「私達が不審に思われなかったのは、ひとところに腰を据えて活動するタイプの冒険者じゃなかったから、という側面も大きいしね」


 と締め括った。

 これにはライヒも黙らざるを得なかった。

 完璧な論破だ。

 ミスティさん、相当口が上手いな……と僕は感心しきりだった。

 そこで慎重派のガルデが、彼らのクエストへのスタンスを確認するかのように言った。


「で……結局のところ、お前たち『霧縛りの魔術師』は、その能力(スタン・ミスト)をフル活用してS級クエストをこなしていると?」

「目立たないようにだけどね」


 ミスティさんはそんな風にサラリと答えるが、S級クエストをこなす時点で目立つのは避けられない。

 恐らくさっき言ったように、あちこちの町を渡り歩く事で悪目立ちを避けるように上手く立ち回っている……という事だろうな。ミスティさんの案なのか、ライヒの考えなのかは分からないけど。


「た、為になりますね。私達、目立つのを恐れて能力をフル活用出来ませんでしたから」

「そっスね~。まぁそれだけじゃなくて、やっぱ巻き込む恐れがあるってのがデカいっスけど。ブライアがいてくれるとはいえ、何の説明もなしに味方に暗闇かけたらビビられるでしょうし」


 ブライアとフリッターもそんな風に会話している。


「ふん、不便な能力だな。敵と味方の区別も付けられんのか」


 ライヒはそこでまた毒を吐く。


「なぁによ!? アンタたちの能力なら区別つけられるってーの!?」


 リーピアがまたしても怒髪衝天し、ライヒと喧嘩しそうになるが、ミスティがぽこん、とライヒの頭を殴る。


「なっ、何をするミスティ」

「君、余計な言葉が多すぎる。これから一緒に戦う仲間に、無駄に喧嘩を売ってどうするんだい」


 そうしてミスティがごめんね、こいつの毒舌はそのうち直させるからさ、と言いつつ、自分の能力の詳細を語り始める。


「そういえば、私達の『麻痺霧霞(スタン・ミスト)』の事はあまり詳しく話していなかったね。まあ、さっきの説明でほぼ終わりと言えば終わりなんだが……」


 曰く、『麻痺霧霞(スタン・ミスト)』も元はと言えばそれぞれの固有能力である

毒霧霞(ポイズンミスト)

 と

麻痺(スタン)

 を組み合わせたものらしい。


毒霧霞(ポイズンミスト)』がミスティさんの能力で、『麻痺(スタン)』がライヒの能力。

 僕はライヒがそんな能力を持っていたのは知らなかった。白魔道士としての回復・治癒系の魔法しか僕といた時は使っていなかったからな……あとは簡単な身体強化(バフ)系か。


「全ての奥の手を見せるには、あの頃は俺も弱かったからな」


 とは、ライヒの言である。


 そして『毒霧霞(ポイズンミスト)』は、ミスティさんがリーピアと別れる直前くらいに発展させた能力らしい。それ単体でもそこそこ使える、広範囲に毒を含んだ霧をばら撒いて、モンスターを徐々に弱らせるという便利な能力らしい。


「この能力もA級下位くらいまでなら結構活用できたんだよ。でもね、やっぱり敵が強くなると、毒に耐性を持っていたりしてね……そこで、ライヒに出会って、彼の『麻痺(スタン)』と同時発動させた時、気付いたんだ」


 私達の合体能力は、敵を超広範囲に渡って、麻痺させることができる。

 そう、ミスティさんは言った。


「俺の『麻痺(スタン)』は本来は1~3体相手が限界の狭い範囲の能力でな。役に立たないという程ではないが、A級中位からは正直、あまり活用は出来ていなかった」


 ライヒも自らの固有能力について的確な分析を語る。彼は口は悪いが、別段自信過剰とか、尊大すぎるという訳ではない。単に彼我の力量みたいなものを冷静に見て、それをそのまま口に出し過ぎてしまうだけだ。

 まぁ、現時点では『無敵催眠(おやすみヒプノシス)』を目の当たりにしていないから、実感として僕たちの能力がどのくらいのものなのか、判断出来ていないだけだろう。後でちゃんと、評価し直してくれるよね、と僕は思った。


「ところが私の能力と組み合わせる事で、彼の麻痺は私の霧に()()()()()、しかも私の操作する()()()()()()()()()、敵を麻痺させていけるようになった訳だ」


