32.デート
「2人だけでクエスト?」
「たまには良くない?」
発端は、リーピアがそんな事を言い出したことだった。
曰く、S級まで行けたギルドメンバーがわざわざ毎回5人でゾロゾロ行くなんて非効率じゃない?との事だ。そういえば、ガルデを仲間に加えてからというもの、基本的に僕たちはパーティで寄り集まって活動してたね。
「良いよ。じゃあ、行こうか。何を受ける?」
「えっと……これ、なんだけど」
僕はそれを見て、えっ?という顔をした。
B級クエスト?
「なんでまた?」
流石にS級を(5人がかりとはいえ)クリアした僕たちにとって、今更感のあるクエストだった。敵の強さも、B級下位。
ハッキリ言って、僕たちが出会ってすぐの頃でも、どうにかなるレベルだ。
「だ、だって……クエストが長引いたら……夜遅くなっちゃうでしょ?」
「……」
もしかして。
クエストに2人きりで行こうって言うのは、ただの口実か。
メインの目的は……デートしたいと。
「いや。だったら普通にデートで良いじゃん」
僕は身も蓋もない事を言うが、まぁこれは正論だろう。
「で、ででで、デートってそんな」
何をいまさらデート如きで照れているんだろう……あの衝撃の告白からずっと、ギルドメンバーの前でイチャコライチャコラしてたくせに。
「じゃあ、クエストは受けずに、2人でどっか行こう。皆にはそう言っておけば良いでしょ?」
「か、帰りが遅くなったら言い訳のしようがないわ!」
この期に及んで何やら尻込みするリーピアに僕は呆れて肩を落とす。
「何を言い訳するってのさ……」
二人ともいい大人だし、恋人同士になった以上、別にそういう事があっても普通じゃないか。
僕はそれなりの年齢なので、そんな風に思う。
「わ、分かったわ……」
リーピアは何かを決意するように、じゃあどんな服が良いかしら!とか言い出す。余所行きの服なんて特に買ってなかったろうし……どんな服も何も。
「ああ、じゃあ服を買いに行こうか? 戦闘用じゃなくて、普段着か、余所行きっぽいの」
僕は何となくそう提案してみた。
「いっ、良いの!? そんな恋人っぽいこと……!」
……だからなんでそんなに躊躇うんだろう。相変わらず支離滅裂なリーピアの言動に僕は不思議な顔をする。
「良いよ、行こう」
また話がこじれても面倒だし、僕はリーピアの手を引いてギルドメンバーの皆に今日は遅くなるかも、と言って出掛けた。
その様子を見てガルデはやや驚いたように笑って、ブライアは口に手を当てて顔を真っ赤に、フリッターはヒューッ!!といつものクッソうざいノリで茶化していた。
まったく、もう。
◆◆◆
「て、手とか繋いじゃおうか……?」
「良いよ。はい」
ギルドハウス内で死ぬほど新婚ごっこみたいな事してイチャイチャしてきたリーピアも外では流石に大人しいものだった。
内弁慶っていうか、案外純情っていうか。
僕も人の事言えないけどね。
「うひゃぁ……わ、私ホントにスレイドの恋人してる……あ、つ、繋ぎ方は、こうね」
「恋人繋ぎ? うん」
僕はリーピアが手のひら同士を合わせてギュッと握り締める、いわゆる『恋人繋ぎ』を求めてきたので応じる。
「うううう、スレイドなんでそんなに積極的に出来るの……!?」
「ギルドハウス内での君の行動を鏡で見てから言おうね、リーピア」
もう。
そんなに照れられたらこっちまで恥ずかしいよ。
相変わらず僕たちは戦闘面と違って妙に噛み合わないチグハグさで、なんとかようやく『恋人』らしい事をしている気がする。
「はー……幸せ……ずっとこうしてたいって、思ったのよね」
「じゃあ、何でずーっとはぐらかしたの?」
僕は疑問に思っていたことを口にする。するとリーピアは。
「は、はぐらかしたつもりはないの。ただ……勇気がなかったっていうか……」
「……」
分からないものだな。僕はずっと、リーピアの気持ちは知ってたつもりだし、ヤキモチなんて妬かないで、みたいな事も言ってた。彼女が酔い任せに告白した時は、まぁ僕も多少悪かったと思うけど、そもそも何でそういう風になったのかっていうと、やっぱりリーピアが僕をからかうだけで全然真剣になってくれないのが理由だったわけで。
でもそれが『勇気がなかった』から、と言われても僕には納得しかねるところがあった。すると、
「……スレイドって、ちょっと『察して欲しい』みたいなところ、ない?」
急にリーピアが僕を非難めいた口調でチクリと刺してくる。
「何、急に。それを言ったら、リーピアもそうじゃない?」
僕は思わず売り言葉に買い言葉で反論してしまう。またぞろケンカになってしまうかな、と少し警戒したが、
「私はその……ゴメン、そうね」
思い当たるフシがあるのだろう、リーピアは普通に謝った。
少しの沈黙の後、僕はポツリポツリと語り始める。
「……別に察して欲しいなんて思ってないけど、まぁこないだリーピアが酔っ払ってる時に言ったけど憶えてないだろうから改めて言うよ。僕はずっと、リーピアが僕の気持ちに気付いてるって思ってたんだよ」
するとビックリしたようにリーピアは言う。
「気付いてないわよ!? 私はその、ずっとからかうみたいなアプローチはしてたけど、ぜんぜん乗っかってくれなかったじゃない!」
ちょっと怒ったようなその言葉に僕は項垂れる。
「そういうノリで押し通すのって苦手だったんだよ……もっとちゃんと、真面目に言いたいっていうかさ」
「ムードが欲しかったって事? 身体より精神性っていう意味?」
身体って。割と露骨な表現で尋ねてくるリーピア。
「……まぁ、有り体に言うと、そうだね」
するとリーピアはニヤニヤと笑って言った。
「乙女か~~~??? スレイド君ってば、ほんっと年齢の割に純情よね~!?」
「ウザいよ」
僕はバッサリと切り捨て、こつんとリーピアの頭を小突く。
まぁ、僕が女々しいというか、男らしいところのあるリーピアの性格に較べると若干、若干だけどロマンチストな所があるのは否定しないよ。
いや、でも恋愛においては男のほうがロマンチストだって一般的には言われるのかな?
そういう意味で言うと、リーピアの直接的なアタックは、リアリストでドライな彼女の性格だけでなく、女性的な感性と言えなくもないのか?
「……いやぁ、個々人によりけりだな」
男・女でカテゴライズするのは意味がないな、と僕は思い直して、まぁ、これはリーピアの直接的な割には迂遠に思えた性的アピールの数々と、僕の受動的かつ精神性を求める性格の噛み合わなさが生んだ齟齬、すれ違いなのだろう。
やがてからかいノリを引っ込めてリーピアが呟く。
「……スレイドがそういう風に『リーピアはきっと分かってくれてる』って思ってるうちは、私は踏み込めなかったわよ。私としては、ずうっとその……す、隙を見せてきたつもりだったんだけど、スレイドは全然乗ってくれないから。……正直私に、女としての魅力がないんじゃないかって、凹んじゃう時もあったし」
「あぁ……」
通じ合わないもんだなぁ。
これだけお互いの能力が噛み合っている二人なのに。
気持ちは、すれ違ってばかりだ。
「ていうか何? 今日は随分積極的に乗ってくれたけど、私と最後まで行っちゃう気があるって事?」
「……あの、お外でそういう事を言うのは流石にどうかと思うんだけど、まぁね」
僕は正直に答える。するとリーピアは赤くなった。
「……へ、へぇ……」
モジモジと指を弄んで、何やら想像している様子。
「状況によりけりだよ」
僕は一応そんな風に言ってみるが、まぁ、今日は遅くなる、とまで言ってデートに出かけたのである。外の宿で休憩しようがお泊りしようが、そりゃもう僕らの勝手だ。
「うう……あれだけからかってきたのに、急にそういう関係になるとやっぱり尻込みしちゃう……」
「リーピアってそういうトコあるよね」
積極的なんだか、消極的なんだか。
逆に僕は、状況的にもう恋人状態で確定している今だからこそ、さらりと覚悟を決める事が出来ている。
「ま、リーピアの覚悟が決まらなかったら先延ばしでも別に良いよ。僕は焦らないから」
「む、むぅ……人をチキンみたいに……」
僕が笑うと、リーピアはむくれた。
「それより、まず服を買おう。リーピアに似合いそうな、スポーティなのが良い? それとも、たまにはフリフリの可愛い服とか?」
「……ううん、私らしいのが良いかな」
なら。
彼女に似合う、とびきり可愛い服を見繕おう。
恋人として、ちゃんとした事をしたいからね。
僕はそう決意すると、まず1軒目の服屋さんに入っていくのだった。
(つづく)
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