 僕たちはその説明を受けただけで、『麻痺霧霞(スタン・ミスト)』が『無敵催眠(おやすみヒプノシス)』に勝るとも劣らない反則能力だという事実に戦慄する。


「これは大きいよ。何せ、基本近距離でしか使えなかった麻痺が、遠距離でも使える。それに、私の霧の操作は結構、細かい事が出来てね。敵味方の区別は勿論、敵も個別に選んだりできる。まあ、どうせ使う時は範囲制圧になりがちだが……あ、それと、どうでも良い事かもしれないが、毒の効果のほうは実は消えちゃっててね。体力を削る事は出来ない」


 と、ミスティさんは合体能力の制約なども含め、細かな説明を終えた。


「はぁ~~~……凄いわね」


 リーピアは全てを聞き終え、素直に感心していた。僕も同じ気持ちだった。


「そんな便利で強力な能力を手に入れたのなら、S級を2人でこなせるのも納得だよね」


 僕はそう言う。


「お前らの能力は、補助が要るんだったか? ブライア……といったか、彼女の、ええと……『視界封印(サイトシール)』と『心眼開花(ハートアイ)』……」

「あっ、はい。そうですね、私の能力がないと、味方を巻き込んでしまう恐れがあるので……」


 ライヒの再確認に、ブライアは答える。


「まぁ、アタシらがいなくてスレイドとリーピアだけなら気にする必要ないんスけどね」

「何言ってる。5人で一緒にクエストをこなす上では、必須だ」


 フリッターとガルデがそんな風に言うが、ライヒは鼻で笑った。


「仲良しごっこだな。スレイド、リーピアの2人で十分だろ」


 僕はカチンときた。

 僕自身をどう嘲られようが、僕はどうとも思わない。慣れているしね。

 でも、仲間との絆をそういう風に評されては、黙っていられなかった。


「あのねライヒ。僕達は信頼し合って、ここまで到達できたんだ。僕とリーピアはそりゃ、相棒(バディ)で恋人だけど、僕達だけじゃきっとS級なんてこなせなかった。そう思ってる」


「『無敵催眠(おやすみヒプノシス)』の能力への自覚が足りないだけじゃないのか? 多少不便な所があるな、と思ったが、よく考えればお前ら2人で戦ったほうが効率がいいだろ。逆に、わざわざ足手まといを連れ歩く理由が、仲良しごっこそのものだと言うんだ」


 どうやらライヒは、僕らの能力を過小評価しているというより、その制限になっている『仲間との行動』に一言物申したいようだった。僕はなおも反論しようとしたが、


「はいはいライヒ! そこまでそこまで! 何だいスレイド君も売り言葉に買い言葉なんて、さっきから見てる君の性格に似つかわしくないね? 仲間を侮辱されたようで、頭にきたかい?」


 ミスティが間に割り込み、喧嘩を仲裁する。

 僕はグッとこらえ、頷く。


「そうかい。まぁ、君たちの仲の良さを見る限り、そりゃそうだよね。ライヒ、謝りなさい」

「俺は正論を」


「謝 り な さ い」


 笑顔の圧力が凄かった。

 ライヒは素直に僕らに頭を下げ、ぽつりと言う。


「……済まなかった、言い過ぎた」


 み、ミスティさんはライヒの何なんだろう。なんだか、まるで怖いお母さんみたいだ。


「よし。ま、私からも謝るよ。こいつは、どうも冒険においてロマンよりも効率を重視しがちでね。私も度々苦言は呈しているんだけど」


 と、ミスティさんは自身もギルメンの非礼を詫びた。

 ん?そういえば、ミスティさんとライヒはどちらがマスターなんだろう?


「一応俺がマスターだ。冒険者としての経験の長さで、ミスティが俺を推挙した。……向いてないと思うがな」


 あぁ……うん。完全に尻に敷かれてるもんね。

 空気が落ち着いたところでリーピアが言う。


「ねぇミスティ、それで、共闘してまで倒したい奴って、何?」

「そうそう、それが本題じゃあないか。すっかり忘れてたよ」


 ミスティさんはポンと手を叩いて、ぴらりとクエストのチラシを見せてくる。


「こいつが、今回の獲物だよ。何せ敵の数が多く、物量作戦になる。私達の能力なら、敵全体を制圧するのもかなり楽に行けそうだが、ね」


 そうしてミスティさんが見せてきたクエストの内容は……


 S級クエスト・『漆黒(ダーク)スライムの駆除』


 だった。


(つづく)

おやすみヒプノシスをお読みいただきありがとうございます!


恐れ入りますが、以下をご一読いただければ幸いです。


皆様からのブックマーク、評価が連載を継続する力になります!


【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると幸いです!


また、つまらなくても★ひとつ頂ければと思います。


感想・レビューなどを頂けると、展開もそちらを吟味した上でシフトしていくかもしれません。


何卒よろしくお願いいたします!

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